りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

花咲舞が黙ってない(池井戸潤)

f:id:wakiabc:20201122140504j:plain

『不祥事』や『銀行総務特命』を原作としたTVドラマ「花咲舞が黙ってない」は、主演の杏さんの魅力を引き出してくれた素晴らしい作品でした。本書は、著者には珍しくドラマを意識しながら書かれた『不祥事』の続編です。なんと別の大人気シリーズの主要キャラも登場するという、サービス精神に溢れた作品です。

 

「たそがれ研修」

外食チェーンの出店計画という重要な顧客情報を流した者が、行内にいるのでしょうか。銀行に全てを尽くしたあげくに突き放されるサラリーマンの悲哀はわかりますが、勘違いした甘えを恨みにすり替えるなんてもってのほかですね。小気味よい花咲舞の啖呵には、「憑き物落とし」効果もあるようです。

 

「汚れた水に棲む魚」

反社会勢力のマネーロンダリングに銀行が利用されていたという由々しき事態を掴んだ花咲舞でしたが、その事実は隠蔽されてしまいそうです。なんと裏では銀行合併を見据えた「清濁併せ呑む」工作が進んでいたのです。これを指揮しているのが、牧野頭取の匿名を受けた紀本企画部長というと、別のTVドラマを思い出す人も多いでしょう。紀本から特命を受けた昇仙峡玲子は、必ずしも花咲舞らの敵というわけではなさそうですが・・。

 

「湯けむりの攻防」

別府温泉全体の魅力をアップさせるという老舗旅館の投資計画は魅力的ですが、担保がないと融資できないというのは日本の銀行が力不足のせいですね。しかし別の重大案件でそこにきていた、凄みを感じさせる産業中央銀行の若い社員には、先見の明があったのです。その男とはいったい・・。

 

「暴走」

花咲舞が務めている東京第一銀行と産業中央銀行の合併が発表になって、行内は揺れ動きます。支店の統廃合は必至であり、合併前の勢力争いも激化する中で、手抜き工事スキャンダルを起こした建設会社への融資に問題はなかったのでしょうか。花咲舞らはライバル行にまでヒヤリングに赴くのですが・・。

 

「神保町奇譚」

病死した娘の口座で巨額の入出金が繰り返されていたのは何故なのでしょう。そこには投資会社に翻弄されたベンチャー企業の意地が秘められていたのです。めずらしく不祥事ではない、ほっこりする作品でした。

 

「エリア51」

売上不正計上が判明した巨大電機会社に対して、なんと銀行が隠蔽工作を依頼していたのではないかとの疑惑が持ち上がります。紀本常務は会長からの指示で調査を中断。執拗に粘った花咲舞の上司の相馬次長は左遷されてしまいました。誰も手が付けられない銀行の陰部とは、どういうことなのでしょう。

 

「小さき者の戦い」

電機会社への隠蔽工作には有力政治家が絡んでいるのでしょうか。あくまでもしらを切り続け、トカゲのしっぽ切りを画策する銀行上層部には、花咲舞など虫ケラ同然なのでしょうか。しかし彼女は最後の手段に出るのです。彼女は、やはり不正を憎んでやりきれない思いをしている昇仙峡玲子に凄まじい依頼をするのです。そして最後に産業中央銀行の中野渡企画部長と、あの凄みある人物が登場。大人気の2つのシリーズは地続きだったのですね。ドラマ化して欲しいものですが、杏と堺雅人の共演など無理なのでしょうね、やっぱり。

 

2020/12