りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2020-09-01から1ヶ月間の記事一覧

2020/9 Best 3

今更ながら堀田善衞さんの作品を読みふけっています。これまで大著『ゴヤ』と『ミシェル城館の人』しか読んでいなかったのですが、『路上の人』を読んで彼の著作が持つ熱量を理解できたせいかもしれません。今月1位とした『若き日の詩人たちの肖像』の熱量…

レオナルドのユダ(レオ・ペルッツ)

15世紀末のミラノ。スフォルツ公に招かれてミラノに滞在し、「最後の晩餐」を描いているレオナルド・ダ・ヴィンチの筆は進みません。レオナルド・ダ・ヴィンチはこの大作の最重要ポイントである「ユダ」の顔のイメージが掴めないというのです。「この世の…

紅霞後宮物語 第0幕4(雪村花菜)

後に「伝説の皇后」となる関小玉の軍人時代を描く「第0幕」も4巻目に入りました。本書では主に、小玉の兄嫁であった三娘と、従卒から宦官になって小玉に仕える清喜クンについてが描かれています。 亡くなった母の服喪で生国の貧村に戻ってきた小玉を迎えた…

マジック・フォー・ビギナーズ(ケリー・リンク)

『空中スキップ』のジュディ・バドニッツや『燃えるスカートの少女』のエイミー・ベンダーや『いちばんここに似合う人』のミランダ・ジュライなど、21世紀アメリカにおいて、ファンタジーともSFとのホラーとも分類できない奇妙な文学の潮流が起こってい…

月の光(ケン・リュウ編)

この数年で中国のSFは世界に爆発的に広まりました。中国の科学技術の発展と比較すると遅すぎるくらいですが、1980年代に反体制小説として批判されたことで、2000年代に入るまでてSF小説家は存在していなかったとのこと。本書は『折りたたみ北京…

方丈記私記(堀田善衞)

「ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」の名文で始まる『方丈記』は、無常感を表現する随筆として紹介されますが、著者の読み方は違います。著者は鴨長明を「言語に絶する大乱世を、酷薄なまでにリアリスティックに見すえて生きぬいた一人の…

オデッサ物語(イサーク・バーベリ)

1894年にオデッサのユダヤ人街に生まれたバーベリは、ロシア革命に際して赤軍に入隊するものの、病を得て翌年に帰郷。1920年代に発表した短編は熱狂的な人気を博したものの、やがて革命の理想と現実のギャップに気付いて次第に寡作となり、ついには…

お伊勢ものがたり 親子三代道中記(梶よう子)

頼りにならない新米の御師に案内されて、親子三代の武家の女性がお伊勢参りに向かう道中記。夫に先立たれた祖母のまつは、平凡な人生から逸脱して老後生活を実りあるものとする手始めにお伊勢参りを決意します。婚家で理想的な嫁を演じている娘の香矢は、二…

完本小林一茶(井上ひさし)

傑作戯曲「小林一茶」をメインに据えて、一茶をめぐるエッセイ、俳人・金子兜太との対談、著者選の「一茶百句」をセットにした「完本」です。「我と来て遊ぶや親のない雀」や、「痩蛙負けるな一茶是に有」や、「やれ打な蠅が手をすり足をする」や、「雀の子…

縁切寺お助け帖(2)姉弟ふたり(田牧大和)

縁切寺として有名な北鎌倉の東慶寺を舞台とする、シリーズ第2作です。水戸家の姫君から院代に転じた法秀尼。姫君の侍女としてついてきた人情の機微に敏い桂泉尼。元駆け込み女で理詰めの論法に強い秋山尼。かつては反東慶寺勢力から送り込まれた刺客であっ…

橋上幻像(堀田善衞)

1968年に出版された『若き日の詩人たちの肖像』の2年後に書かれた本作品も、「国家の横暴に対する怒り」という同じテーマを扱っています。タイトルは、時間の交差点である「Y字型の橋の中心点」という虚点に誘われた読者が、作者に代わって現れる登場…

若き日の詩人たちの肖像 下(堀田善衞)

日米開戦とともに、時代の闇は一段と深くなっていくようです。それは特高や右翼が、緒戦の戦果を「自分たちの勝利」と認識していることに象徴されていました。やがてその感覚は国民に強制され、世間に広く蔓延してしまうのです。 著者の分身である主人公は、…

若き日の詩人たちの肖像 上(堀田善衞)

1918年に生まれた著者が、自らの青年時代を題材にして描いた自伝的長編です。富山の廻船問屋の家に生まれ、金沢の中学校に通った少年が、大学受験のために上京したのは1936年の2月26日。226事件が起こった日でした。このことに象徴されるよう…

さよならの儀式(宮部みゆき)

