りぼんの読書ノート

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湖底の城 4巻(宮城谷昌光)

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シリーズ第4巻は、楚の公子光が王位に即位するまでの過程が描かれます。その直前に起こったのが、呉王の楚への親征でした。伍子胥は公子光の参謀として参陣し、鐘離の陣、雞父の戦いで楚軍を圧倒して凱旋。かつて父が仕えていた廃太子健の母親を連れ帰り、呉で厚遇を受けている孫と再会させます。これで太子への義理は果たし切ったということなのでしょう。 

 

さて呉の初代王・寿夢の直系の長孫である公子光は、かねてより父の弟の息子が王となっていることに不満を抱いていました。もともと王位は寿夢の長子である父から弟に継承されたのですが、弟は兄の長子である公子光に王位を戻さず、自分の息子に渡してしまっていたのです。伍まずは子胥は公子光に対して、先手を打って彼の謀殺を図る王への対策を授けます。 

 

秘策として「黄金の盾」を準備させるのですが、これを苑の商人・范氏に注文に行ったる鱄設諸が、まだ少年であった范蠡と出会うというエピソードは史書に由来しています。しかしこれは事態の急転に間に合いませんでした。急場を救う策として準備させたのが、巨大な魚だったのです。かくして鱄設諸は暗殺者として名を遺します。そして新王・闔閭は名君となり、呉に黄金期をもたらすことになるのです。 

 

本巻で印象に残ったのは、伍子胥が、呉王暗殺後に太子であった諸樊をあえて逃がしたこと。父子ともに殺害したとなると新王に極悪非道との評判が立ち、国民からも諸国からも厳しく見られるというのです。さらに、なにかひとつ憂患を抱えていたほうが慎重になり、取り返しのつかない過失を犯しにくくなるというから、これも深い配慮です。 

 

2020/6