りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2023-02-01から1ヶ月間の記事一覧

2023/2 Best 3

1.獄中シェイクスピア劇団(マーガレット・アトウッド) 世界のベストセラー作家がシェイクスピアの名作を語りなおすシリーズの第1弾が、『テンペスト』の現代版である本書です。精霊エアリアルや怪物キャリバーンを従えて孤島で復讐心を燃やすプロスぺロ…

平家物語 犬王の巻(古川日出男)

池澤夏樹選『日本文学全集』において『平家物語』の現代語訳を書き上げた著者による「平家物語異聞」は、「広大な小説空間を亜音速で走り続ける」作品でした。わずか200ページの分量で、平家物語に関わり続けた2人の異能な人物の生涯を描き切っているの…

光を灯す男たち(エマ・ストーネクス)

まだ灯台守という職業があった1972年の暮れ、英国の南西端コーンウォール沖の岩礁に立つ灯台から、3人の灯台守が忽然と姿を消す事件が発生。灯台は内側から施錠され、食事も手付かずのまま、なぜか2つの掛け時計は同一の時刻で止まっていた事件の謎は…

極めて私的な超能力(チャン・ガンミョン)

1975年ソウル生まれで、新聞記者であった経歴も有する著者は、社会派の労働小説から近未来のディストピア小説まで描く多彩な作風で人気を博しているとのこと。本書は、著者のルーツともいえるSF短編集です。 「定時に服用してください」 2人の愛情を…

時間はだれも待ってくれない(高野史緒/編)

「21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集」と副題がついていますが、「ファンタチスカ」とはSF、ファンタジー、歴史改変小説、幻想文学、ホラー等を包括するジャンル設定であるとのこと。編者は「レムやカフカを生んだ東欧文学にはしっくりくる」と語っ…

興亡の世界史18.大日本・満州帝国の遺産(青柳正規編/姜尚中著)

1932年の満州事変によって誕生し、1945年の日本敗戦とともに消え去った満州国が、日本帝国の傀儡国家であったことは言うまでもないでしょう。「五族協和」とか「王道楽土」とか「八紘一宇」などの崇高な建国理念は、満州国誕生の正統性を主張するた…

火葬人(ラジスラフ・フクス)

1923年にプラハで生まれたチェコ人の著者ですが、第2次世界大戦の時期にユダヤ人を襲った恐怖を題材とした作品を数多く著しています。ナチスによって祖国が侵略され、ユダヤ人同級生たちが次々に姿を消していく時期に少年期から青年期をすごした著者に…

砂嵐に星屑(一穂ミチ)

2021年に『スモールワールズ』で直木賞候補作家となった著者の作品を読んでみました。本書は大阪のテレビ局を舞台にして、世代も性別も職種もバラバラな4人の悩みを暖かく包みこんだ連作短編集です。 社内不倫の前科で腫物扱いされている40代独身女性…

ダンバー(エドワード・セント・オービン)

世界のベストセラー作家が「シェイクスピアの名作を語りなおすシリーズ」の第2弾は、『リア王』でした。。権勢欲の深い長女と次女に裏切られた老王が狂気を帯びて荒野をさすらい、ようやく末娘の愛情に気付くものの悲劇に終わる物語。シェイクスピア悲劇の…

闇祓(辻村深月)

闇を振りまく人がいます。その人が現れたことで、その人が言い始めたことで、その人が接近してきたことで、周囲の人々の心を暗く染め上げてしまうタイプの人。著者はこれを「闇ハラスメント」と名付け、闇を振りまく疑似家族を作り出しました。その家族の構…

ビラヴド(トニ・モリスン)

奴隷制と人種差別に苛まれてきたアメリカ黒人の深い哀しみを、時にスピリチュアルな伝承を交えて綴ってきた著者が、ノーベル文学賞を受賞した最初の黒人女性となったのは1993年のこと。南北戦争以前のアメリカ南部で、追っ手に囲まれて絶望的になった逃…

月ノ石(トンマーゾ・ランドルフィ)

1908年にイタリア中南部の小さな町に生まれた著者は、由緒ある貴族の末裔であり、「栄光ある南イタリア貴族の最期の純なる典型」と自称していたとのこと。奇想・幻想・不条理・倒錯・ナンセンスに満ちた作品を得意としており、1937年に綴られた本書…

九十九藤(西條奈加)

