りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2022-08-01から1ヶ月間の記事一覧

2022/8 Best 3

1.火の柱 上中下(ケン・フォレット) 12世紀の内乱時代に大聖堂を建築する『大聖堂』、14世紀の英仏百年戦争とペストの時代を背景とする『大聖堂-果てしなき世界』に続く第3シリーズは、16世紀のエリザベス1世時代の物語でした。イギリス人が最も…

時の娘(中村融/編)

「時間SFはことのほかロマンスとの相性がいい」そうです。しかも『夏への扉(ハインライン)』や『たんぽぽ娘(ヤング)』や『マイナス・ゼロ(広瀬正)』を好む日本のSFファンは特に、大過去や大未来を旅したり、歴史改変を試みたりする大仕掛けな物語…

ぼくはただ、物語を書きたかった。(ラフィク・シャミ)

1946年にシリアのダマスカスに生まれ、1971年に25歳でドイツに亡命した後に児童文学者となった著者の回想的なエッセイです。 祖国を捨てた上に母語を捨ててドイツ語で作品を綴ることを選んだ「第二の亡命」。亡命作家は政治的な小説だけ書いていれ…

ブルースRed(桜木紫乃)

貧民窟で育った少年が釧路の歓楽街の支配者となる『ブルース』の続編です。前作の主人公・影山博人は、多くの女性遍歴を重ねた末に、妻としたまち子の連れ子である莉菜から父親として愛されたまま生涯を終えています。本書の主人公は父親の地盤を継いだ影山…

アポロンと5つの神託 5.太陽の神(リック・リオーダン)

「パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々」シリーズと「オリンポスの神々と7人の英雄」シリーズに続く「シーズン3」が本書で完結。どのシリーズでも、ギリシャ・ローマの神々と人間の間に生まれたハーフたちが、現代に蘇ろうとする古代の悪と戦うのです…

夜の声(スティーヴン・ミルハウザー)

もともと16編の短編からなる1冊の本が、昨年出版された短編集『ホーム・ラン』と本書に8編ずつ収録されています。1冊に纏めるにはボリュームが大きすぎたのでしょう。もちろんどちらの本からでも、どの作品から読んでも著者の魅力は満喫できます。 「ラ…

千葉の歴史(千葉県歴史教育者協議会/編)

出身地ではないのですが、千葉県在住期間が一番長くなっており、もはや第二の郷土です。県の歴史をあらためてふりかえっておこうと思い、児童向けなのですがこの本を手に取りました。知っていた話も知らなかった話もあるのですが、本書の全貌をメモしておく…

興亡の世界史7.ケルトの水脈(青柳正規編/原聖著)

ローマ文明とキリスト教におおわれる以前、ヨーロッパの基層をなしたケルト人はどこへ消えたのでしょう。アイルランド、ウェールズ、スコットランド、イギリス南部コーンウォール、フランスのブルターニュ地方に残る「ケルト文化」は、「最初のヨーロッパ」…

この地獄の片隅に(ジョン・ジョゼフ・アダムズ/編)

「パワードスーツSF」というジャンルがあります。装甲宇宙服を身にまとった宇宙戦士が活躍するような物語はハインラインの『宇宙の戦士』が確立したものであり、その後もアイアンマンやガンダムに至るまで多くの作家・読者を魅了し続けてきました。すぐに…

物語フィリピンの歴史(鈴木静夫)

フィリピンの歴史と聞いて思い出すのは、世界一周中のマゼランが1521年にセブ島で殺害されたこと。そのすぐ後の1543年からスペインによる植民地化が始まっているので、フィリピン史はそのまま植民地としての歴史というイメージなのです。近隣のベト…

現代生活独習ノート(津村記久子)

年齢も職業も異なる8人の女性の一人称で綴られた、独立した8編からなる短編集。作品間の共通点はありませんが、皆が著者の分身であるように感じられます。人はひとりでも生きていけますが、誰かと心が通じ合うことは生きる熱量を少し上げてくれるようです…

つまらない住宅地のすべての家(津村記久子)

とある町の、路地を挟んで10軒の家が立ち並ぶ住宅地。そこにはそれぞれに不幸を抱えた10組の家族が暮らしていました。互いにいたわり合う老夫婦(笠原)。全てに不満で犯罪を企む若い男性(大柳)。老母を看取ってひとりで暮らしている初老の女性(山崎…

