りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2021-08-01から1ヶ月間の記事一覧

2021/8 Best 3

1.理不尽ゲーム(サーシャ・フィリペンコ) 30年近くも独裁政権を敷き続けている大統領のもとで「ヨーロッパ最後の独裁国家」として非難されるベラルーシという国について、私たちは何を知っているでしょうか。「昏睡状態に陥って目を覚ます気配がない祖…

劇場(又吉直樹)

『花火』で芥川賞を受賞して話題になった著者の第2作です。さぞ重圧がかかっていたのではないかと思うのですが、なかなか読ませる作品に仕上がっています。西加奈子さんが「一気に読み進めたいが、苦しくて、どうしても一度伏せてしまう作品である」と述べ…

理不尽ゲーム(サーシャ・フィリペンコ)

ベラルーシという国について、私たちは何を知っているでしょうか。旧ソ連邦の一員であり、ソ連邦が崩壊した1990年に共和国として独立。スラブ系のベラルーシ人と東方正教会の一員であるベラルーシ正教会が80%以上を占めるものの、隣国ウクライナと異…

日蓮(佐藤賢一)

これまでの作品をすべて読み、極めて高く評価している著者の最新作なのですが、本書に関しては期待外れでした。主人公に全く感情移入できなかったのです。 日蓮の生涯については広く知られています。鎌倉時代中期に、大震災、疫病、飢饉に苦しめられている人…

恥さらし(パウリーナ・フローレス)

1988年にチリのサンディエゴで生まれた若い著者は、1990年にピノチェト時代が終わって民政に移管された後の時代を生きてきたわけです。だから彼女は、政治的な民主化の背後で、貧富格差の拡大をはじめとするさまざまな問題が噴出してきたことにも敏…

ウィッシュガール(ニッキー・ロフティン)

主人公のピーターは、無口でおとなしく人付き合いも苦手な12歳の少年です。彼が都会の学校でいじめにあったこともあって一家はテキサスの片田舎に引っ越してきたのですが、実はピーターは家族の期待も重荷に感じていたのです。両親も姉も陽気で明るいタイ…

マルドゥック・アノニマス 6(冲方丁)

シリーズも佳境に入ってきました。巨大都市を支配しようとするハンターに囚われたウフコックを救出するために、バロットが登場したのが第3巻のラストでしたが、物語はなかなか先に進まなかったのです。というのも、救出作戦の進行よりも、それまでの過程を…

スクラップ・アンド・ビルド(羽田圭介)

2015年に第153回芥川賞を受賞した作品です。閉塞感を抱いた青年がはた目には滑稽な方法でもがき苦しむという、著者の作風がストレートに表現されています。深刻な社会問題と主人公の内面的変化が、巧みに融合されているのです。 主人公の健斗は28歳…

木曜日にはココアを(青山美智子)

必ず木曜日にきて同じ席に座り、いつもココアを飲みながらエアメールを書く女性に思いを寄せた、若い喫茶店主からはじまる連作ストーリーです。彼女はなぜその日に限って手紙を書かずに涙を流したのでしょう。登場人物を次々と変えながら日本とオーストラリ…

冬姫(葉室麟)

映画化された『蜩ノ記』や『散り椿』をのように、武士や庶民の哀歓を描く本格時代小説の書き手としての印象が強い著者の作品ですが、本書は藤沢周平というよりも山田風太郎に近い雰囲気です、 主人公は織田信長の次女の冬姫。叔母にあたるお市の方と似ている…

御不浄バトル(羽田圭介)

「ブラック企業」という言葉が新語・流行語大賞にノミネートされたのは2013年のこと。しかしその3年前に書かれた本書で既に、著者はブラック企業の実態を描いています。デビュー以来ずっと同世代の若者の心理を描いてきた著者が、社会問題も取り組んだ…

翼竜館の宝石商人(高野史緒)

中世ヨーロッパやロシアを舞台として「パンクスチーム音楽SF」とでも分類されるような作品を書いてきた著者が、一躍注目されたのは、2012年に江戸川乱歩賞を受賞した『カラマーゾフの妹』でした。多少はSF的な要素も含んでいたものの、ドストエフス…

輪舞曲(ロンド)朝井まかて

大正時代に活躍した実在の女優・伊澤蘭奢の生涯を、彼女と深く関わった4人の男性の視点から描いた作品です。1922年に津和野で生まれた蘭奢は、若くして地元の名家に嫁いで息子を得たものの、松井須磨子の「人形の家」に惹かれて26歳で上京。舞台女優…

