りぼんの読書ノート

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湖底の城 9巻(宮城谷昌光)

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ついに呉越の長い戦いに決着が着く時が訪れます。越がひたすら恭順の意を魅せながら富国強兵策に努めている間に、呉は中原の覇者の座を狙っていたずらに国力を浪費。呉の行く末を見限った伍子胥は、息子を斉に預けたことを讒言されて、夫差から自害を命じられてしまいます。かつての功臣の末路は悲惨なものでしたが、彼の生きざまは伝説となって長く伝えられることになります。 

 

越王句践は、呉軍が遠征している隙を狙って出師。この時は泓水の戦いに勝利したものの決着はつかずに講和を飲みましたが、2年後に再戦が行われた時にはもはや呉の国力も夫差の命運も尽きようとしていました。笠沢の戦いで大敗した呉はついに滅亡へと至るのです。しかし勝利者となった句践もまた、猜疑心から優秀な人材を粛清したことで、徐々に衰退への道を歩み始めるのです。 

 

「狡兎死して走狗烹られる」ことを予測していた范蠡は事前に越を去り、他国で大富豪となったとの伝説が遺されています。さらに著者は晩年の范蠡に素晴らしいプレゼントを用意してくれました。彼が密かに生命を救った西施と再会して余生を過ごすのです。 

 

「呉越春秋」とは復讐の物語でした。しかし著者が訴えたかったことは、復讐のむなしさなのでしょう。父と兄の仇である楚の平王の死骸を鞭打った伍子胥の生き方は鮮烈でしたが、幸福を手に入れることはできませんでした。悔悛の中で自刎した「臥薪」の呉王夫差はもちろん、家臣を失った末に早世した「嘗胆」の越王句践もまた、最後は幸福ではなかったのですから。 

 

2020/6