りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2021-03-01から1ヶ月間の記事一覧

2021/3 Best 3

1.ライフ・アフター・ライフ(ケイト・アトキンソン) 事故や病気、犯罪や戦争の犠牲者となるたびに何度も生まれ変わって人生をやり直す女性は、不慮の死を避けて生き延びることを覚えていきます。しかし人生の目的とは、長く生きるだけなのでしょうか。よ…

ワカタケル(池澤夏樹)

著者の個人編集による『日本文学全集1古事記』の現代語訳から6年、古事記に題材を得た小説が誕生しました。ワカタケルとは、鉄剣銘や鉄刀銘によって実在が証明されている第21代雄略天皇のこと。本書で描かれるのは、神話が終わり、歴史がはじまろうとし…

綴る女 評伝・宮尾登美子(林真理子)

多くの作品が映画やドラマとなり、ひところは国民的作家とも言われていた宮尾登美子の評伝に取り組んだのは、生前の宮尾と親交が深かった林真理子です。『櫂』『陽暉楼』『寒椿』『鬼龍院花子の生涯』『朱夏』『春燈』など、自らの前半生に題材を求めた小説…

アメリカ残酷物語(ジャック・ロンドン)

著者が短編の名手でもあったことは、『火を熾す』で知りました。本書は、『荒野の呼び声』や『白い牙』など野性味豊かな作品で知られる著者らしく、人間の中に潜む欲望や残虐性を暴いた作品をを集めた短編集です。オチが効いている作品が多いのは意外でした…

キッドの運命(中島京子)

『FUTON』でデビューし、『小さいおうち』で直木賞を受賞した著者には、SF的な近未来小説など似つかわしくないように思えたのですが、作家の想像力は無限ですね。ジャンルの壁など軽々と飛び越えてしまいました。 「ベンジャミン」 父が飼っていたベ…

おちび(エドワード・ケアリー)

プラスティック粘土で精密な街の模型を作り続ける双子姉妹『アルヴァとイルヴァ』の著者ですから、緻密な物語を綴ることはわかっていました。「おちび」ことマダム・タッソーの半生こそは、まさにこの著者にふさわしい題材なのです。しかも著者は、マダム・…

レディ・ヴィクトリア 5 ローズの秘密のノートから(篠田真由美)

19世紀末ヴィクトリア朝のロンドンを舞台にして、天真爛漫なレディ・シーモアと、国際色豊かな使用人たちが活躍する「歴史ミステリ」の最終章。 本書は4つの中編からなっています。第1章は17歳になったメイドのローズが、奥様から豪華な革表紙と鍵がつ…

JR上野駅公園口(柳美里)

1933年に福島県相馬郡で「天皇」と同じ日に生まれた男の生涯は、日本の影だったのかもしれません。結婚して1960年の「皇太子」と同じ日に息子を授かったものの、貧窮生活を支えるために1963年には東京への出稼ぎが始めなくてはなりませんでした…

ヴェネツィアの恋人(高野史緒)

大胆にもドストエフスキーの『カラマーゾフの兄妹』の続編『カラマーゾフの妹』を書いてしまった著者は、もともとSF系の作家です。『妹』ではコーリャの秘密結社でディファレンス・エンジンやロケット技術の実用化が図られている箇所は浮いていたように思…

コイコワレ(乾ルカ)

伊坂幸太郎さんが提唱した、「日本の歴史は海族と山族という2つの種族の抗争の中で営まれてきた」というルールのもとで綴られた企画ものの中の1冊です。本書の舞台は、敗戦間近の日本です。 東京から東北の田舎に集団疎開してきた小学生の中で、6年生の浜…

へぼ侍(坂上泉)

戦後大阪で起こった連続殺人事件を描いた『インビジブル』が素晴らしかったので、デビュー作の本書を読んでみました。「へぼ鎮台」と揶揄された大阪鎮台の兵士として西南戦争に参加した主人公が、戦争体験を通じて成長していく物語。 大阪奉行所与力の跡取り…

植物園の世紀(川島昭夫)

2020年2月に69歳で亡くなられた著者の業績を偲んで、ゼミ出身者の方々が出版された遺作です。京都大学で長年に渡って教鞭を執られた著者は、18世紀イギリスを中心として南形熊楠研究など幅広い業績を残された方ですが、本書は主に晩年に取り組んだ…

クリック?クラック!(エドウィージ・ダンティカ)

タイトルはグリム童話が始まる時に投げかけられる言葉です。語り手の「クリック?」との問いかけに聞き手が「クラック!」と答えることで昔話が始まるわけです。本書はハイチ生まれの若い著者による連作短編集。互いに似ていて、どこにいても、たとえ死んで…

