りぼんの読書ノート

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湖底の城 3巻(宮城谷昌光)

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奸臣・費無極の讒言を入れて父と兄を処刑した楚の平王への深い怨みを抱いて、伍子胥は祖国を脱出。宋の首都・商丘で配下たちと再会を果たした後に、父が仕えていた太子健の亡命先である鄭へと向かいます。宋では親友・申包胥のし庶弟である褒小羊という童子を預かることになりますが、彼もまた複雑な事情を抱えていたのです。 

 

しかし鄭でまみえた太子は、伍子胥が思い描いていたような名君ではありませんでした。さらに援軍を得ようと赴いた晋でそそのかされ、晋軍を迎え入れて鄭を得ようと挙兵するとの愚を犯して処刑されてしまいます。「太子を擁すべし」との父の遺言から解き放たれた伍子胥は、太子の遺児たちを連れて、南方の新興国で楚の仇敵となっている呉へと向かいます。 

 

呉では先王の末弟で世人の尊敬を集めている李子の紹介で、公子光の賓客となります。かつて伍子胥の父が呉の王家に恩を売っていたことも影響があったようですが、これは運命の出会いですね。公子光こそが後の呉王・闔閭となるのですから。呉もまた王位継承を巡る内紛の芽を抱えていたのです。 

 

呉への亡命は、伍子胥の身を固めさせることにもなりました。思いがけずも初恋の人であった小瑰と再会したのですが、彼女もまた辛い過去を背負っていたようです。乱世いおける敗者の姫君の運命は、どこの国でもいつの時代でも厳しいですね。 

 

この巻で印象に残った言葉を記しておきましょう。同時代人でもあった孔子からも絶賛された鄭の名相・子産の言で「大きな徳をもった者だけが寛大な政治を行うことができる。次善の者は厳格な政治をおこなったほうがよい」というものです。含蓄に富んだ至言でしょう。 

 

2020/6