りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2020-06-01から1ヶ月間の記事一覧

2020/6 Best 3

緊急事態の外出自粛は耐えられるけれど、図書館の長期休館は辛い。6月にアップしたレビューは5月に読んだ本が大半ですが、休館前に急いで借り出した大作と、近くのブックオフで大量購入した100円均一本の両極端です。 1.ヒア・アイ・アム(ジョナサン…

眠れないほど面白い『古事記』(由良弥生)

最近では『池澤夏樹編 日本文学全集』の第1巻で『古事記』を読みましたが、この種の本は何度も読んで記憶に残るもの。本書は「愛と野望、エロスが渦巻く壮大な物語」という煽情的な副題がついている入門書ですが、基本的な物語はおとんど収録されています。…

The MANZAI 1(あさのあつこ)

中学2年の秋に転校生の瀬田歩は、サッカー部の次期キャプテンと噂される秋本貴史から、いきなり「おつきあい」を申し込まれます。これはイジメの隠語なのか。まさかBLの申し込みなのか。動揺する瀬田に秋元は「漫才のコンビになってくれ」というのです。 …

縁切寺お助け帖(田牧大和)

斬新な視点で時代小説を書き続けている著者は、主人公や語り手自身が謎や闇を抱えていることが多いのですが、本書もそんな作品です。 千姫と秀頼の娘で、家康の孫でもある天秀尼が住持を勤めた鎌倉の東慶寺は、幕府公認の縁切寺でしたが、住持が不在となった…

活版印刷三日月堂4.雲の日記帳(ほしおさなえ)

川越の小さな活版印刷所「三日月堂」を再開させた弓子さんの物語は、ここでいったん完結します。最終巻にふわさしく、これまで描かれた人々もたくさん再登場。そして弓子さんの想いと夢も実現に向かいます。 「星をつなぐ線」 プラネタリウムがリニューアル…

活版印刷三日月堂3.庭のアルバム(ほしおさなえ)

祖父が残した川越の小さな活版印刷所「三日月堂」を再開させた弓子さんの活動は、町の人々を結び付けるだけではありません。「起承転結」の「転」にあたるシリーズ第3巻では、彼女自身の過去が少しずつ語られるとともに、彼女自身の夢が少しずつ形になって…

楽園への道(マリオ・バルガス=リョサ)

著者の故郷ペルーには、目隠しされた鬼が「ここは楽園ですか」と聞きながら正しい場所に戻っていくという遊びがあるそうです。本書は、決してたどり着くことのないユートピアを求めて彷徨した、2人の男女の物語。ひとりは19世紀の女性解放運動家フローラ…

ヒア・アイ・アム(ジョナサン・サフラン・フォア)

緊急事態宣言で図書館が長期閉館されてしまう間にじっくり読もうと、851ページもあり、重さも1.2kgを超える大著を借りてきたのですが、まさかこれを1日半で読み切ってしまうとは思いませんでした。『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』の著…

ひとの恋路をジャマするヤツは(堀川アサコ)

舞台は青森。主人公は2人の独身女性たち。女優としてデビューしながら不倫騒動でたたかれ、東京から逃げかえってきてタクシー運転手となった和子と、小学校の教師となってイジメ問題に向き合っている従姉の薫。 和子と同居している2人の祖母・鯛子はイタコ…

翡翠城市(フォンダ・リー)

緑色に輝く美しい翡翠は、まるで逆クリプトナイト。本書は、まるで香港や台湾を思わせる架空のケコン島を舞台にして、翡翠を身に着けることで異能力を発揮する戦士グリーンボーンたちが活躍するSFアクションです。 とはいえストーリーラインはまるで「ゴッ…

エンタングル:ガール(高島雄哉)

2006年にTV放映され、その後も何作か映画化されたアニメ「ゼーガペイン」のスピンオフ作品とのことですが、本編のことを知らずに本書を読んだ次第です。でもそれでOKですね。本書を解説した声優の花澤香菜さんは、そのほうが度肝を抜かれるはずでう…

通過者(ジャン=クリストフ・グランジェ)

