りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2021-07-01から1ヶ月間の記事一覧

2021/7 Best 3

1.日本文学全集4・5・6 源氏物語 上中下(池澤夏樹編/角田光代訳) 角田さんは『源氏物語』の現代語訳に際して、まず読みやすさを優先したとのことです。原典で大幅に省略されている人称代名詞を丁寧に書き込み、「作者の声」を本文とは異なる語調で記…

アンダルシアの農園ぐらし(クリス・スチュアート)

イギリスから南欧の農園に移住する話というと、ピーター・メイルさんの『南仏プロヴァンスの12か月』が真っ先に浮かびますが、こちらのほうがハードシップは高そうです。移住先はアンダルシアといっても、シェラネヴァダ山脈の麓の谷間に広がるアププハラ…

桜小町 宮中の花(篠綾子)

平安時代の絶世の美女としても名高く、六歌仙のひとりとして「百人一首」にも選ばれているほどの人物ながら、小野小町の生涯は謎に包まれています。著名な歌人たちとの和歌の贈答が記録に残されているものの、彼女の実在を疑う研究者もいるほどです。和歌を…

昨日がなければ明日もない(宮部みゆき)

児童書の編集者から企業の広報室勤務を経て私立探偵となった杉村三郎を主人公として、人々の意識の底に潜む悪意を暴き出すシリーズも、本書で5冊めになりました。本書には「結婚」をテーマとする中編が3作収録されています。数多くの作品を執筆し続けてい…

象使いティンの戦争(シンシア・カドハタ)

1956年にシカゴで生まれた日系2世の著者が、ベトナム戦争に巻き込まれた少数民族の悲劇を、像使いを少年の運命に仮託して書き上げた作品です。 大都市から隔絶したベトナム高地のジャングルに暮らすラーデ族は、ベトナム戦争の最中でもあまり影響を受け…

アメリカーナ(チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ)

初期の短編である『アメリカにいる、きみ』をもとにして、大河ラブロマンスに仕立て上げた作品のようです。祖国ナイジェリアと大学時代をすごしたアメリカを往来しながら作品を書き続けている著者独特の世界観が、ストレートに伝わってきます。 本書で綴られ…

赤い星(高野史緒)

最初に読んだ著者の作品は『カラマーゾフの妹』でした。はじめからロシア史やロシア文学に詳しい方だと思っていたのですが、10代のころにゴルバチョフ時代のソ連にいらっしゃったことがあるのですね。もっとも近世ヨーロッパを舞台とする「スチームパンク…

しゃばけ19 いちねんかん(畠中恵)

このシリーズもこれで19作め。江戸で廻船問屋と薬種問屋を営む大店長崎屋のご主人夫婦が、はるばる九州の別府まで1年間の湯治にいくことになりました。これは病弱な若だんな・一太郎の跡取り修行ということなのでしょうか。店を託された一太郎は張り切る…

フォックスファイア(ジョイス・キャロル・オーツ)

1938年に生まれてノーベル文学賞の候補とまでなった著者が1990年に著した作品です。しかし構えて読む必要はありません。1950年代のアメリカの小都市で、虐げられた少女たちが秘密のグループを作って不条理な世間に立ち向かっていく物語なのです…

鬼龍院花子の生涯(宮尾登美子)

夏目雅子の「なめたらいかんぜよ!」で有名な作品ですが、未見だったせいで完全に誤解をしていました。夏目雅子が演じたのが鬼龍院花子であり、当然のことに本書の主人公も花子なのだろうと思っていたのです。本書の実質的な主人公は花子の父である土佐の侠…

たゆたえども沈まず(原田マハ)

明治初期に渡仏し、パリを拠点として日本美術品を売りさばいたことでジャポニズムの機運を高めた画商・林忠正が、ゴッホと出会っていたのではないかという想定のもとに書かれた作品です。当時ようやく売れ始めたばかりの印象派の絵画をいち早く評価してマネ…

ハンガーゲーム0下(スーザン・コリンズ)

コリオレーナスが教育係を務めた第12地区の少女、ルーシー・グレイはハンガーゲームで最後まで生き残り、勝利者となりました。しかし、歌で人の心を惹きつけることしかできない少女が勝利した背景には、教育係を務めたコリオレーナスの不正があったのです…

ハンガーゲーム0上(スーザン・コリンズ)

映画としてもヒットした『ハンガー・ゲーム3部作』の前日譚は、本編の悪役であったコリオレーナス・スノーの若き日の物語でした。文明崩壊後の北アメリカで内戦に勝利したパネムが、なぜ支配下に置かれた12の地区から選ばれた男女24人の少年少女に殺し…

中島ハルコの恋愛相談室(林真理子)

