りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2020-01-01から1ヶ月間の記事一覧

2020/1 Best 3

今月の第1位は文句なしに、現代アメリカを代表する巨匠リチャード・パワーズの4年ぶりの新作『オーバーストーリー』。その一方で強力なインパクトを残したのがディストピア小説です。男性が支配する社会で女性が味わってきた恐怖を立場を変えて描いた『パ…

クオリティランド(マルク=ウヴェ・クリング)

ドイツ発の近未来物語は、恐ろしいテーマを扱ったコミック小説でした。高度に発達したネット社会が行き着く先はどのような未来なのでしょう。 おそらくドイツであろう国家はビッグビジネスによって超合理的に統治され、国名は「クオリティランド」と変えられ…

芙蓉の干城(松井今朝子)

江戸時代の狂言作者の末裔で、大学講師の桜木治郎が探偵役を勤める「歌舞伎界のバックステージ・ミステリー」の第2作。前作の『壺中の回廊』と同様に、『非道、行ずべからず』にはじまる「江戸歌舞伎3部作」の流れを汲む者たちが登場するのも楽しい趣向で…

紅霞後宮物語 第10幕(雪村花菜)

架空の王朝「宸」を舞台にして、後に軍人皇后として神格化された小玉の物語・・といってもそれは時代が下ってからのことであり、現在進行形の物語はシリアスな事件であっても、軽妙な語り口でコミカルに綴られていきます。本書の第10幕は、第2部の2巻め。…

図書室からはじまる愛(パドマ・ヴェンカトラマン)

なんとも野暮ったいタイトルですが、本書の舞台は1941年のインド。宗主国イギリスが参戦した第2次世界大戦と、そのイギリスからの非暴力独立運動に揺れる大国では、厳しいカースト制度と女性を蔑視の風潮が強く残っていたのです。 上位カーストのブラー…

デートクレンジング(柚木麻子)

結婚して義母の喫茶店を手伝っている佐知子は35歳。彼女が妊活を急ぎ出したのは、喫茶店に掛けらるようになったハト時計が時を刻む音にせかされたからなのでしょうか。しかし彼女の親友でアイドルグループ「デートクレンジング」のマネージャーをしていた…

オーバーストーリー(リチャード・パワーズ)

タイトルの「オーバーストーリー」とは「林冠」のこと。言葉に多重な意味を含ませる著者のことですから「超物語」的な意味を含ませている可能性はありますが、本書は実際に樹木をめぐる物語です。 まずは多様な登場人物たちを知らなければなりません。4世代…

華やかなる弔歌(篠綾子)

『幻の神器』に続く、歌人・藤原定家を主人公とする和歌ミステリ。もっとも定家はワトソン役であり、ホームズ役は慈円の孫弟子である園城寺の天才美僧・長覚なのですが。 後鳥羽上皇から勅撰和歌集の撰者のひとりに任命された藤原定家のもとに、歌神と名乗る…

この世にたやすい仕事はない(津村記久子)

脱力系の著者による「女性のお仕事小説」は、やはり独特です。ストレスに耐えかねて14年間勤めた職場を去った36歳の女性の希望は「一日コラーゲンの抽出を見守るような仕事」。できるだけその希望を叶えようとしてくれる職業紹介所書の相談員が次々に見…

わたしのいるところ(ジュンパ・ラヒリ)

インド系移民の2世であり、『停電の夜に』や『その名にちなんで』などの名作で数々の文学賞を受賞してきた著者が、「英語とベンガル語の長い対立から逃れる」ためにローマに移住し、新たに学んだイタリア語で執筆を始めた時には驚きました。エッセイ集『べ…

狸穴あいあい坂 心がわり(諸田玲子)

シリーズ第3作では、主人公である火盗改方与力の娘・結寿の境遇が大きく変わっています。狸穴の坂道で出会って以来、思いを募らせていた八丁堀同心の妻木道三郎と結ばれることをあきらめて、親が決めた御先手組の小山田家へ嫁いだのです。 認知症のお婆さま…

狸穴あいあい坂 恋かたみ(諸田玲子)

火盗改方与力の娘・結寿と八丁堀同心・妻木道三郎は、狸穴界隈で起こる事件の謎を解くうちに、互いを思いあうようになっていきます。しかし火盗改と町方は犬猿の仲であることに加え、旗本身分の与力と同心では身分違い。しかも結寿より10歳も年上の妻木は…

狸穴あいあい坂(諸田玲子)

舞台は江戸。時代は天保といっても、大飢饉や大火が起こる前のことであり、比較的平和な時代。かつて火盗改与力として豪腕をふるった祖父・溝口幸左衛門と暮らす結寿は17歳。しきりに嫁入りを進める義母との関係が煩わしく、実家を離れて麻布狸穴で一人で…

ハツカネズミと人間(ジョン・スタインベック)

『怒りの武装』と並び称されるスタインベックの名作を初めて読みました。もっともジョン・マルコヴィッチ主演の映画を見たことがあるので、初独と言う感じではありませんでしたが。 舞台は大恐慌時代のカリフォルニア。雇われ労働者のジョージとレニーは、い…

冬の日誌(ポール・オースター)

64歳の誕生日を目前にして「人生の冬」に入ったことを自覚した著者が、「手遅れにならないうちに」自己の半生を語った回想録です。 幼い頃のの大けが。性の目覚め。パリでの貧乏暮らし。暮らしてきた家々。妻との出会い。母の死・・。「君」という二人称で…

アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ(ジョー・マーチャント)

読み応えのある科学ドキュメンタリーでした。1900年に沈没船から引き揚げられた機械の部品らしき物体が、2008年になってようやく判明されるまでの、科学者たちの執念の探索物語。しかもその正体は、古代ギリシャに始まる科学史を塗り替えてしまった…

とんがりモミの木の郷(セアラ・オーン・ジュエット)

本書を訳した河島弘美さんが巻末の解説で「これまで日本ではあまり知られていない作家」と紹介していますが、私もはじめて聞く名前でした。19世紀末から20世紀初めのアメリカで、故郷のメイン州を舞台とする普通の人々の暮らしを描き続けた女性であり、…

物語イタリアの歴史2(藤沢道郎)

1991年に著された『イタリアの歴史』は、それぞれの時代を象徴する10人の人物に焦点を当てながら、西ローマ帝国が滅亡した5世紀からイタリアが再統一される19世紀までを綴ったものでした。そこでは10カ所の異なる都市が背景になっていましたが、…

物語イタリアの歴史(藤沢道郎)

中公新書の『物語〇〇の歴史』シリーズは、独立から現代まで国家を揺るがしている分裂の危険性を描いた『ナイジェリアの歴史』と、「王権と議会」をテーマとして綴られた『イギリスの歴史』に続いて3冊め。入門書あるいは歴史の復習書として手ごろなシリー…

鏡の背面(篠田節子)

薬物依存症患者やDV被害者の女性たちが暮らす施設で火災が発生し、創設者である小野尚子が、逃げ遅れた母子を助けようとして焼死。裕福で高貴な家に生まれながら、苦しむ女性たちに人生を捧げた「先生」のを偲ぶ「お別れ会」の直後、警察から衝撃の事実が…

パワー(ナオミ・オルダーマン)

世界的に蔓延したホルモン異常によって、男女の力関係が逆転。世界中のほとんどの女性が、手から強力な電流を発する力を得たのです。その時世界では何が起こるのでしょう。 里親から性的虐待を受けていた混血少女アリーは、「内なる声」に導かれるままイヴと…