先日久しぶりに、著者の新作『死者の国』を読んだ際に、本書が出版されていたことに気づきました。著者が得意とする、記憶の不確かさをテーマとする物語ですが、本書の場合には背後に巨大な陰謀と個人的な確執が潜んでいます。『狼の帝国』との近似もありま…

ポルトガル短篇小説傑作選(ルイ・ズィンク/編)

ポルトガル文学といわれても、ほとんど馴染みがありません。中世から19世紀初めまで最も厳しい異端審問制度が続き、その後も1974年まで独裁政権が言論統制を強いていたことも影響があるのでしょうか。しかし本書を読んでみると、ポルトガル文学には隣…

湖底の城 9巻(宮城谷昌光)

ついに呉越の長い戦いに決着が着く時が訪れます。越がひたすら恭順の意を魅せながら富国強兵策に努めている間に、呉は中原の覇者の座を狙っていたずらに国力を浪費。呉の行く末を見限った伍子胥は、息子を斉に預けたことを讒言されて、夫差から自害を命じら…

湖底の城 8巻(宮城谷昌光)

呉王夫差が総力をあげて、越に復習を果たそうとしています。迎え撃つ越王句践と范蠡は、すさまじい秘策を練り上げます。それは大量の軍船を山越えさせて太湖のほとりに運び込み、全軍が出兵して空になった呉都を急襲すること。 しかし今回は伍子胥が一枚上手…

湖底の城 7巻(宮城谷昌光)

物語の主人公は、ここで伍子胥から范蠡に代わります。もともと范蠡を中心とする「呉越春秋」を描きたかったという著者にとって、ここまでの6巻は長い長いプロローグだったのでしょうか。ここからがタイトル通りの物語となっていきます。 楚の北部に位置する…

湖底の城 6巻(宮城谷昌光)

ついに呉と楚の決戦が始まりました。きっかけは楚の実験を握っている令尹子常の傲慢さに不満を抱いた、属国の蔡と唐が、楚を見切って呉側についたことでした。大軍どうしが正対する大戦においても、「孫武の兵法」は威力を発揮します。情報戦に勝ち、敵の意…

湖底の城 5巻(宮城谷昌光)

新たに王となった闔廬のもとで、呉は黄金期を迎えようとしています。これまで呉の外交を担ってきた知識人の李氏の勧めで東の大国・斉に向かい、宰相の晏嬰らと面会してその信を得ます。特筆すべきは、今なお信奉者の多い「孫氏の兵法」の創始者である孫武を…

湖底の城 4巻(宮城谷昌光)

シリーズ第4巻は、楚の公子光が王位に即位するまでの過程が描かれます。その直前に起こったのが、呉王の楚への親征でした。伍子胥は公子光の参謀として参陣し、鐘離の陣、雞父の戦いで楚軍を圧倒して凱旋。かつて父が仕えていた廃太子健の母親を連れ帰り、…

湖底の城 3巻(宮城谷昌光)

奸臣・費無極の讒言を入れて父と兄を処刑した楚の平王への深い怨みを抱いて、伍子胥は祖国を脱出。宋の首都・商丘で配下たちと再会を果たした後に、父が仕えていた太子健の亡命先である鄭へと向かいます。宋では親友・申包胥のし庶弟である褒小羊という童子…

湖底の城 2巻(宮城谷昌光)

呉の公子光が大船団を率いて楚に侵入しますが、両軍は一勝一敗。しかし楚の令尹(首相)子瑕は、平王の信頼を失います。そして楚の婚礼に際して事件が発生。太子健のもとに嫁いでくる隣国・秦の姫君を、なんと実父である平王が横取りしてしまったのです。ど…

湖底の城 1巻(宮城谷昌光)

「呉越春秋」と副題が付けられた本シリーズで著者は、「臥薪嘗胆」のことわざで有名な呉王・夫差と越王・句践の物語を描きたいとの意図があったようです。しかしながら中原から遠い南方の戦いに関する歴史的資料が少ないことに加え、物語の起点が悩ましかっ…