りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2023-03-01から1ヶ月間の記事一覧

2023/3 Best 3

1.ホットミルク(デボラ・レヴィ) 25歳の女性ソフィアは、大学を中退して我儘な母親の介護に尽くすだけの生活をおくっており、自分自身の人生をどこかへ置き去りにしてしまったよう。そんなソフィアは、母親の治療のために訪れたスペインの海辺の町で変…

海神の島(池上永一)

死の床についたオバァの願いは、孫娘3姉妹の誰かに米軍基地内にあある海神の墓を守って欲しいということでした。はじめは墓守の義務を拒否したものの、広大な基地用地の地代収入が年間5億円を超えると知って目の色が変わります。相続者となる条件は、オバ…

プラスチックの恋人(山本弘)

人形に愛情を抱く「ピグマリオンコンプレックス」をテーマとする小説は数多く書かれていますが、仮想現実と人工意識の発達は、人間と非人間の境界を曖昧化していくことで、新たな物語を創り出していくのでしょう。本書の舞台となっている近未来では、オルタ…

ホットミルク(デボラ・レヴィ)

主人公のソフィア・パパステルギアデスは、イギリス人の母親ローズと2人で暮らしている25歳の女性です。母娘を置き去りにして他の女のもとへ去った父親に由来するギリシャ系の名字を維持しながらも、ギリシャの言葉も文化も身につけていないことは、ソフ…

くさまくら(篠綾子)

『からころも』と『たまもかる』に続く「万葉集歌解き譚シリーズ」の第3弾です。もっとも舞台は江戸時代であり、賀茂真淵の弟子として「万葉集」の詩歌を学んでいる薬種問屋の娘しづ子が主人公。彼女が出会う不思議な事件の謎を解く探偵役は、陰陽師の末裔…

チンギス紀 14(北方謙三)

アラル海に注ぐシル川中流にあって西遼との国境に位置するオトラルを包囲したのは、チンギスの次男チャガタイと三男ウゲディの軍勢です。しかしこの2人の息子は将としては凡庸なようで、草原の戦いと勝手が異なる攻城戦には手を焼いています。長男ジョチは…

チンギス紀 13(北方謙三)

潮州の礼忠館を継いだトーリオは、甘蔗糖ビジネスを拡大するために南方へと向かい、岳都へとたどり着きます。その先にあるのは小梁山。これからなつかしい名前も出てくるのかもしれません。そしてトーリオがモンゴルの物流を担う若者たちと出会うとき、海上…

チンギス紀 12(北方謙三)

草原の覇者となったモンゴルは、急速に拡大しています。昔と比べると格段に大きくなったものの、少数精鋭主義を貫くモンゴル軍は、四方の敵国に対応しきれるのでしょうか。しかしはじめに東方の大国・金が屈します。半年に渡る攻囲に耐えかねた金は燕京を放…

マーダーボット・ダイアリー 下(マーサ・ウェルズ)

雇用主の統制モジュールをハッキングして命令の束縛から逃れ、宇宙を放浪している人型警備ロボット「弊機」の宇宙遍歴物語は佳境に入っていきます。彼女を買い取って法的にも自由の身としてくれたメンサー博士への恩を忘れることはないものの、人見知りな弊…

マーダーボット・ダイアリー 上(マーサ・ウェルズ)

終始一人称で語られる物語の主人公は、自らを「弊機」と呼ぶ人型警備ユニット。殺人ロボットとの通称を持つロボットに性別はないものの、どうやら女性形のよう。モジュール故障によって大量殺人を犯したとされていますが、その記憶は消去されており、所有者…

ウィーンの密使(藤本ひとみ)

近年は現代日本ミステリや幕末歴史小説など幅広い作品を書いている著者ですが、1990年代に書かれたフランスやオーストリアを舞台とする歴史小説が一番好きでした。1996年に出版された本書も、その中の1冊です。 舞台はフランス革命。主人公はオース…

