りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2019-07-01から1ヶ月間の記事一覧

2019/7 天冥の標10.青葉よ豊かなれ Part 3(小川一水)

「YAHOOブログ」から「はてなブログ」に引っ越す予定ですが、索引の修正が大変そう。少し読書ペースを落としてでも、新しいブログに手を入れなくてはいけないのかもしれません。 1.天冥の標10.青葉よ豊かなれ Part 3(小川一水) 全宇宙的な対立軸…

春雷(葉室麟)

『蜩ノ記』と『潮鳴り』に続く「羽根藩シリーズ第3弾」ですが、各作品の間に深い関係性はなく、それぞれ独立した作品です。強いて共通点を挙げるなら、いずれも敗者復活をテーマとする再生の物語である点でしょうか。身分や地位が固定された江戸社会におい…

エリザベスの友達(村田喜代子)

認知症に罹った老人たちが終の棲家とする「ひかりの里」を舞台にして、超高齢化社会となった日本が直面する深刻な現実を描いた小説ですが、読後感は爽やかです。それは物語のテーマが「帰ること」であるからなのでしょう。 現実世界から遊離して、記憶の中に…

小さくても偉大なこと(ジョディ・ピコー)

『わたしのなかのあなた』の著者が、人々の心の中に潜むレイシズムをテーマとして書き上げた作品です。 物語はまず、目に見えるレイシズムから始まります。ホワイトパワー運動を信奉するネオナチ夫婦が、2人の新生児の突然死を、アフリカ人アメリカ人の看護…

アルファベット・ハウス(ユッシ・エーズラ・オールスン)

第2次大戦末期、ドイツ上空で撃墜されてパラシュートで降下した2人のイギリス人は、偶然やってきた列車に飛び乗って追跡を逃れます。しかしその列車は、精神に異常をきたしたナチ将校たちを、アルファベットハウスと呼ばれる精神病院に運ぶものだったので…

話の終わり(リディア・デイヴィス)

著者が自ら語っているように、本書の内容は「いなくなった男の話」という、何の変哲もないテーマです。西海岸の街に住み、翻訳業で生計を立て、50歳に手が届こうとしている女性が、10年以上前に別れた年下の男のことを回想しているにすぎないのですが、…

あたらしい名前(ノヴァイオレット・ブラワヨ)

1980年に独立したジンバブエは、2000年代になってムガベ大統領独裁体制のもとで2億%ものハイパーインフレや90%の失業率という大混乱に陥ります。国民の1/4が国外に脱して、南アフリカなど周辺諸国の社会問題にもなっているほど。本書は、1…

パラダイス(トニ・モリスン)

1993年にノーベル文学賞を受賞した著者が、授賞第1作として書き上げた本書は、衝撃的に始まります。銃で武装した男たちが町外れにある修道院を襲撃して、そこで暮らしている女たちを皆殺しにしようとするのです。 やがて物語は時間を遡って、事件へと至…

抱く女(桐野夏生)

時代は1972年。主人公の直子は20歳の大学生というから、1951年生まれの著者と同じ世代です。直子が感じた閉塞感や憤りは、著者自身の思いでもあったはずです。 授業にも身は入らず、70年安保で敗北した大学闘争も終わりが見え、「抱かれる女から…

通い猫アルフィーと海辺の町(レイチェル・ウェルズ)

かつて飼い主の老婆を失って野良猫の悲哀を味わったアルフィーは、数件の家庭を掛け持ちする「通い猫」となり、通い先の家族の平安を守っています。前巻では、仔猫ジョージの親代わりとなり、近所の雌猫タイガーとも想いを確かめ合ったりして、人間たちとも…

闇の聖天使(篠田真由美)

ヴェネチアに生きるヴァンパイアを主人公とするゴチック・ロマンですが、あまりにも似合いすぎる両者を結びつけた作品は、あまり多くありません。萩尾望都の『ポーの一族』の舞台は郊外でしたし、「ヴァンパイア・クロニクルズ」で有名なアン・ライスの番外…

潮鳴り(葉室麟)

『蜩ノ記』に続く、「豊後羽根藩シリーズ」の第2作です。かつては藩の俊英と謳われながら自尊心から役目をしくじって失職し、「襤褸蔵」と呼ばれる無頼暮らしをしている伊吹櫂蔵が、再起に至る物語。 再起のきっかけは、家督を譲った異母弟が切腹をして果て…

わたしは英国王に給仕した(ボフミル・フラバル)

20世紀のチェコを代表する作家のひとりである著者が、1971年に書き上げながら、長らく国内での出版を禁じられていた作品です。百万長者を夢見る給仕人が波瀾万丈の半生の末に夢を叶えるに至る物語ですが、その中核をなしている部分がナチスによるチェ…

