りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2020-04-01から1ヶ月間の記事一覧

2020/4 Best 3

パオロ・ジョルダーノさんの真摯なエッセイ『コロナの時代の僕ら』が緊急出版されました。ネットで無料先行配信されていたので、読んだ人も多いのではないでしょうか。母国イタリアの混乱の中でに人々の関わり方が決定的に変わってしまったことを悲しみなが…

コロナの時代の僕ら(パオロ・ジョルダーノ)

日本よりも先行して新型コロナ禍に苦しんでいるイタリアの小説家によるエッセイが、緊急出版されました。素粒子物理学者でもある著者の『素数たちの孤独』はエゴイストの男女たちのに悲恋物語で少々辟易した覚えがありますが、本書は著者の切実な思索が率直…

偶然仕掛け人(ヨアブ・ブルーム)

イスラエル発のファンタジーですが、ふわふわした物語ではありません。本書を絶賛したというジョナサン・キャロルや、ニール・ゲイマンを思わせる作品です。 「偶然仕掛け人」とは、指令に基づき、偶然の出来事が自然に引き起こされるよう暗躍する秘密の存在…

なんらかの事情(岸本佐知子)

筑摩書房のPR誌「ちくま」に連載されているエッセイ『ネにもつタイプ』の単行本化第2集。読む順番が前後してしまいましたが、第3集は先日読んだ『ひみつのしつもん』。彼女の頭の中は、彼女が翻訳したジュディ・バドニッツ並みに不思議な発想でいっぱい…

あさ美さんの家さがし(黒野伸一)

失恋して銀行OLを辞め「場末のキャバ嬢」となったあさ美。崩壊寸前の家庭から逃げ出してあさ美の上客となる邦彦。空き家になった実家に元同級生のホームレス男性を住まわせた洋子(あさ美の母)。夫が失業して子連れで慣れないキャバクラ勤めを始めた唯。…

天平グレート・ジャーニー(上野誠)

題は「遣唐使・平群広成の数奇な冒険」。遣隋使・遣唐使というと思い出されるのは、最初に名前が記された小野妹子、エリート官僚の阿倍仲麻呂、吉備真備、菅原道真、宗教者の最澄と空海、詩人の山上憶良などでしょうか。平群広成(へぐりのひろなり)などと…

生命の樹(マリーズ・コンデ)

選考委員の不祥事によって見送られた2018年のノーベル文学賞の代替賞を授賞したのは、フランス海外県グアドループ島出身の女性作家でした。本書は、彼女の故郷であるカリブ海の島嶼を舞台とするルイ一族の物語。語り手は一族の4代目にあたる、1960…

待ち望まれし者 下(キャスリン・マゴーワン)

下巻ではついに「マグダラのマリアの福音書」の内容が紹介されます。しかも「小説の中の小説」といっても良いくらい、詳細に記されているのです。私の経験上、「古代の秘密を探求する物語の面白さは秘密の内容に比例するものであり、面白い場合でもその内容…

待ち望まれし者 上(キャスリン・マゴーワン)

『ダ・ヴィンチ・コード』で一躍脚光を浴びた「マグダラのマリア」についての新解釈、というよりも著者の信念が綴られた作品です。フェミニストである著者は「男たちによって書かれた歴史書では女性は抹殺されている。無視できない場合には悪女として描かれ…

おもてなし時空カフェ(堀川アサコ)

先に読んだ『おもてなし時空ホテル』の続編です。なぜか時間旅行者しか宿泊できないホテルに採用されてしまい、新米の一般人なのに時間旅行に関するトラブル解決を迫られた桜井千鶴は、ホテル系列のカフェに出向。そこは何匹もの犬を飼っている犬カフェであ…

帰蝶(諸田玲子)

今年の大河ドラマで帰蝶役の女優が急遽交替になって話題になりましたが、彼女の生涯についてはほとんど記録に残っていないようです。これまでの歴史小説やドラマでも彼女の扱いはさまざまであり、創作者の想像力を掻き立てる存在なのでしょう。なんといって…

街道をゆく 38.オホーツク街道(司馬遼太郎)

