りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2019-06-01から1ヶ月間の記事一覧

2019/6 雲上雲下(朝井まかて)

いつどこにブログ移転をしたら良いのか、まだ決断がつきません。読書レビューを書いていても落ち着かない日々が続いています。 1.雲上雲下(朝井まかて) 深い山の中、自分の正体も忘れ去った巨大な草が、突然現れた子狐の依頼で物語を語り始めます。民話…

プレイバック(レイモンド・チャンドラー)

村上春樹さんによる「フィリップ・マーロウ・シリーズ」新訳の6作めにあたります。生島治郎氏の名訳「タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格がない」の決めセリフで有名な作品ですが、村上さんはどう訳したのでしょうか。 物語は、夜…

風と行く者(上橋菜穂子)

「守り人シリーズ」の外伝にあたる本書は、本編終了後のバルサの物語。タンダとともに国境付近の草市を訪れたバルサは、少数民族サダン・タラムの旅芸人一座「風の楽人」一行と20年ぶりに再会。一座の若い女頭目のエオナの危機を救ったことで、旅の護衛を…

パーマネント神喜劇(万城目学)

神様の世界でもノルマや人事があって大変なようです。最初に配属された縁結び専門の末社で千年も務め続けていた下級神に、昇格の話が持ち上がります。 密着取材に来たライターが覆面調査員だったり、後任のフリをした神宝デザイナーに振り回されたり、超VI…

マルドゥック・アノニマス 4(冲方丁)

ついにバロットがウフコックの救出に現れます。このシリーズではずっと、階級格差の激しい未来都市で貧民層も富裕層も「均一化=イコライズ」して支配下に置こうとする新興勢力「クインテット」のボス、ハンターの覇権が現実化する過程が中心に描かれていま…

タンデム(パトリス・ルコント)

「タンゴ」や「髪結いの亭主」などのペーソス溢れる作品で知られる映画監督が、同名の自作映画を自らノベライズした著作です。 初老のラジオ司会者モルテスと、若くて無邪気な助手のリヴドは、フランス各地を回ってクイズ番組の生放送を続けています。身勝手…

雲上雲下(朝井まかて)

不思議な構成の作品でした。民話を題材にしたファンタジーが、思いもよらなかった地点に着地するのです。もっとも著者自身が、「語り手が何者なのか分からずに書き始めた中で、テーマが立ち上がってきた」と述べているくらいなので、読者の想像を超える展開…

三国志 外伝(宮城谷昌光)

大作『三国志』を著した著者は、「歴史の本道から遠ざかっていった者たちを書ききれなかったことに満足できなかった」と述べています。「宮城谷三国志」は未読ですが、「吉川三国志」や「北方三国志」は読んでいるので、聞き覚えがある人物たちが次々に登場…

数学者たちの楽園(サイモン・シン)

本書の副題は「『ザ・シンプソンズ』を作った天才たち」。アメリカアニメ「ザ・シンプソンズ」と言われても、可愛げのないキャラクターしか思い浮かばないのですが、実際にこのアニメ制作には多くの「数学博士」たちが携わっているとのこと。アニメに隠され…

ディス・イズ・ザ・デイ(津村記久子)

「その日」とは、サッカーJ2リーグの最終日。昇格や降格が決まる運命の日を迎えた22チームのサポーター22人の、それぞれの思いが綴られた作品です。全てが架空のチームなのですが、それぞれのチーム事情や選手経歴は、実在のそれを彷彿とさせる設定で…

生まれ変わり(ケン・リュウ)

現代中国SFの第一人者となった著者の、日本オリジナル短編集の第3段です。前2作の『紙の動物園』や『母の記憶に』と同様に、アジア的な情感と最先端テクノロジーが共存する作品が20編収録されています。全部は無理なので、印象に残った作品だけ書き記…

破蕾(冲方丁)

与力の妻として旗本の屋敷を訪れたお咲を待ち受けていたのは、ある高貴な女性に言い渡された「市中引廻し」を身代わりで受けるという恐ろしい話でした。当初は羞恥に苛まれるお咲でしたが、徐々に精神の箍が外れていくのです。 一方で、お咲が身代わりとなっ…

コンビニ人間(村田沙耶香)

2016年上半期の芥川賞受賞作であり、授賞後も生活リズムを整えるためにコンビニバイトを続けているという異色の著者の作品を、ようやく読むことができました。 主人公は著者自身を彷彿とさせる36歳未婚女性の恵子。幼いころから普通の感情を持ち合わせ…

書店ガール7(碧野圭)

