りぼんの読書ノート

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眠れないほど面白い『古事記』(由良弥生)

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最近では池澤夏樹編 日本文学全集』の第1巻で『古事記』を読みましたが、この種の本は何度も読んで記憶に残るもの。本書は「愛と野望、エロスが渦巻く壮大な物語」という煽情的な副題がついている入門書ですが、基本的な物語はおとんど収録されています。もともと『古事記』は神々や皇族の恋愛物語が中心であり、万世一系の皇統を伝えるためにも恋愛こそがキーポイントなのですから。 

 

イザナギイザナミの物語である「国生み神話」、アマテラスとスサノオの「高天原神話」、スサノオがオロチを退治する「出雲神話の前半」、オオクニヌシが国造りをする「出雲神話の後半」、高天原による「出雲制圧神話」、ニニギによる「天孫降臨神話」、海幸山幸を中心とする「日向神話」までが上巻。この辺りは基本ですね。 

 

中巻は初期の天皇たちの物語。初代神武天皇による「東征」と2代綏靖天皇による「義父殺害」。10代崇神天皇による「疫病制圧」。11代垂仁天皇時代の「サホヒメ・サホヒコの反乱」。12代景光天皇時代の「ヤマトタケル伝説」。13代成務天皇時代から大臣を勤めた「武内宿禰」。14代仲哀天皇の「神宮皇后による三韓征伐」。15代応神天皇の「異母兄弟カゴサカ・オシクマとの皇位継承争い」。そして再び皇位継承争いを制した16代仁徳天皇が即位して下巻が始まります。 

 

「聖帝」と呼ばれた仁徳天皇は「竈の煙」に始まる善政と、皇后イワノヒメの嫉妬で有名です。吉備のクロヒメ、異母妹のヤタノワキイラツメとの恋愛はともかくとして、異母妹メドリへの恋愛はハヤブサワケの乱にまで発展してしまいます。 

 

17代履中天皇、18代反生天皇、19代允恭天皇はいずれも仁徳天皇イワノヒメの息子であり、兄弟相続が行われました。次代天皇となるはずだったキナシノカルノミコは同母妹のカルノオオイラツメとの恋愛というタブーを犯して流刑を授かった後に自害。次弟が20代安康天皇に即位しますが、讒言で殺害した叔父の妻を皇后に立て、連れ子のマヨワに殺害されるという事件が発生。21代雄略天皇はマヨワをはじめとして兄弟・従兄弟らを粛清。その一方で大和王権の力を飛躍的に拡大させたことが、多くのヒメたちとの情交エピソードを生んだのでしょう。しかし息子の22代清寧天皇が若死にすると、雄略天皇に殺害された皇族の遺児兄弟が23代顕宗天皇、24代仁賢天皇となって報復が行われるのでした。 

 

その後の33代推古天皇までは、まだ近い時代の事柄であるためなのでしょう。エピソードは残されていません。こちらはもう「歴史」になるのです。 

 

2020/6