りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

なんらかの事情(岸本佐知子)

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筑摩書房のPR誌「ちくま」に連載されているエッセイネにもつタイプの単行本化第2集。読む順番が前後してしまいましたが、第3集は先日読んだ『ひみつのしつもん』。彼女の頭の中は、彼女が翻訳したジュディ・バドニッツ並みに不思議な発想でいっぱいのようです。 

 

いかにも翻訳家らしく、文字に対する妄想は凄まじい。「め」と「ぬ」などの似た者同士は犬猿の仲で、「ぬめり」などという言葉で一緒になったら険悪な空気が満ちるのではないか。「ん」は最後尾で争いには参加しないが、いつの日か王様気取りの「あ」を出し抜いて五十音の先頭に立つ野望を持っているのではないかなどと言うのです。 

 

「A」かカラスの足。「B」は耳。「D]は餃子の皮もしくは中身だけ食べた後のオムライスの皮。この辺まではまだ理解できるけれど、「C」は母乳に塞がれて窒息しそうになった恐怖の記憶とか、「K」はテレタビーズを怖れていたとか、「M」は手編みの腹掛けをプレゼントした男の子に振られた思い出などとなると、理解が難しい。 

 

ちなみに「人間の耳」の形は一人負け状態だそうです。人間に動物の耳をつけると可愛くなるけれど、犬や猫やパンダやウサギに人間の耳がついていたら、壊滅的に可愛くなくなるので。その割に美容的には目や鼻や口ほど注目されない、気の毒な器官なのです。 

 

SF的な発想もおありのようですが、こだわるポイントは普通と違う。ダースベーダーは寝るときにお面を取るのかとか、有名な「連行される宇宙人」写真の宇宙人はどのくらいヤバイと思っているのだろうかには、思わずクスッとさせられます。獅子舞はエイリアンのような神様に寄生された恐怖の表現であり、鏡餅の前面に飾られるエビは神様の幼生だそうです。門松は人類の対抗策である波動砲の「はどう」がなまって「かど」になったなんて、もうついていけません。 

 

2020/4