りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2019-09-01から1ヶ月間の記事一覧

2019/9 Best 3

8月中旬から「はてなブログ」に引っ越してから1月以上がたちましたが、まだレビュー記事をアップするのに精いっぱいで、目次や索引にまで手が回りません。そんな中ですが今月は、ノンフィクションに素晴らしい作品が多かった印象です。 1.アウトサイダー…

朝が来る(辻村深月)

既にドラマ化され、映画化も決まった作品は、なるほど現代的なドラマ姓に満ちています。登場するのは1組の家族と1人の少女。物語はまず、高層マンションで暮らす幸福そうな家族の情景から幕を開けます。幼稚園に通うひとり息子の朝斗は素直な少年であり、…

アウトサイダー(フレデリック・フォーサイス)

数多くのベストセラーを生み出したというより、「フォーサイス」という独自ジャンルを打ち立てた観もある著者が、自らの半生を綴った自伝です。幼い日にノルマンジーの田舎町から仰ぎ見た英独航空戦を闘うスピットファイアーの操縦士に憧れた少年は、どのよ…

極夜行前(角幡唯介)

グリーンランド北西部の極夜を1匹の犬とともに往還した『極夜行』の冒頭に記されていた、3年間の準備期間の物語。ひとつひとつの偵察…準備作業が既に大冒険となっていることをうかがわせてくれます。そしてその積み重ねがあって『極夜行』が成立したのでし…

大脱走(荒木源)

大震災の年に中堅以下の女子大を卒業した片桐いずみは、もちろん就職で大苦戦。ようやく採用された住宅リフォーム会社は、とんでもないブラック企業でした。飛び込み営業でリフォーム契約にこぎつけるための裏技は違法スレスレだし、給与体系も、勤務形態も…

ホープは突然現れる(クレア・ノース)

マリー・ローランサンの詩に「死んだ女よりもっと哀れなのは、忘れられた女です」とありますが、本書の主人公ホープは、誰からも記憶されないという特異体質。顔が覚えてもらえないだけでなく、彼女と過ごした時間や会話の内容までもが忘れ去られてしまうの…

幻想寝台車(堀川アサコ)

著者の出世作である「幻想シリーズ」の最新刊には、この世とあの世のあわいを結ぶ寝台車が登場します。バスに乗ってあの世に向かうのが通常コースなのですが、特別なケースに限って「寝台特急ひとだま」を利用できるというのです。 恋人に去られて狂言自殺を…

常設展示室(原田マハ)

人生の岐路に立っている人々が、1枚の絵画と出会ったことを契機として自らの運命を変えていく、6つの短編が収録されています。この著者の作品を読むと、美術館に足を運んでみたくなりますね。 「群青」 眼病に侵されて、メトロポリタン美術館の教育部門か…

極夜行(角幡唯介)

「極夜」とは「太陽が地平線の下に沈んで姿を見せない長い長い漆黒の夜」のこと。極夜の期間は緯度によって異なりますが、グリーランド北西部の北緯80度近い地域では、およそ4か月もの極夜が続くとのこと。既に未踏の地など残されていない現代において「…

ジョン・マン1 波濤編(山本一力)

江戸人情物語を主戦場としていた著者ですが、本書の主人公は数奇の運命を歩んだジョン万次郎。漂流漁民としてアメリカに渡り、高等教育を受ける機会を与えられたものの、移民としての苦しい生活を経験し、自力で帰国を果たしたのちに、幕末の日本で重要な役…

戦うハニー(新野剛志)

主人公は、大手企業を退職して28歳で認可外保育園「みつばち園」に勤め始めた星野親。新米男性保育士の悪戦苦闘がコミカルに描かれる中で、現代保育事情にまで視点が及んでいる作品です。 慣れない仕事にとまどうのは主人公だけではありません、開園以来初…

下町ロケット3 ゴースト(池井戸潤)

大田区の町工場「佃製作所シリーズ」の第3作です。主力のロケットエンジン用バルブシステムの納入先である帝国重工の業績悪化と、激化する一方の価格競争の中では、高い技術力を有する佃製作所においても、新商品の開発は不断の課題です。佃が見出した新た…

蠅の王(ウィリアム・ゴールディング)

いわゆる「漂流もの」ですが、本書の背景には戦後の冷戦と核開発競争があるようです。悪の象徴とされたナチスを倒した連合国側の国々が、再び対立を深めていくという事態に直面して抱いた、暗澹とした思いが著者に本書を書かせたとのこと。ともあれ、ついに…