タイトルは「つづらふじ」と読ませます。主人公のお藤がたどり来た、曲がりくねったつづら道をあらわしているのでしょう。縁あって江戸の人材派遣業である口入屋の女主人となったお藤には、壮絶な過去がありました。四日市の旅籠の娘として生まれながら、実…

ガラスの麒麟(加納朋子)

1995年に日本推理作家協会賞を受賞した著者初期のミステリですが、デビュー作『ななつのこ』のように「日常の謎」をテーマとする暖かな物語ではありません。なにしろ冒頭からいきなり殺人事件が起こるのですから。殺害されたのは17歳の高校生である安…

わたしのペンは鳥の翼(アフガニスタンの女性作家たち)

2019年と2021年はじめに公募された、アフガニスタンの女性作家18人による23の短編集には、「作家紹介欄」が欠落しています。女性作家たちの経歴を活字で残すことが、本人にとってあまりに危険だというのがその理由です。女性嫌悪、家父長制、暴…

興亡の世界史17.大清帝国と中華の混迷(青柳正規編/平野聡著)

著者は「大清帝国ほど、建国から崩壊にいたるまでのあいだにその性格が大きく変わった国家は多くない」と述べています。そしてそのことが「この帝国自身や、その中から生まれてきた近代中国という国家を捉えることを難しく」しているというのです。さらにそ…

蔦屋(谷津矢車)

20代の若さで、しかも時代小説という分野で第18回歴史群像大賞を受賞した著者の長編第2作です。出版の力で江戸全体を面白く変えてみせるとの野心に満ちた蔦屋重三郎の半生を語るのは、潰れかけた日本橋老舗書店主の丸屋小兵衛。 吉原に生まれ、吉原で遊…

SWITCH 鬼滅の刃 誌上総集編

月刊誌「SWITCH」の2020年8月号ですから、まだメガヒットとなった映画「鬼滅の刃 無限列車篇」は公開されていません。TVアニメで放映された「竈門炭治郎立志編」の「誌上総集編」という特集号です。映画「無限列車編」はもとより、次の「遊郭編…

ミルクマン(アンナ・バーンズ)

2018年のブッカー賞を獲得した本書は、密度の濃い作品でした。内容もそうなのですが、380ページあまりの本書を開くと文字がぎっしり埋まっているのです。ひとつひとつの文章が長く、行かえもほとんどないのですから。それでも本書は、読者に一気読み…

無月の譜(松浦寿輝)

主人公の竜介は、年齢制限に掛かってプロ棋士となる夢を叶えられなかった元奨励会員。26歳にして一般企業に就職したものの、まだ失意から立ち直れ切れていません。そんな竜介は、南方で戦死した大叔父の岳史が生前、将棋駒を製作する駒師をめざしていたと…

紅だ!(桜庭一樹)

東京の新大久保、コリアンタウンから超多人種都市へと変貌しつつある街に事務所を構える「道明寺探偵屋」の社員は2人だけです。創業者であった道明寺葉は不審な火事で命を落ちしており、社員であった真田紅(くれない)と黒川橡(つるばみ)だけが細々と活…

三体X 観想之宙(宝樹 バオ・シュー)

本書を著した時、著者はまだ学生でした。空前のスケールで宇宙の終末と再生を描いた『三体シリーズ3部作(劉慈欣)』の終了ロスに耐えかねて『三体第3部 死神永生』で描かれなかった「空白部分とその後」について勝手に書きあげたのが本書です。決して続編…

紅霞後宮物語 第14幕(雪村花菜)

シリーズ最終巻を手に取って驚きました。文庫200ページ程度の分量でしかないのです。これだけで、大きく広がった大河小説を終わらせることなど可能なのでしょうか。もちろん心配は不要です。少々強引な点も見受けられますが、著者は多くの脇役たちの物語…

獄中シェイクスピア劇団(マーガレット・アトウッド)

世界のベストセラー作家が、シェイクスピアの名作を語りなおすシリーズが出版されています。その第1弾である本書は、カナダを代表するアトウッドによる『テンペスト』の現代版。 妖精たちを従えて孤島で復讐心に燃える魔術師プロスペローは、舞台芸術監督の…

旅は道づれきりきり舞い(諸田玲子)

稀代の奇人である十返舎一九を父に持つ舞を主人公に据えた『きりきり舞い』シリーズの第3弾。「東海道中膝栗毛」で大当たりを取った一九ですが、中風を患った後は全く書けない状態が続いています。版元から金を借りての大散財も限界なのですが、本人は全く…