無敵のヒロイン中島ハルコを演じる大地真央と、冴えないフードライターで語り手の菊池いづみを演じる松本まりかのダブル主演でTVドラマ化されたことをきっかけに読みました。2人ともハマリ役です。 ホテルで偶然ハルコに出会って、その迫力と毒舌に圧倒さ…

巣窟の祭典(フアン・パブロ・ビジャロボス)

メキシコ出身の若い作家のデビュー作「巣窟の祭典」と第2作「フツーの町で暮らしていたら」が収録されています。デビュー作では子供に、第2作ではティーンエイジャーの少年に語らせていますが、著者は後書きで「次作では老人が語り手となる」と述べていま…

御社のチャラ男(絲山秋子)

まずタイトルに騙されました。「チャラ男」というから今どきの薄っぺらい青年かと思ったら、中年の部長なのです。地方の食品会社に社長のコネで中途採用され、いきなり営業統括部長となった三芳道造44歳。チャラ男の定義は人によって異なるのですが、総合…

ある晴れた日に、墓じまい(堀川アサコ)

バツイチ44歳で古書店を経営する正美は、乳がんを患ったことで実家の墓じまいを決心します。母は亡く、小児科医で頑固な父は高齢で、親の期待を裏切って家出した兄も、ダウン症で施設に入所している姉も全くあてにならないのは明白。自分に何かあったら一…

祝祭と予感(恩田陸)

人生を賭けてピアノコンクールに挑んだ少年少女たちの姿を描いた『蜜蜂と遠雷』のスピンオフ小説です。3人の主人公のその後の姿のみならず、審査員や音楽教師らの若き日のエピソードなども含まれており、本編を深く理解するのにも有益な作品でしょう。 「祝…

エルサレムの秋(アブラハム・B・イェホシュア)

ノーベル賞候補にもあげられる、イスラエルを代表する作家が若い時代に書いた作品です。本書に収められている中編2作とも著者30歳の頃に書かれているので、1960年代後半のもの。同時代の大江健三郎や安部公房らと共通する雰囲気を漂わせているように…

希望(ホープ)のいる町(ジョーン・バウアー)

翻訳者として著名な金原瑞人氏が選んだヤングアダルトのシリーズの中の一編です。違っていたらすみませんが、山本弘さんの『詩羽のいる街』のタイトルは、本書から連想されたものかもしれませんね。 本書のヒロインはホープという名を持つ16歳の高校生。腕…

日本文学全集6 源氏物語 下 各帖(池澤夏樹編/角田光代訳)

上巻・中巻と同様に、前の記事で本書に関する概説を書いたので、ここでは各帖ごとの概要をメモしておきます。 42帖「匂宮」薫る中将、匂う宮 43帖「紅梅」真木柱の女君のその後 44帖「竹河」女房の漏らす、玉鬘の苦難 まずは2人の主人公が紹介されま…

日本文学全集6 源氏物語 下 概説(池澤夏樹編/角田光代訳)

1週間かけて『源氏物語』を読み通しました。じっくりと読むやり方もあるのでしょうが、一気読みすることでかえって理解できたことも多かったように思います。まずは素晴らしい現代語訳を提供してくれた角田光代さんに感謝です。 下巻は、「宇治十帖」を中心…

日本文学全集5 源氏物語 中 各帖(池澤夏樹編/角田光代訳)

前の記事で本書に関する概説を書いたので、ここでは各帖ごとの概要をメモしておきます。 【玉鬘十帖】 22帖「玉鬘」いとしい人の遺した姫君 23帖「初音」幼い姫君から、母に送る新年の声 24帖「胡蝶」玉鬘の姫君に心惹かれる男たち 25帖「蛍」蛍の光…

日本文学全集5 源氏物語 中 概説(池澤夏樹編/角田光代訳)

『源氏物語』を3部に分けるなら、【第1部】の青壮年期が1帖「桐壷」から33帖「藤裏葉」。【第2部】の晩年期が34帖「若菜上」から41帖「雲隠」まで。光源氏亡き後の【第3部】が42帖「匂宮」から54帖「夢浮橋」までとなります。この中巻には2…

日本文学全集4 源氏物語 上 各帖(池澤夏樹編/角田光代訳)

前の記事で本書に関する概説を書いたので、ここでは各帖ごとの概要をメモしておきます。 1帖「桐壺」光をまとって生まれた皇子 まだ小説とは言い切れない王朝物語のトーンで光君の誕生が語られます。帝に深く愛された桐壷更衣は気品に満ちた光君を生んだも…

日本文学全集4 源氏物語 上 概説(池澤夏樹編/角田光代訳)

『源氏物語』を通して読むのは、高校生の時に岩波の「日本古典文学大系(通称)赤大系」全5巻を読んで以来です。その時はいわば古文勉強であって、脳内で口語訳するのに必死のあまり、全体の物語構成や表現の素晴らしさを味わう余裕などありませんでした。…