りぼんの読書ノート

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ラ・ロシュフーコー公爵傳説(続)堀田善衞

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ラ・ロシュフーコー公爵の『箴言』にある言葉を少し紹介しておきましょう。彼が生きた17世紀フランスは、絶対王政が確立していった時代として纏められますが、その一方で名門貴族階級の弱体化と新興ブルジョワジー階級の成長が起こっていました。旧態依然たる身分社会が解け去っていく兆候が現れていたのです。同時に、これまで歴史の陰に隠れていた女性たちが表舞台に登場するようにもなってきたのです。 

 

この時代を「女の世紀」と呼んだ主人公は、多くの猛女たちと関わったようです。ルイ13世の皇后アンヌ・ドートリシュの傍らで反リシュリューの陰謀を企てたシュヴルーズ公爵夫人からは気に入られ、貴族たちをフロンドの乱に立ち上がらせたロングヴィル公爵夫人とは愛人関係にあり、晩年にはランブイエ侯爵夫人や、ラ・ファイエット夫人や、サブレ侯爵夫人などの才女たちとも親しかったようです。そんな主人公ですから女性に関しては多くの言葉を遺しているのですが、どうやら痛い目に合わされた記憶の方が強かったようです。今の時代にこんなことを言ったらセクハラですね。 

・「大部分の女性の才気は、彼女らの理性よりも狂気を強めるのに役立つ」 

・「女の愛想のなさは、本来の美しさに付け加える身繕いであり、紅白粉である」 

・「女の貞節は、多くの場合、自分の名声と平穏への愛情である」 

 

もちろん恋愛についての箴言も数多いのです。 

・「愛の在り方は一つしかないが、その様々な模造品は百千とある」 

・「愛はその作用の大部分から判断すると、友情よりも憎悪に似ている」 

・「真の恋がいかに稀あるとしても、真の友情よりはまだしも稀ではない」 

・「嫉妬はつねに愛とともに生まれるが、必ずしも愛とともに死にはしない」 

 

しかし男女の恋愛についてはまだマシなほうで、自己愛や虚栄心についてはもっと辛辣です。 

・「自己愛とは己れ自身を愛し、あらゆるものを己れのために愛する愛である」 

・「自己愛はわれわれの目に似ている。何でも見えるが目そのものを見ることができない」 

・「虚栄心はあらゆる美徳にゆさぶりをかける」 

・「虚栄心だけは絶えず我々を煽り立てる」 

 

さらに「虚栄心の兄弟」とされる情熱や、人間の美徳についても手厳しい。 

・「情熱はしばしば最高の利口者を愚か者に変える」 

・「情熱は往々にして、それ自身とは逆の情熱を生む」 

・「われわれの美徳は、ほとんどの場合、偽装した悪徳に過ぎない」 

 

かなり長く引用してしまいました。ほかにも人間性についての多くの辛辣な言葉が並ぶのですが、彼の人生観がストレートに表れている有名な2つの箴言を記して、この項を終えようと思います。 

・「人は決して自分で思うほど幸福でも不幸でもない」 

・「太陽も死もじっと見つめることはできない」 

 

2020/9