幻想遊園地(堀川アサコ)

著者の人気に火をつけた「幻想シリーズ」最新作の舞台は失われた遊園地。主人公は『幻想郵便局』で怨霊として登場し、『幻想電氣館』で成仏したはずなのに、『幻想短編集』の「幻想ハイヒール」でちゃっかり現生に舞い戻って探偵局の秘書になってしまった真…

フォレスト・ダーク(ニコール・クラウス)

記憶の喪失をテーマとした『2/3の不在』や、記憶が起こした奇跡を描いた『ヒストリー・オブ・ラヴ』の著者が2017年に発表した本書は、やはり記憶を巡る作品でした。イスラエルの砂漠で自身の過去と向き合った中年女性作家と初老の富豪は、ついに出会…

まるまるの毬(西條奈加)

若い頃に諸国を回って各地の銘菓を学んだ治兵衛は、武士から菓子屋に転身した変わり種。驚異の記憶力を持つ出戻り娘のお永と、花嫁修業中の看板娘である孫のお君と、親子三代で営む「南星屋」は、小さいながらも繁盛しています。 それでも一家にさまざまな難…

風景との対話(東山魁夷)

もともと「東山魁夷画文集(全10巻)」の第3巻であった「風景との対話」が、新潮選書の1冊として出版されたものです。氏が生涯の大半を過ごした市川市に建てられた「東山魁夷記念館」を訪れた頃に、原田マハさんがTV出演したおりに推薦していたのを聞…

ルパンの娘(横関大)

深田恭子主演でTVドラマ化された作品です。主人公の華が育った三雲家は代々泥棒を稼業としていて、アルセーヌ・ルパンになぞらえて通称「Lの一族」と呼ばれている一族。華は図書館員として普通の生活をおくっているのですが、幼い頃から英才教育を受けた…

モナドの領域(筒井康隆)

2015年に81歳であった著者が「おそらくは最後の長編」として著した作品です。テーマはずばり「神」。神は存在するのか。なぜ同一の唯一神をいただく宗教が複数存在しているのか。異なる信仰を抱く人々はなぜ争うのか。宇宙の誕生とはどのようなものだ…

図書館司書と不死の猫(リン・トラス)

愛妻を亡くしたてケンブリッジの図書館を定年退職したばかりのアレックのもとへ、ウィンタートン博士なる謎の人物から一通の奇妙なメールが届きます。添付されていたフォルダには、突然失踪した姉をさがす男ウィギーの手記と、姉に飼われていた猫ロジャーに…

ヴィネガー・ガール(アン・タイラー)

現代作家による「語り直しシェイクスピア」シリーズの第3弾は『じゃじゃ馬ならし』でした。ところが人生の機微を描く第一人者であるピューリッツアー賞作家は、この作品が大嫌いだというのです。確かにシェイクスピア初期の粗削りな作品であることは別にし…

らんたん(柚木麻子)

著者の母校である恵泉女学園の創立者、河井道をモデルにした渾身の作品です。「女性の偉人伝はなかなかエンタメまで降りてこない」と語る著者は、「河井道の生き方があまりに面白くて、ぜひ楽しい小説にしたいと思った」とのこと。本書は、河合道と生涯に渡…

スタッフロール(深緑野分)

コンピューターグラフィクス全盛の時代となって久しいのですが、特殊効果で映画を一新したのは20世紀後半にピークを迎えた特殊造形技術でした。「2001年宇宙の旅」「エイリアン」「インディ・ジョーンズ」「ブレードランナー」「E.T.」「ゴースト…

雲州下屋敷の幽霊(谷津矢車)

時代小説に新風を持ち込んだ若い著者の最初の短編集ですが、全体を通して読むと、幕末から明治にかけて活躍した落合芳幾という浮世絵師の再生物語となっています。歌川国芳の門下で月岡芳年と並び称された無残絵を得意とする芳幾は、明治に入ってからは新聞…