未来を読む(ジャレド・ダイアモンド、ほか)

サブタイトルは「AIと格差は世界を滅ぼすか」。国際ジャーナリスト・大野和基氏が、世界の「知の巨人」8人と対話した論考集には、来たるべき世界を予測するヒントが詰まってています。 ・ジャレド・ダイアモンド「資源を巡り、文明の崩壊が起きる」 著名…

あやかし草紙 三島屋変調百物語五之続(宮部みゆき)

怪談シリーズ「三島屋変調百物」の5作目では、ついに百物語の聞き手が交替することになります。本書をもってシリーズ第1期が完結したということなのでしょう。 「開けずの間」 娘の快癒を願って塩断ちをすると言い出した女房を殴ってしまったという語り手…

ペナンブラ氏の24時間書店(ロビン・スローン

青年クレイが再就職した「ペナンブラ氏の24時間書店」は、なんとも不思議な店でした。ほとんど客も来ないのに終日営業で、一般客には解放していない奥の棚に納められた謎の本を少数の常連客に貸し出すのがメインの仕事のよう。しかしそこには、世界を揺る…

地球星人(村田沙耶香)

『コンビニ人間』で芥川賞を受賞した後の最初の作品は、とんでもない地点に着地してしまいました。はじめは受賞作と似たテイストなのです。一人称の語り手である奈月は、この世界では生きづらい少女。ハリネズミのぬいぐるみであるピュートはポハピピンポボ…

漂流(角幡唯介)

漁師の世界を描いたノンフィクションは少ないそうです。物語性のある事件が起きた時には、当事者の何らかの失敗が原因であるだけでなく、生存者も圧倒的に少ないからなのでしょうか。本書は、救命筏で37日間の漂流のあと「奇跡の生還」を遂げた漁師が、8…

ロケットガールの誕生(ナタリア・ホルト)

一昨年だったか、NASAのラングレー研究所でコンピュータ(計算手)として働いていた女性たちが、「マーキュリー計画」に多大な貢献をなしえた映画「ドリーム」を見ましたが、こちらはそのカリフォルニア版。UCLAの学生同好会からスタートし、やがて…

藪医ふらここ堂(朝井まかて)

神田三河町の小児科医、天野三哲のあだ名は「藪のふらここ堂」。何かにつけて「面倒くせぇ」を連発し、嫌いな患者は診察もしないということで「藪」の称号は当然ですが、庭の山桃の木に吊るした「ぶらんこ」が目印なので「ふらここ堂」。 三哲に振り回されな…

海の乙女の惜しみなさ(デニス・ジョンソン)

「白水社エクスリブリス」の創刊第1号は、著者の『ジーザス・サン』でした。あれから10年、2017年5月に肝臓癌で亡くなった遺作集として出版されたのが本書です。薬物常用者だった前半生を反映した短篇が2作、作家としての地歩を築いていった後半生…

飛族(村田喜代子)

92歳の鰺坂イオと88歳の金谷ソメ子。老女が2人だけで暮らす、朝鮮との国境近くの島。母親のイオを大分にある自分の家に迎えようと、65歳のウミ子が定期船に乗ってやってきます。彼女が見た、孤島での老女たちの暮らしとは、どのようなものだったので…

不意打ち(辻原登)

登場人物たちを「不意打ち」するのは、一瞬の悪意なのか、偶然の罠なのか。読者も「不意打ち」されてしまう衝撃的な展開を楽しめる、熟練の短編集です。 「渡鹿野」 タイトルの地名は、かつて有名だった志摩の「売春島」だそうです。風俗小説のように始まる…

ロイスと歌うパン種(ロビン・スローン)

サンフランシスコのIT企業に就職した女性プログラマのロイス。激務で消耗した彼女の心身を救ったのは、近所の宅配レストランのパンとスープでした。そしてアメリカを去ることになったマズグの店主から秘伝のパン種(サワードワ)を贈られたロイスに、奇跡…

江戸オリンピック(室積光)

幕藩体制を維持したまま近代化に成功し、平和な21世紀を迎えた日本。明治維新が行われなかったのは、幕末に人材が排出されなかったから。己を必要とされる時代に出トチって、21世紀に登場した志士たちが目指すのは、2020年の江戸オリンピック。 大手…