お茶壺道中(梶よう子)

「ずいずいずっころばし」のわらべ歌が、将軍家の権威を笠に着た「お茶壺道中」の横暴を風刺したものであることは、松本清張氏の短編『蓆』で知りました。では徳川家光の時代に始められ、235年ものあいだ毎年休むことなく続けられたお茶壺道中は、どのよ…

母親ウエスタン(原田ひ香)

悪漢たちの横暴から家族を守った流れ者が、少年の呼び声を振り切って去っていくのが、ウエスタン映画の傑作「シェーン」のラストシーンでした。本書の主人公である広美は、母のいない問題家庭を転々と渡り歩き、家庭が軌道に乗ると人知れず去っていく「現代…

トリック(エマヌエル・ベルクマン)

20世紀初頭のプラハで貧しいラビの家に生まれ。サーカス団に飛び込んて奇術師となったモシェ。21世紀初頭のロサンジェルスで、両親の離婚に苦しむ少年マックス。「永遠の愛の魔法」を得意にしたという モシェがロスの高齢者施設で生きていることを知った…

むすびつき(畠中恵)

「しゃばけシリーズ」も第17弾になりました。もっと早く完結するかと思っていたのですが、一時の中だるみ状態も脱していますし、ここまできたらもうやめられませんね。本書では「生まれ変わり」をテーマとする作品が並んでいます。 「昔会った人」 付喪神…

水底の女(レイモンド・チャンドラー)

村上春樹さんの新訳による「フィリップ・マーロウ」作品の7作目。これで全長編が翻訳されたことになります。 男と駆け落ちしたらしい奔放な妻の安否を確認して欲しいという、香水会社の経営者からの依頼を受けたマーロウ。妻の足取りを追って、人里離れた湖…

洪水の年(マーガレット・アトウッド)

カナダ文学界の巨匠による世界終末譚「マッドアダムの物語3作」の第2作です。第1作の『オリクスとクレイク 』以来8年もたって、出版社を変えて、ようやく翻訳書が出版されました。 本書の主人公は、行き過ぎた人工世界に異議を唱えるエコロジカル宗教団…

天冥の標10.青葉よ豊かなれ Part 3(小川一水)

10年に渡って書き継がれてきた、全10巻、16冊の大シリーズがついに完結しました。全宇宙的な対立軸の末端で翻弄され、絶滅の一歩手前まで追い込まれてしまった人類は、対決の最前線で宇宙種族たちに何をもたらすことができるのでしょう。 6千万年もの…

天冥の標10.青葉よ豊かなれ Part 2(小川一水)

全宇宙を覆いつくして静的安定をもたらそうとする「オムニフロラ=ミスチフ」の対抗勢力が結集しようとしています。しかし互いに異なる勢力間の思惑は一致していません。カルミアンの総女王オンネキッツが企てる人工的な超新星爆発戦略を、樹木族を率いるア…

シアター!2(有川浩)

「2年間で劇団の収益から300万を返せ。できない場合は劇団を潰せ」という条件で再開された「シアターフラッグ」の活動は、鉄血宰相・春川司の監視の下で軌道に乗りかけていました。趣味的な劇団運営にサラリーマン的な経営管理視点を持ち込んだことが、…

シアター!(有川浩)

300万円の負債を抱えて解散の危機に瀕した小劇団「シアターフラッグ」を救ったのは、主宰・春川巧の兄・春川司でした。しかし司の本心は、30歳になっても生活の目途がつかない弟に演劇をあきらめさせることだったのです。「2年間で劇団の収益から30…

その姿の消し方(堀江敏幸)

戦乱の20世紀前半を生きたフランスの無名詩人の足跡をたどる「私」の物語は、書き手と読み手の関係性を問いただしているようです。 「私」がフランス留学時代に古物市で手に入れた、1938年の消印がある絵葉書には、謎めいた詩が綴られていました。やが…

悪魔の孤独と水銀糖の少女(紅玉いづき)

自ら滅びを選んだ死霊術師たちの忘れ形見である少女シュガーリアが向かうのは、無数の罪をその身に刻み悪魔を背負う青年ヨクサルが住むという黒い海。 愛しか知らない少女と、愛とは無縁な孤独な青年が、「かつての黄金の島であり、今は悪魔の島であり、未来…

国会議員基礎テスト(黒野伸一)

国会議員の暴言、失言、不倫、不正など、適性を疑いたくなる事件が後を絶ちません。三権のうちで裁判官も役人も試験を通っているのに、国会議員には試験がないのはおかしくないかとの視点で書かれた作品です。 典型的なボンボン2世議員の黒部優太郎と、彼の…