りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2022-09-01から1ヶ月間の記事一覧

2022/9 Best 3

1.愛の裏側は闇(ラフィク・シャミ) ダマスカス近郊の田舎村にルーツを持つ男女の悲恋物語。何十年もの間、村の支配権を巡って抗争を続けてきたカトリック教家の息子ファリードと、正教会教家の娘ラナーの純愛は、第二次大戦後のシリアがたどった歴史の中…

いのちがけ(砂原浩太朗)

2021年の直木賞候補作となった『高瀬庄左衛門御留書』は、藤沢周平や葉室麟のような風格を感じさせる本格時代小説でした。著者47歳のデビュー作である本書は、前田利家に仕えて加賀百万石の礎を築いた村井長頼の生涯を描いた作品です。 構成がいいです…

愛の裏側は闇3(ラフィク・シャミ)

1960年に20歳を迎えたファリードとラナーは、地獄の10年間を過ごすことになります。修道院寄宿学校から解放されたファリードは大学進学を認められますが、友人の影響で共産主義青年同盟に加入。しかしソ連との関係を強化していたシリアにおいても、…

愛の裏側は闇2(ラフィク・シャミ)

物語は、ファリードの幼年時代へと戻ります。父親は村の厳格な家系の傍系であったため、比較的リベラルな思想の持ち主でした。ヴェネティア人の血を引くという母親にも深く愛され、彼の幼年期は幸福なものでした。しかしファリードの人生は、ラナーを愛した…

愛の裏側は闇1(ラフィク・シャミ)

著者は、1975年に25歳の若さでシリアからドイツに留学し、ドイツ語で作品を綴り続けている作家です。「千夜一夜物語」のように語られる童話風の作品が多い印象ですが、本書は本格的な長編作品。著者と似た境遇でありながら6歳年長の青年ファリードを…

紅霞後宮物語 第13幕(雪村花菜)

このシリーズも次巻で終了とのこと。本巻では年配者になりつつある元皇后小玉と皇帝文林の関係が、微妙に変化していく様子が描かれています。大宸帝国の後宮を揺るがした仙娥昭儀の懐妊事件は、文林の娘・令月の誕生と仙娥の自死で決着。冤罪で皇后を廃され…

興亡の世界史8.イタリア海洋都市の精神(青柳正規編/陣内秀信著)

「興亡の世界史」第8巻は、このシリーズの中でもかなり独特のスタイルで記述されています。過去の歴史について史跡や文献をもとに語るのではなく、現在のイタリア海洋都市の観察から歴史を読み解く方法をとっているのです。都市形成史を専門とする著者には…

大聖堂 下(ケン・フォレット)

12世紀イングランドの内乱時代に、当時最先端の大聖堂を建設する物語は佳境に入っていきます。クリアすべきは技術的問題だけではありません。数十年かかる建設期間の政治的・軍事的な安定や、石材や木材の手当てを含む費用の捻出も必要なのです。しかし最…

大聖堂 中(ケン・フォレット)

キングズブリッジ修道院長となったフィリップは、トムを大聖堂建築の棟梁に指名。石材や木材の手当も見込みがつき、ついに普請が進み始めます。放浪のアリエナは意外にも商才がありました。わずかな貯えを元手にして羊毛の買い付けを行いますが、市場では相…

大聖堂 上(ケン・フォレット)

著者は新聞記者時代に取材した大聖堂に興味を抱き、その建築過程を扱った小説を構想したそうです。しかしその試みはうまくいかず、スパイ小説作家として文壇にデビュー。それでも初志は捨てきれず、中世史や建築学を学び続け、ついに20年後に本書を書き上…

伯爵と成金(堀川アサコ)

「幻想」シリーズをはじめとする「少し妖しい物語」が得意な著者ですが、最近ではジャンルを超えた作品も増えてきました。「帝都マユズミ探偵事務所」の副題を有する本書も「妖(あやかし)」の登場しない本格ミステリ小説ですが、未完ですので断言はできま…

京都はんなり暮し(澤田瞳子)

天平時代の若き官吏たちの物語である『孤鷹の天』で2010年に華々しくデビューし、後に直木賞も受賞する著者が、その前の2008年に綴った京都紹介エッセイです。まだ時代小説のアンソロジー編纂しか経験のない20代の著者は、澤田ふじ子の娘としての…

とうもろこし倉の幽霊(R・A・ラファティ)

1914年にアイオワで生まれ、電気技師を経て1959年に44歳で作家デビューした著者の短編集。「新☆ハヤカワ・SF・シリーズ」からの出版ですが、奇想とユーモアの入り混じった作品はどれも、SFというジャンルには収まり切れていません。 「とうもろ…

神の子どもたちはみな踊る(村上春樹)

1995年に起こった阪神淡路大震災と、直後に起こったオウム真理教のテロ事件は、自然の脅威や人間の無力さを超えて、世界が損なわれつつある危機感を著者に抱かせたのかもしれません。その後に起こった2001年の9.11テロや2011年の東日本大震…

絞め殺しの樹(河崎秋子)

絞め殺しの樹とは、芯になる木に絡みついて栄養を奪いながら締め付けていき、元の木を殺してしまう蔓性の樹木のこと。芯の木が枯れる頃には蔓が自立できる太さになっているから中心には空洞が残ります。釈迦が樹下で悟りを開いたインド菩提樹もその一種です…

塞王の楯(今村翔吾)

2022年上期に直木賞を受賞して一気に知名度が上がった作家です。過去に直木賞候補となった『童の神』や『じんかん』も高レベルの作品でしたが、本書はそれを上回る面白さです。着眼点がいいですね。ともに近江に生まれたスペシャリスト集団が、それぞれ…

アメリカン・スナイパー(クリス・カイル)

著者は、アメリカ海軍特殊部隊SEAL所属のスナイパーとして、4度にわたってイラク戦争に従軍し、160人の敵を仕留めた人物です。米軍史上の最高記録保持者だそうですが、非公式の記録としては遥かに多い数字も伝えられています。味方からは「伝説」と…

ウィーンの冬(春江一也)

チェコ大使館に勤務していた1967年に「プラハの春」に遭遇した外交官は、実体験をもとにした同名の歴史小説を綴って作家デビュー。その後『ベルリンの秋』を経て、ソ連崩壊直前の時代を舞台とする本書にて「中欧大河ロマン」は完結を迎えます。 『プラハ…

大絵画展(望月諒子)

第14回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作というから、2010年のことですね。受賞当時すでにプロの作家だったと思いますが、それ以降も1~2年に1冊のペースで書き続けていらっしゃいます。ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードに捧げられ…

最後の秘境東京藝大(二宮敦人)

藝大生の妻を持つ著者は、彼女の突拍子もない行動に何度も驚かされます。夜中に巨大な陸亀の木彫りを始めたり、自分の等身大全身像を作るために身体に半紙を貼り付けて紙型をとったりするのですから。そして藝大生に興味を抱いて潜入取材をした結果、著者は…

女のいない男たち(村上春樹)

濱口竜介監督による映画「ドライブ・マイ・カー」を見たのをきっかけに、原作が含まれる本書を再読してみました。本書は6篇の短編から成り立っていますが、映画に用いられたのはそのうちの3篇、「ドライブ・マイ・カー」、「シェエラザード」、「木野」で…