りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2019-02-01から1ヶ月間の記事一覧

2019/2 アグルーカの行方(角幡唯介)

年末年始の読書量が少なかったせいで、2月にアップしたレビューは低調でした。そんな中でも今月の収穫は、角幡唯介さんという現代の冒険家を知ったこと。秘境の名にふさわしい地域が激減した今日においてもまだ、未踏査とされる地域は残されているのですね…

神鳥(イビス)篠田節子

既に大御所感が漂う著者が、まだ30代の時に著した第6作目の長編です。それぞれに限界を意識しているイラストレーターの葉子とバイオレンス作家の慶一郎が、転機を得るために取り上げたのが、夭折した明治期の日本画家・河野珠枝でした。芸術家たちの間で…

盲目的な恋と友情(辻村深月)

思春期特有の揺れ動く気持ちを描くのが得意な著者の作品ですが、本書は少々ダークな部類に入るのかもしれません。 第1部の「恋」の章は、タカラジェンヌの母をもつ美貌の少女・一瀬蘭花によって語られる、大学オーケストラの指揮者・星近との恋物語。初めて…

音量を上げろタコ! なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!(三木聡)

破滅的なタイトルでありながら聞き覚えがある響きと思ったら、同名の映画が昨年秋に公開されていました。本書は監督兼脚本家による、同映画のノヴェライズだったのです。 主人公は、声が小さすぎることを悩んでいるストリートミュージシャンの明日葉ふうか。…

神々の山嶺(夢枕獏)

最初で最後のヒマラヤ登山に失敗して仲間も失った中年写真家の深町が、カトマンドゥの裏街で手に入れた古いコダックは、世界初のエヴェレスト登頂目前で姿を消した登山家、ジョージ・マロリーのものだったのでしょうか。彼は滑落死する前に登頂を果たしてい…

一号線を北上せよ ヴェトナム街道編(沢木耕太郎)

『深夜特急』の著者による、ホーチミンからハノイまでのヴェトナム1号線のバス旅行記です。とはいっても、著者はこのとき50歳を超えていますので、かつてのような無茶な旅行体験記ではありません。むしろ紀行文のようなエッセイ集ですが、旅への思いは健…

英国紅茶予言師(ティー・カウンセラー)七海花音

身よりもなく養護施設で育った日本の少年シンが、奨学金を得て英国パブリックスクールに留学。しかし貴族の師弟ばかりの全寮制男子校では、学費や寮費以外にもなにかと出費が必要なのです。高価な制服代を節約するために、卒業生からお下がりを譲ってもらお…

ガルヴェイアスの犬(ジョゼ・ルイス・ペイショット)

ポルトガルの小さな村ガルヴェイアスで生まれた著者が、出身地を舞台にして描いた不思議な物語は、1984年1月の夜に、巨大な「名のない物」が村に落下するところから始まります。強烈な硫黄臭や7日7晩に及ぶ豪雨に続く大干ばつが発生したものの、人間…

鷲の巣(アンナ・カヴァン)

ヘロイン中毒を抱え、一度ならず自殺を試み、精神病院に入院していたこともある著者の作品は、「不安や疎外感に満ちた強烈なビジョン」を特徴としています。カフカ的な色彩の濃い本書でも、不安定ながらも鋭い感性が溢れているのです。 突然失職して不本意な…

駒子さんは出世なんてしたくなかった(碧野圭)

『書店ガール』の著者による「お仕事小説」の主人公は、出版社で働く水上駒子42歳。高校生の息子を持ちながら、元カメラマンで専業主夫の夫に助けられて、管理課という裏方部署の課長職に就いています。 そんな彼女に突然下った次長への昇進辞令には、もち…

西欧の東(ミロスラフ・ペンコフ)

1982年にブルガリアで生まれ、アメリカ留学後も帰国せずにとどまって英語で小説を書き続けている著者の短編集です。本書のキーワードはブルガリア語の「ヤッド」。妬みや悪意や怒りや憤りにも似ている一方で、もっとエレガントで複雑な感情であり、すべ…