2007年に出版された『ブックストア・ウォーズ』以来、『書店ガール』として書き継がれてきたシリーズが、7巻にしてついに完結してしまいます。本書では最終巻にふさわしく、4人の主人公たちの「現状」が綴られます。 書店から離れて教師となった愛奈は…

烙印(パトリシア・コーンウェル)

「検屍官シリーズ」第24作ですが、最近のこの作品は前置きばかり長くて、いるになっても事件が始まらないという印象があります。夫ベントンや姪ルーシーとのすれ違い、粗暴なマリーノや不仲な妹ドロシーや要領の悪い検屍局員への不満などの間に、事件の兆…

天冥の標10.青葉よ豊かなれ Part 1(小川一水)

2009年から10年かけて書き継がれてきた全10巻のシリーズが、最終巻に突入しました。ここまでで、800年に渡って牧歌的な生活を営んできた植民星メニーメニーシープは、太陽系に進出した人類のわずかな生き残りにすぎないこと、しかも植民星はすで…

龍華記(澤田瞳子)

平家の繁栄が揺らぎ始めた平安末期。藤原の姓を持つ出自でありながら南都興福寺の悪僧となっている範長を視点人物として、「仏心」の本質に迫った力作です。 平家が都から送り込んできた検非違使を阻止しようと、仲間の僧兵たちと般若坂へ向かった範長は、小…

ドッグマザー(古川日出男)

明治天皇の記憶を持っていたという養父の遺骨を持って、老犬とともに京都にたどり着いた青年は、伏見で出会った女性の導きで地下世界へと入っていきます。やがて彼は、前世を売る謎めいた教団の女院主と関係し、彼女の後継者となるべき姉弟たちと出会うこと…

ユニコーン(原田マハ)

15世紀フランドル織物の大傑作である「貴婦人と一角獣のタピスリ」は、どのような経緯でカルチェ・ラタンのクリュニー美術館に所蔵されるに至ったのでしょうか。著者は、地方の古城で朽ち果てようとしていたタピスリが、ジョルジュ・サンドを介して、初代…

文字渦(円城塔)

文字の霊が現実世界に及ぼす災いを寓話的に描いた中島敦の短編『文字禍』から1文字変えた本書には、文字の誕生から、文字が生命を有し、さらには文字が宇宙創生するなど、とことん文字にこだわった12編の短篇が収録されています。 刻々と変化する始皇帝の…

ミッテランの帽子(アントワーヌ・ローラン)

フランス人にとってミッテラン大統領とは、どのような評価が下される人物なのでしょう。個々の政策はともかくも、オルセーの開館、ルーブルのピラミッド設置、新凱旋門建設などのパリ大改造が行われ、EU統合が進展した1980年代は、フランスが輝いてい…

テンプル騎士団(佐藤賢一)

日本文壇における西欧歴史小説の第一人者が、テンプル騎士団の成立過程から悲劇的結末までを描き出しました。「インディ・ジョーンズ 最後の聖戦」や『フーコーの振り子』や『ダ・ヴィンチ・コード』に登場したり、「ジェダイの騎士」のモデルと言われたり、…

悪玉伝(朝井まかて)

江戸時代最大の疑獄事件といえば、歌舞伎の題材にもなっている「辰巳屋事件」。この事件のことは、松井今朝子さんも題材にしていますね。そちらでは、大阪の炭問屋の跡目相続をめぐる近親間の対立が、奉行所を巻き込んで死罪4人を出すほどの大事件となった…

チンギス紀 3(北方謙三)

父イェスゲイの死で四散したキャト氏族を糾合したテムジンは、2000騎の精鋭を旗下に収めます。ついにモンゴル族の覇権を賭けたタイチウト軍との決戦に勝利するかと見えたその時に、意外なことが起こります。黒い旗を掲げた50騎の騎馬隊がテムジン軍を…

秘録島原の乱(加藤廣)

2018年4月に87歳で亡くなられた著者の遺作です。本書が「秘録」とされるのは、天草四郎が豊臣秀頼が脱出先の九州で生した子であり、島原の乱の目的が幕府転覆であったという壮大な構想に基づく作品であるからです。どちらも著者オリジナルの発想では…

ソロモンの歌(トニ・モリスン)

ノーベル文学賞作家トニ・モリスンの第三長編は、はじめて男性を主人公に据えています。成長しても母親の父を飲んでいたと噂されてミルクマンと呼ばれるようになった、黒人男性の成長物語。 物語はミルクマンの前の世代から始まります。医者の娘でメイコンを…