りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ダブル SIDE A(パク・ミンギュ)

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三美スーパースターズ』で弱小球団を愛した男の再生を描き、『ピンポン』で世界を救った負け犬少年の真情を描き、『亡き王女のためのパヴァーヌ』でルックス重視の韓国でとてつもなく醜い女性への純愛を描いた著者の短編集が、『ダブル』として2分冊で発刊されました。上巻にあたる「SIDE A」には、SF的な作品が多く収められています。 

 

「近所」 

首都に出て成功者としての人生を歩んでいた主人公が、死病を得て帰郷。同級生たちと中学生の時に埋めたタイムカプセルを掘り返して当時の思い出に浸るのですが、それは友人たちが既に掘り起こしたものとは違っていたようです。それぞれが歩んできた人生が、過去を変えてしまったのでしょうか。 

 

「黄色い河に一そうの舟」 

仕事一筋で定年まで勤め上げた男の妻が痴呆症になってしまいました。それでも金をせびり続ける息子と娘に嫌気がさして、妻と1か月旅行した後に自殺しようと決意するのですが・・。人は冷蔵庫に残った1缶のビールにも喜びを感じることができるのです。 

 

「グッバイ・ツェッペリン 

小さな町のショッピングセンターの宣伝のために浮かべた飛行船を繋いだロープがほどけてしまいます。漂流した飛行船を追いかける宣伝会社の社員たちは、何を思うのでしょう。コミカルな中に悲哀が漂う作品です。 

 

「深」 

遠い未来、深海で生き延びる「ディーバー」たちは、もはや人類とは呼べないものなのかも知れません。上田早夕里さんの「オーシャン・クロニクルシリーズ」を思わせる、かなり本格的なSF作品です。 

 

「最後までこれかよ?」 

明日は彗星が衝突する地球最後の日だというのに、騒音の抗議に来た上階の男と一緒にその日を迎えるなんて、無意味で悲しいものですね。伊坂幸太郎さんの『終末のフール』と全く異なっているのは、国民性も関係しているのでしょうか。 

 

「羊を創ったあの方が、君を創ったその方か?」 

SF仕立てですが、「ゴ」と「ド」という登場人物が「何かを待っている」となると、サミュエル・ベケットへのオマージュなのでしょう。 

 

「グッドモーニング、ジョン・ウェイン 

舞台は29世紀。強烈なウイルスで地上社会は滅ぼされ、人類は地下に潜って生き延びています。そこには20世紀後半から不治の病に罹った権力者や大富豪が冷凍保存されていたのですが、かつて「韓国」と呼ばれていた地域で冷凍された男が目覚めて「ザブトンはないのか」と叫びます。これは全斗煥の有名な言葉であるとのことですが、かなり怖い作品です。 

 

「<自伝小説>サッカーも得意です」 

解説によるとこれは「西欧文明の影響を受けて生をスタートさせた韓国人が、外界人との接触を経て宇宙へと出ていき、韓国人の文学者に説得されて祖国へ戻るが、国家権力に脅され、父親としての責任に目覚めて文学に帰依する物語」だそうです。でも「僕の前世がマリリン・モンローだった」というのはおふざけにしか思えないのですが・・。 

 

「クローマン、ウン」 

不条理な理由で2つの階級に分けられた世界で、必死で生き延びている下層民の頭上には不思議な円形の光がうごめいているのです。どうやらこれは上流民にのみ認められた「マルチバース(複数の宇宙)」のようなのですが、難解な作品でした。 

 

2020/2