りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2020-02-01から1ヶ月間の記事一覧

2020/2 Best 3

1.国宝 青春篇・花道篇(吉田修一) 歌舞伎の名女形として人間国宝となった人物の一代記は、作家生活20周年の節目を迎えた著者渾身の大作でした。長崎の任侠一門に生まれた主人公の喜久雄は、抗争で父を殺害された後に大阪歌舞伎の女形に入門。御曹司界…

カルメン/タマンゴ(メリメ)

ビゼーのオペラで有名な「カルメン」を初めて読みましたが、オペラの物語とは大きく異なっているので驚きました。原作からは「野性美にあふれた悩殺的美女で悪女」というカルメンの女性像を取り入れましたが、それ以外は相当に手を加えたようです。カルメン…

物語アラビアの歴史(蔀勇造)

ひとくちに「アラビアの歴史」といっても、範囲は広いし時代も長い。本書では、地域的にはシリア高原以南のアラビア半島に限定し、時間的には古代から現代までをカバーするものの重点はイスラム以前の古代に重点を置いています。史跡も文献も限られているた…

ダブル SIDE B(パク・ミンギュ)

2冊同時刊行の短篇集が「サイドA」と「サイドB」と名づけられているのは、表紙の絵からも明らかなようにLPレコードを模しています。そういえば著者の作品には、音楽が多く登場しているのです。 「昼寝」 妻を亡くして老人ホームに入った男が、高校時代…

ダブル SIDE A(パク・ミンギュ)

『三美スーパースターズ』で弱小球団を愛した男の再生を描き、『ピンポン』で世界を救った負け犬少年の真情を描き、『亡き王女のためのパヴァーヌ』でルックス重視の韓国でとてつもなく醜い女性への純愛を描いた著者の短編集が、『ダブル』として2分冊で発…

夢も見ずに眠った。(絲山秋子)

「ロールモデルを失った世代」における夫婦像を描いた作品と言ってしまうと、本書の凄みを伝えきれないかもしれません。本書の良さは、ひとつひとつの会話、その背景にある各地方の風景、さらにそれらと連動して揺らぐ心象描写などのデテイルにあるのです。…

壁(安倍公房)

「壁」をテーマとする前衛的な作品が並ぶ、著者初期の中短編集です。「古今東西の作家が壁にぶちかり、あるいは避けたりする中で、安倍公房は壁にチョークで絵を描き始めた」との趣旨で本書を紹介した、石川淳氏による序文も秀逸です。 「第一部 S・カルマ氏…

マンハッタン・ビーチ(ジェニファー・イーガン)

1934年。アナが11歳の時に父親エディは姿を消しました。大恐慌によって職も資産も失ったエディは、ギャングの大物でクラブのオーナーであるデクスターのために裏社会の仕事をしていたのですが、彼女にはそんな事情はわかりません。アナが覚えていたの…

ケミストリー(ウェイク・ワン)

本書を一言で表すならば「こじらせリケジョの迷い」なのでしょう。ボストンにある全米屈指の大学院の博士課程に在籍しながら、化学の実験はうまくいかずに投げ出す寸前。容姿も頭脳も性格も良い同棲中の彼氏からは何度もプロポーズされながらも、素直に「Y…

おもいおもわれふりふられ(堀川アサコ)

カスハラ客とパワハラ上司に我慢できずに辞表を突きつけたミノリ。キャバクラ勤めに嫌気がさした元ヤンキーの李花。「巫女募集」の張り紙を見つけて新米巫女となった2人の若い女性の奮戦記。 本書で描かれるのは、神社に参拝する人たちのさまざまな思いです…

はい、チーズ(カート・ヴォネガット)

20世紀後半に活躍した作家ヴィネガットの未発表作品集です。SF作家として分類されることも多い著者ですが、本人はそのようなレッテル張りを嫌っていたとのこと。本書の収録作品でも、SF的テイストが味わえるものは数作にすぎません。 「耳の中の親友」…

日はまた昇る(ヘミングウェイ)

第一次大戦のイタリア戦線で重傷を負ったヘミングウェイが年上の看護婦と恋に落ちた実話は、後に『武器よさらば』として結実しますが、長編第一作は戦後のヨーロッパで過ごした享楽的で自堕落な生活から題材を得た本書です。 主人公は、戦争中の負傷で性的不…

ロビン・フッドの愉快な冒険(ハワード・パイル)

中世イングランドで活躍したというロビン・フッドの名前を知らない人はいないでしょう。シャーウッドの森を住みかとする義賊で、弓の名人であり、恋人はマリアン。後にはリチャード獅子心王に仕えたことなどは断片的には知っていましたが、物語自体を読んだ…

京都伏見のあやかし甘味帖 4(柏てん)

一瞬にして仕事も恋も失って京都で人生休憩中の小薄れんげのシリーズ第4作の舞台は、京都を離れて平泉に移ります。れんげは、前巻で赤ちゃんから見る見る成長した義経と、彼を天狗たちから救いに現れた弁慶を連れて、義経の妻の墓所へと向かったのです。こ…

タダイマトビラ(村田沙耶香)

自分の子どもを愛せない母親のもとで育った少女は、家族欲を満たすために「カゾクヨナニー」という秘密の行為に没頭します。脳内に理想の家族を作り上げ、贖罪や慈悲や絶望や慰めを求めていたのです。 高校に入り、不完全な家族にすぎない我が家から逃れて年…

ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅(レイチェル・ジョイス)

定年退職した65歳のハロルドは、20年前に同僚であった女性クウィニーが癌で死につつあるという手紙を受け取ります。返信を書いてポストに向かったものの、彼は手紙を投函できません。通り一遍のお見舞いの返事など、かつて彼女が見せてくれた誠実な行為…

国宝 花道篇(吉田修一)

劇的な復活を果たした俊介とともに、歌舞伎界の二大スターとして称されるようになった喜久雄ですが、喜びの日は永く続きません。非行に走った娘は友人たちの協力を得て立ち直ったものの、今度は盟友の俊介が壊疽で片足を失ってしまいます。幼いころから喜久…

国宝 青春篇(吉田修一)

後に歌舞伎の名女形として人間国宝となる人物の一代記は、1964年の長崎で始まります。任侠の一門に生まれて美貌と才能に恵まれた少年・立花喜久雄の運命は、新年会の余興として舞を舞った直後に抗争で父を殺害されて一変。長崎に留まれなくなった喜久雄…

リストランテアモーレ(井上荒野)

目黒駅周辺の路地には小さいけれどお洒落なレストランが何軒かあって、時々利用する地域です。本書の舞台はそのあたり。姉の偲と弟の杏仁が切り盛りしている「アモーレ」は、四季折々の食材を用いた料理で繁盛しているのですが、ハンサムな杏仁めあての女性…

レンブラントの帽子(バーナード・マラマッド)

1914年にブルックリンで生まれた著者は、ロシアからアメリカに移住してきたユダヤ人の2世であり、全米図書賞を2度受賞するほどの大作家です。1986年に亡くなって以来、書店で見かけることはなかったのですが、2010年に3編の短編からなる本書…

あきない世傳 金と銀6 本流篇(高田郁)

大坂天満の互服商「五鈴屋」に奉公人として入った幸は、事情あって主家の3人兄弟と次々に結婚することとなり、「享保の改革」によるデフレで物が売れない時代の中でも、事実上の主人として商売を大きくしていきました。 しかし江戸進出に向けて準備を重ねて…