壊れた世界の者たちよ(ドン・ウィンズロウ)

「メキシコ麻薬戦争3部作」を書き上げた著者が次に発表したのは、まさかまさかの中編小説集でした。しかし著者の引き出しの多さをあらためて実感できました。過去の作品の登場人物が姿を見せてくれたのは、意表を突かれました。しかも決してエピローグ的で…

ザ・ボーダー 下(ドン・ウィンズロウ)

アメリカの麻薬捜査官アート・ケラーを中心に据えた「メキシコの麻薬カルテル3部作」がついに完結を迎えます。麻薬取締局長となったケラーが指揮するトップダウンとボトムアップの両面作戦はついに交わり、驚くべき人物の関与が浮かび上がってきます。それ…

ザ・ボーダー 上(ドン・ウィンズロウ)

アメリカの麻薬捜査官アート・ケラーを中心に据えて、メキシコの麻薬カルテルとの壮絶な戦いを描いた大河群像劇が完結しました。第1部にあたる『犬の力』は1975年に始まり、メキシコ麻薬カルテルの誕生と第2世代にあたる宿敵アダン・バレーラへの継承…

ダ・フォース 下(ドン・ウィンズロウ

マンハッタンに君臨する警官たちのリーダー、マローンは、汚職警官の捜査を極秘裏に進めるFBIによって追い詰められていきます。彼自身が最も忌み嫌っていた内部通報者「ネズミ」となって、最も信頼してきた仲間たちを「売る」ことを強制されていくのです…

ダ・フォース 上 (ドン・ウィンズロウ)

カリフォルニアに在住して、主に西海岸を舞台とする犯罪小説を書いてきた著者ですが、本書の主人公はニューヨークの警官。しかし本書は読者の期待を裏切りません。著者自身が「これまでの人生はこの本を書くための準備期間だったのではないか」とすら語って…

三つ編み(レティシア・コロンバニ)

プロローグで「これは私の物語。なのに、私のものではない」と宣言される本書は、3つの大陸にまたがる3人の女性の物語。「女性としての尊厳や女性性の象徴」ともいえる髪を通して、交わるはずもない3人の人生がどのように関わり合っていきます。 インドで…

アンチェルの蝶(遠田潤子)

幕末の奄美大島が舞台の『月桃夜』でファンタジーノヴェル大賞を受賞した作家の2作目としては、かなり意表を着かれました。本書は現代の大阪を舞台とするダークな作品なのです。もっとも虐げられた少年少女の純愛と悲劇というテーマは共通しているのですが。…

スワン(呉勝浩)

巨大ショッピングセンターで起きた無差別銃撃事件。2人組の犯人は実弾を装着した模造銃を用いて21名を殺害後に自殺。しかし事件は終了しても、被害者や近親者はトラウマを抱え続けます。しかも事件の最中に取った行動が非難される者までいるのです。 主人…

メアリ・ジキルとマッド・サイエンティストの娘たち(シオドラ・ゴス)

ヴィクトリア朝のロンドン。科学者だった父親が自殺した後、長く病んでいた母親も亡くしたメアリ・ジキルは、母が「ハイド」という人物に毎月送金していたことを知らされます。その人物とはダイアナ・ハイドというすれっからしの少女。読者はもう気付きます…

駆け入りの寺(澤田瞳子)

皇女や高位の公家の姫君を住持を務める門跡寺院は、京都・奈良を中心に15山あるとのこと。本書は、比叡山の麓に立ち比丘尼御所とも呼ばれる林丘寺を舞台に繰り広げられる人間模様を描いた物語。視点人物は寺院の雑用をこなす青侍である静馬ですが、中心と…

二百十番館にようこそ(加納朋子)

20代後半にしてニートでネトゲ廃人の主人公は、突然両親から捨てられてしまいます。決定的だったのは「親の年金で暮らして、親が死んだら生活保護」と言い放った言葉だった模様、手切れ金としてもらったのは、伯父が遺してくれたという離島の大きな建物と…

ライフ・アフター・ライフ(ケイト・アトキンソン)

何度も生き返ることが可能だとしたら、人はより良い人生をおくることができるのでしょうか。あるいは世界を救うような正義を実現できるようになるのでしょうか。「もしもヒトラーの権力掌握を阻止できていたら。席はどうなっていたか?」という仮想のもとに…

紅霞後宮物語 第11幕(雪村花菜)

架空の王朝「宸」の軍人皇后として、後に神格化される小玉の物語を軽妙に語る人気シリーズの第11作。第2部も3巻めに入って物語は佳境に入っていきます。 新たに後宮に入ってきた見るからに「悪女面」の美女・仙娥が懐妊。皇帝の文林は彼女には絶対に手を…