時代ものから現代もの、ミステリからファンタジーまで何でも超一流の作品を書き続けている著者ですが、本書は8編のSFからなる短編集。実は、著者のSFは他の分野の作品ほどには魅力を感じないのです。ガジェットに新味がないせいなのでしょうか。もちろ…

ある子ども ギヴァー4部作完結編(ロイス・ローリー)

長い間3部作と思われていたシリーズに対して、8年後に書き加えられた第4部では、ジョナスが作り上げた村の「その後」が描かれます。 物語は、第1部『ギヴァー』でジョナスがコミュニティを出る際に連れていた幼児ゲイブの誕生から始まります。「出産母」…

メッセンジャー 緑の森の使者(ロイス・ローリー)

第2部から6年後の物語。かつての野生児マティは、魔法の指を持つ少女キラと別れ、視力を失っていたキラの父親と一緒に、新しく開かれた村で暮らしています。そこは記憶の器であったジョナスが若き指導者として拓いた、つつましいながら相互扶助の精神にあ…

ギャザリング・ブルー 青を蒐める者(ロイス・ローリー)

前作『ギヴァー』と同じ時代の物語ですが、本書では別のコミュニティが舞台となります。ここは一握りの守護者のみが富を独占し、大勢の庶民たちは絶望的な貧困と、それが生み出す残酷な争いの中で暮らしている世界。 かつて狩で父を亡くし、今度は病気で母を…

ギヴァー 記憶を注ぐ者(ロイス・ローリー)

いかなる不便も、争いやもめごとも、飢餓も貧困もない世界。その代償として全てが管理され、職業選択も居住場所も、配偶者の選択も家族構成も自由には決められず、嘘をつく自由すらない世界。肌の色による差別が起きることのないよう色を見る能力は奪われ、…

フラナリー・オコナーのジョージア(サラ・ゴードン)

1925年生まれのフラナリーは、大学院時代のアイオワと卒業にニューヨークで暮らした4年間を除いて、39歳で亡くなるまでのほぼ全生涯をジョージアで過ごした作家です。「暴力的でグロテスク」という印象が強かったために、これまで避けてきた「フラナ…

フラナリー・オコナー全短篇 下(フラナリー・オコナー)

下巻は、著者の死後に発刊された短編集『すべて上昇するものは一点に集まる』に、後期の2作品を加えたラインアップ。1964年に亡くなった著者の生涯は解放権運動とほとんどラップしていませんが、古くから南部白人が抱いていた黒人のイメージが崩壊して…

フラナリー・オコナー全短篇 上(フラナリー・オコナー)

著者は、1925年にアメリカ南部のサヴァンナに生まれ、アイオワ州立大学院と文化財団が運営するニューヨークの居住施設に住んだ4年間を除く生涯をジョージアで過ごした作家です。難病に苦しみながら39歳で亡くなるまで精力的に作品を書き続け、オー・…

ラ・ロシュフーコー公爵傳説(続)堀田善衞

ラ・ロシュフーコー公爵の『箴言』にある言葉を少し紹介しておきましょう。彼が生きた17世紀フランスは、絶対王政が確立していった時代として纏められますが、その一方で名門貴族階級の弱体化と新興ブルジョワジー階級の成長が起こっていました。旧態依然…

ラ・ロシュフーコー公爵傳説(堀田善衞)

16世紀から18世紀にかけてのフランス文学界において、自分や周囲を冷静に観察・分析してエッセーや箴言の形で的確に表現している人々が「モラリスト」と呼ばれているそうです。代表的な人物がモンテスキューとラ・ロシュフーコーであり、著者は『ミシェ…

アポロンと5つの神託 3.炎の迷路(リック・リオーダン)

ゼウスによって冴えない人間の少年に変えられてしまい神としての力を失ったアポロンが、豊穣の女神デメテルを母いに持つハーフ少女メグたちの協力を得て、失われた5つの神託を探すシリーズも中盤の第3巻まできました。 神託を奪い去った敵は、現代に蘇った…

戦争の犬たち(フレデリック・フォーサイス)

フォーサイス自身が赤道ギニアのクーデター支援を試みたという噂がある本書は、前2作にも増して事実とフィクションが混然一体としている作品です。 アフリカ某国から傭兵たちが撤退する冒頭と、意外な勢力が登場する結末が、著者が描きたかったことであり、…

オデッサ・ファイル(フレデリック・フォーサイス)

昨年秋に著者の自伝的小説である『アウトサイダー』を読み、初期3部作を読み返してみたくなりました。20代で通信社の海外特派員となって、パリ・東ベルリン・ナイジェリアに駐在した経験が、それぞれ『ジャッカルの日』、『オデッサ・ファイル』、『戦争…