盡忠報国(北方謙三)

著者が17年の時をかけて書き上げた「大水滸伝シリーズ」全51巻の完結を受けて、「読本」として編纂された本書のタイトルは「盡忠報国」。第3部の主役であった岳飛の旗印です。著者と著名人との対談、編集者からの手紙、漫画「圧縮大水滸伝」などが含ま…

カーテンコール(加納朋子)

経営難で今年限りの閉校が決まっていた女子大で、限界まで下げられたハードルすらクリアできず、どうやっても卒業できなかった留年者たちが発生。彼女たちは、理事長の温情で半年間の猶予を与えられ、敷地内の寮に住み込みで補修を受けることになります。そ…

憂鬱な10か月(イアン・マキューアン)

語り手は妊娠10カ月めになる胎児。母親の胎内に閉じ込められて身動きもできませんが、既に意識も知能も一人前の男性であり、母親経由で入ってくる国際情勢にもワインにも詳しくなっています。 そんな彼が気にしているのは、崩壊しかけている家庭の状況です…

アグルーカの行方(角幡唯介)

1845年に「北西航路」発見のため英国を出発したフランクリン隊が、北極圏で音信途絶となった後に129人全員が亡くなったと判明した事故は、極地探検史上最大級の悲劇とされています。本書は、チベットやニューギニアの未踏査地区を探検した著者が、友…

100回泣いても変わらないので恋することにした。(堀川アサコ)

『幻想シリーズ』や『たましくる』など、幻想的な物語を書き続けている著者の「小さいおじさんシリーズ」第2作です。第1作は未読ですが、「おじさん」は同一人物のようです。 地方都市のしがない博物館で学芸員として働く手島沙良が発見した、体長15セン…

ご破算で願いましては(梶よう子)

本書の副題は「みとや・お瑛仕入帳」。舞台となっているのは、江戸時代の100均ショップともいえる「三十八文均一の雑貨店」。現代の100均ショップのポイントは安価な大量生産品を仕入れる仕組みにあるので、作者の創造かと思っていましたが、実際に何…

龍秘御天歌(村田喜代子)

秀吉による文禄・慶長の役の際に日本へと強制連行された朝鮮人陶工たちを、有田の地に集結させて興隆への道を切り開いた張成徹こと辛島十兵衛が大往生を遂げました。父親の後を継いだ総領息子の十蔵は日本のしきたりに従った葬儀をやむをえないものとして受…

事件の核心(グレアム・グリーン)

「新潮クレストブックス」や「白水社エクスリブリス」に続いて「ハヤカワepi文庫」を読み切ろうと思ってから、グレアム・グリーンの作品に触れる機会が増えました。 本書の舞台は、第2次世界大戦中の西アフリカにあるイギリスの植民地。明確に書かれてはい…

ブライトン・ロック(グレアム・グリーン)

ドーバー海峡に臨むイギリスの保養地ブライトンで、不良少年団を率いているのは、まだ17歳のピンキー。彼らが、前リーダーの殺害に関わった男フレッドを殺すところから物語が始まります。警察はフレッドの死を自然死と判断したのですが、手落ちがありまし…

奴隷小説(桐野夏生)

人間社会に存在する「支配と隷属」の構造を、さまざまなモチーフで描いた短編集です。寓話的な世界、過去の世界、現在の日本や地球のどこかで奴隷状態に陥っても、そこから脱出する意志を持ち続ける者たちがいるのです。 長老との結婚を拒んで舌を抜かれた女…

七人のイヴ 3(ニール・スティーヴンスン)

突然破壊された月の破片が5000年に渡って地上に降り注ぎ、直前に宇宙に脱出した7人の女性のみが生き残るまでが、『第1巻』と『第2巻』の物語。最終第3巻では、一気に5000年後の世界が描かれます。 「7人のイブ」の子孫たちは、以前の月の軌道上…