無性に流氷が見たくなって、2月中旬に紋別まで行って流氷船ガリンコ号に乗船してきました。まだ北海道での新型コロナ感染が話題になる前だったのですが、戻ってから2週間、発熱しないかと心配してしまいました。そんな関係で、稚内から紋別経由で網走から…

しゃばけ18 てんげんつう(畠中恵)

このシリーズも18冊め。ひところはマンネリ感が漂って終了間近とも思いましたが、死生観を前面に出すことで打開。最近では「偉大なるマンネリ」の境地に達しつつあるようです。今回は、若だんな一太郎の許嫁於りんちゃんの実家である中屋が次から次へと災…

椿宿の辺りに(梨木香歩)

全く予備知識を持たずに読んでいたので、本書が『f植物園の巣穴』の姉妹編であることに、終盤まで気づきませんでした。でも気付いた時には興奮したので、知らなくて良かったのかもしれません。 主人公の名前はなんと山幸彦。山彦を通称として化粧品会社で皮…

黄金列車(佐藤亜紀)

著者は、名作『天使』の舞台としたオーストリア=ハンガリー二重帝国に強い関心があり、メッテルニヒの伝記を書こうとしていたそうです。しかし調査を進めるに連れて、彼はただの普通の役人であり、しかもその役人ぶりが面白くて気になってきたとのこと。そ…

おもてなし時空ホテル(堀川アサコ)

「職探し中の若い女性が不思議な職を得る」というのは、『幻想郵便局』以来、著者が得意とする書き出しですが、本書もその類型。一般人の桜井千鶴が採用された、北日本のとある都市でひっそりと営業する「はなぞのホテル」には、過去や未来から来た「時間旅…

チンギス・ハーンの一族4.斜陽万里(陳舜臣)

モンゴル帝国の第5代ハーンとなったフビライは、バヤンを総指令に任命して南宋攻略に乗り出します。彼の戦いぶりは見事でした。むやみに敵を殺害することなく、降伏者を寛大に扱って登用していったのです。南宋を滅ぼした軍の主力は、漢人部隊と言っても過…

チンギス・ハーンの一族3.滄海への道(陳舜臣)

第4代の大ハーンとなったモンケは領土拡張政策をやめることなく、次弟フビライには南宋を、三弟フラグにはイラン方面の攻略に乗り出します。軍事的才能と政治的統率力に優れた大ハーンであり、分裂傾向を見せ始めていたモンゴル帝国を再度一体化させるので…

チンギス・ハーンの一族2.中原を征く(陳舜臣)

一度はモンゴルに臣従しながら叛旗を翻した西夏を滅ぼし、金の征服に向かう途上でチンギスは病死。壮大なモンゴル紀の第2巻は、一代で大帝国を築き上げたチンギス亡き後の第2世代の物語になっていきます。 カザフスタン以西の征服を委ねられた長男ジュチは…

チンギス・ハーンの一族1.草原の覇者(陳舜臣)

北方謙三さんが『チンギス紀』を執筆中であることを機に、全4巻の本書を再読。本書の主題はチンギスに始まる「一族」の興亡を描き切ることにあるため、大主役のチンギスは早くも第2巻の中盤で亡くなってしまいます。「語り継ぐ人物」が必要となるのですが…

ぐるぐる問答 森見登美彦氏対談集】

「ただ正直に出たとこ勝負で喋るだけなので、たいていの対談でぐるぐるしてしまう」から『ぐるぐる問答』。対談の名手ではないことを自認する著者ですが、対談とはやはり「出会い」であり、「人間は陣弦との出会いを通して人生を刻んでいく」ものと、最後に…

ひみつのしつもん(岸本佐知子)

筑摩書房のPR誌「ちくま」に連載されているエッセイ「ネにもつタイプ」の単行本化第3冊です。そういえば第1冊の『ねにもつタイプ』は13年前に読んだけれど、第2冊『何らかの事情』は出ていたことすら気づきませんでした。順番が逆になってしまいまし…

カステラ(パク・ミンギュ)

2015年に第1回日本翻訳大賞を受賞した作品です。既に『ピンポン』や『ダブル』を読んでしまっているのであらためての驚きはありませんでしたが、重いテーマを奇想の中に閉じ込めてしまう著者独特の発想は凄すぎます。 「カステラ」 うるさくて鬱陶しい…