大聖堂-果てしなき世界 下(ケン・フォレット)

フィレンツェで革新的な技術を身に着けたマーティンは、建築家として成功し結婚もしていましたが、ペストによって家族も仕事も失ってしまいます。彼自身もペストに罹ったものの生き延び、幼い娘を連れてキングスブリッジへと帰還。しかしそこでもペストは猛…

大聖堂-果てしなき世界 中(ケン・フォレット)

4人の男女を巡る物語は大きな転機へと向かいます。保守的で陰険な修道院長ゴドウィンの支配下にあるキングスブリッジを自由都市に昇格させる運動に携わったカリスは、陰謀によって魔女裁判にかけられることになってしまいました。彼女が生命の危機を脱する…

大聖堂-果てしなき世界 上(ケン・フォレット)

物語の舞台は14世紀のイングランド、キングスブリッジ。12世紀の物語である『大聖堂』と16世紀の物語である『火の柱』を繋ぐ作品です。馴染みの薄い時代ですが、王位継承に係る事件、英仏百年戦争の開始、ペストの流行という重い史実と関連しながら物…

興亡の世界史6.イスラーム帝国のジハード(青柳正規編/小杉泰著)

政治的空白地帯であったアラビア半島において開祖ムハンマドによって確立されたイスラム教は、それまでにない形の世界帝国を生み出しました。新興宗教によって統一された勢力は、たちまちのうちに半島北方のビザンツ帝国とササン朝ぺルシアを圧倒し、西はア…

ヒトコブラクダ層ぜっと(万城目学)

『鴨川ホルモー』でデビューして京都を中心とする関西地域を舞台とする作品を書いていた著者が、中国へと足を延ばしたのが『悟浄出立』でした。そして本書の舞台はなんとメソポタミア。思えば遠くまで来たもんです。 3歳の時に家に落ちた隕石で両親を失った…

スイート・ホーム(原田マハ)

元キュレーターであり『楽園のカンヴァス』や『暗幕のゲルニカ』などのアート小説の名手による、非アート小説です。料理と愛情をテーマとする、なんともハッピーな連作短編集。物語の舞台は宝塚。高台の街にある小さな洋菓子店を営む香田家を中心に、エピソ…

不死身の戦艦(ジョン・ジョゼフ・アダムズ/編)

SFファンなら誰でも「銀河連邦・銀河帝国」という言葉には反応してしまうでしょう。その起源はスミスの「レンズマン」やアジモフの「ファウンデーション」でしょうか。その後ル・グィンの「ハイニッシュ」やハーバートの「デューン」や「2001年」の「…

興亡の世界史5.シルクロードと唐帝国(青柳正規編/森安孝夫著)

「文明の興亡」という視点から世界史の再構築を試みるシリーズの第5部は難解でした。6世紀末から10世紀にかけての隋・唐の時代を、シルクロードにおける遊牧騎馬民族による東西文化交流という視点から俯瞰しているのです。西洋中心主義も中華主義も広義…

火の柱 下(ケン・フォレット)

16世紀のイギリスを中心とする物語はクライマックスを迎えます。イギリスのカトリック勢力ネットワークを築き上げたロロは、彼らを反エリザベス蜂起に立ち上がらせるために、幽閉状態にあるスコットランド女王メアリーに近づきます。メアリーが反逆に加担…

火の柱 中(ケン・フォレット)

16世紀イギリスを中心とする物語は佳境に入っていきます。王位についたエリザベスへの敵は、スペイン、フランス、ローマなどのカトリック教国だけではありません、国内の貴族たちの中にも多くのウルトラカトリック勢力が叛旗を翻す機会を狙っていたのです…

火の柱 上(ケン・フォレット)

イギリス南部の架空都市キングズブリッジを舞台とする「大聖堂」シリーズの3作目にあたります。第1作『大聖堂』は12世紀、第2作『果てしなき世界』は14世紀の物語ですが、本作え描かれる時代はエリザベス1世が即位した1558年からメイフラワー号…

春(アリ・スミス)

イギリスのEU離脱を背景に描かれる「四季四部作」の第3作にあたります。とはいえ本書は、療養施設で眠り続ける老人と彼を見舞う若い女性美術史の対話を描いた『秋』とも、移民女性が老女の凍った心を溶かしていく『冬』とも直接の関りはなさそうです。各…