図書館大戦争(ミハイル・エリザーロフ)

まるで有川浩の大ヒット作品のパクリのようなタイトルですが、内容は全く異なります。ロシア語の原題を直訳すると「司書」となるそうですが、「本をめぐる図書館同士の戦争の話」なので、あえてこのタイトルとしたとのことです。 旧ソ連時代の無名な社会主義…

剣樹抄(冲方丁)

家光時代の武断政治から文治政治へと切り替わろうとしている第4代将軍・家綱の治世6年目。11歳で将軍家を継いだ家綱はまだ幼く、家光時代に有力大名の改易や御三家の弱体化を目論んだ老中・松平信綱や大目付・中根正盛らはまだ幕政を手放してはいません…

雷にうたれて死んだ人を生き返らせるには(ゲイル・アンダーソン=ダーガッツ)

カナダ西部にある農場で暮らす15歳の少女の1年間の物語。といっても『赤毛のアン』や『大草原の小さな家』とはかなり趣が異なります。時代が第二次大戦下であることが理由ではありません。僻地の貧しい農場では自給自足が原則だし、隣人も少なく、最寄り…

傲慢と善良(辻村深月)

ジェーン・オースティンの『高慢と偏見』と似たタイトルだと思ったら、やはり関りがありました。典型的な階級社会であった18世紀末のイギリスで結婚の妨げとなっていたのが「高慢と偏見」であったように、現代日本においては「傲慢と善良」だというのです…

樅の木は残った(山本周五郎)

本書を原作とした同名の大河ドラマによって、伊達騒動の当事者のひとりである原田甲斐の印象は大きく変わってしまいましたが、それまでは彼は悪役として認識されていました。歌舞伎「伽蘿先代萩」で彼をモデルとする仁木弾正は、藩を乗っ取ろうとして忠臣た…

人形の家(イプセン)

著者の代表作とされる本書は、女性解放運動の勃興を促した作品としてあまりにも有名です。貞淑な妻が夫や子供を捨てて家を出るという結末は、当時としてはありえないことであり、あまりにもショッキングだったからなのでしょう。日本においても大正時代に初…

ビリー・バスゲイト(E・L・ドクトロウ)

1991年にダスティン・ホフマンとニコル・キッドマンの共演で映画化された作品です。主人公の少年ビリーを演じたのは当時22歳のローレン・ディーンですが、原作では15歳ですからちょっと大人すぎたかもしれません。主演の2人は、ギャングのボスのダ…

邪眼(ジョイス・キャロル・オーツ)

1950年代のニューヨークを舞台にして、虐げられた少女たちが秘密のグループを作って不条理な世間に立ち向かう『フォックスファイア』の著者によるゴシック・サスペンス集です。「うまくいかない愛をめぐる4つの中編」とのサブタイトルがついています。…

ペール・ギュント(イプセン)

グリークの 組曲で名高い『ペール・ギュント」は舞台演劇の伴奏音楽として作曲されたということは、TVの「ららら、クラシック」で知りました。しかも名曲「朝」の舞台は静謐なノルウェーの湖ではなく、喧騒溢れるモロッコの市場だということは二重の驚きで…

京都伏見のあやかし甘味帖 6(柏てん)

30歳を前にして仕事も婚約者も失い、京都で人生休憩中の小薄れんげの物語も6冊めになりました。実は伏見の神狐と人間とのハーフ一族の末裔であったれんげは、生まれたての神使である子狐クロになつかれてしまい、さまざまな怪異に巻き込まれてきました。…

満ちみてる生(ジョン・ファンテ)

イタリア移民2世として1909年にコロラドで生まれた著者の、自伝的長編の第3作にあたります。前2作の『バンディーニ家よ、春を待て』と『塵に訊け!』ではアルトゥーロ・バンディーニであった主人公は、ここでは著者と同名のジョン・ファンテとなって…

中島ハルコはまだ懲りてない!(林真理子)

『中島ハルコの恋愛相談室』の続編であり、TVドラマにもなった作品です。著名な男性たちを子分に従え、日本一あつかましく、傍若無人にいばり散らしている女社長・中島ハルコのキャラはいいですね。ふとしたことで彼女と知り合ったフードライターの菊池い…

逃げ出せなかった君へ(安藤祐介)

2021年2月に「六畳間のピアノマン」というTVドラマになった作品です。ブラック企業に入社してしまった3人の同期青年たちと周辺の人々を描くことで、「逃げ出せなかった人たちに会社を辞めてもダメじゃないと伝えたい」という著者の思いが込められた…