孔子に敵対する一味の首領である少正卯が不在の間に暴走しているのは子蓉だけではありません。悪悦もまた、孔子の使者である公伯寮を取り込み、費城を守る公山不狃らと孔子の関係に軋みを生じさせます。悪悦は、李孫氏の家裁を務める孔子門下の子路が率いる主軍を躱して、空になった魯の都城・曲阜を攻めよと公山不狃に進言するのですが・・。
その曲阜の巷では、不審な者たちが不穏な動きをしているようです。その中心にいるのは、恐るべき呪具の鏡を通じて子蓉の媚術に操られてしまった無垢な美少女・妤であるようです。しかも彼女の近辺には、本来は顔回の守り役である五六がはべっているのです。彼もまた子蓉に取り込まれてしまったのでしょうか。彼の師にあたる太長老の守り役・顔穆の横死に動揺していた五六にも、大きな隙があったのでしょう。
これまで五六のことはあまり触れていませんでしたが、強い使命感を抱きながらも時に感情を顕わにする五六は、このシリーズの中でも一二を争う好ましい人物です。「立てば五、横になれば六」の形になる傴僂という身体的特徴から、その名があるとのこと。もともと俗世間から外れたところで生きる巫儒の中は、「優倡侏儒」と呼ばれる芸人たちも多く含まれていたようです。物語はひとつの山場に向かいつつあります。
2020/8再読