りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2019-01-01から1ヶ月間の記事一覧

2019/1 恥辱(J・M・クッツェー)

「今年もたくさん読むぞっ!!」などとメッセージを書いてしまったのに、年末年始休暇の間にほとんど読書が進みませんでした。特に忙しかったわけでも、疲れていたわけでもないのですが、何となく気乗りしなかったのです。おかげで箱根駅伝をじっくり見てし…

砂上(桜木紫乃)

直木賞作家による「作家誕生」の物語。札幌郊外の江別に住む40代の女性・柊令央は、別れた夫から振り込まれる僅かな慰謝料と、ビストロでのアルバイトである数万円の収入とで生活しています。、いつか作家になりたいと思い、雑誌の新人賞に応募を続けてい…

U(ウー)皆川博子

タイトルの「U(ウー)」とは、2つの「下」のこと。第一次世界大戦時のドイツUボート乗組員の物語は「水面下」で進行し、17世紀初頭のオスマン帝国の物語は「地下」へとたどりついていきます。 1915年。英国海軍に捕獲されたUボート(U13)を機…

アポロンと5つの神託 2.闇の予言(リック・リオーダン)

ギリシャ神と人間の間に生まれたハーフたちの冒険を描く『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』シリーズの第3部は、父神ゼウスから人間に変えられて地上に落とされてしまった太陽神アポロンの物語。 前巻『太陽の転落』で、死から蘇った3人の邪悪なロ…

百年佳約(村田喜代子)

タイトルの「百年佳約(ペンニョンカヤク)」とは、朝鮮語で「末永く続く婚姻」のこと。慶長の役により朝鮮から連行された陶工たちが窯をひらいた九州の皿山を舞台にして、名門窯元の母・百婆が一族の孫たちの嫁取り、婿取りを見守る物語。 これまで通り仲間…

火環(ひのわ) 村田喜代子

『八幡炎炎記』の完結編です。舞台は戦後の復興期から高度経済成長期へと向かう製鉄の街・八幡。主人公は著者の分身であるヒナ子なのですが、彼女の祖母サトを長女とする三姉妹の一族の視点が入れ替わる群像小説となっています。 気のいい建具職人の貴田菊二…

蘭の館(ルシンダ・ライリー)

「世界的ベストセラー作家が描く姉妹の謎」とのコピーで大々的に売り出された「セブン・シスターズ」シリーズの第1巻は、長女マイアの物語。ブレアデス星団に由来する名を持つ、アルキュオネー(アリー)、アステロペー(スター)、ケライノー(セセ)、タ…

恥辱(J・M・クッツェー)

南アフリカ出身のノーベル賞受賞作家の代表作は、とんでもない問題作でした。複数のヘビーなテーマが重層的に絡み合っているのです。 表層の物語はシンプルです。ケープタウンで大学教授をしている52歳のデヴィッドが、軽い気持ちから関係を持った女学生か…

彼氏をバッド・ボーイにする方法(オリヴィア・ゴールドスミス)

ヒット映画の原作として話題となった『第一夫人同盟』の著者による、ノンストップ恋愛コメディです。 舞台はマリナーズとコーヒーとIT企業の町シアトル。主人公の女性新聞記者トレイシー・ヒギンズは、地元IT企業に勤めるオタク系青年ジョンの気持ちに気…

天子蒙塵 第4巻 (浅田次郎)

「蒼穹の昴シリーズ」の第5部にあたる「天子蒙塵」が第4巻で完結。しかし、天子たる資格を有しながら中華の地から逃亡した2人の貴人の運命を、浅田調で朗々と歌い上げた作品は、なんとも微妙な地点に着地した感があります。 清朝のラストエンペラー溥儀は…

ゼロ(マルク・エルスベルグ)

ネットショッピングをすると類似商品が大量に「お勧め」されてくること。SNSへの投稿者の目的は「いいね」の賛同を得るだけであること。既に周知の事実ですが、著者はその先になんとも不気味な近未来図を描きだしました。 急激に会員数を伸ばしている巨大…

見えない日本の紳士たち(グレアム・グリーン)

年代もテーマもさまざまな16編を収めた日本オリジナル短編集です。著者の作風の広さを味わうには良いのでしょうが、さすがに少々散漫な感じを受けてしまいます。 「ご主人を拝借」 南仏のリゾート地を訪れた新婚夫婦が2人組の色男に目を付けられてしまい…

イレーナ、闇の先へ(マリア・V・スナイダー)

『毒見師イレーナ』に始まる初期3部作に続く、「霊魂の探しびと篇」の第2作です。前作の『失われた力』の冒頭で、何者かに毒矢で射られたあと魔力を失ったイレーナの力は戻っていません。一方でイレーナの恋人であるヴァレクとイクシア国最高司令官とのが…

ふくろう(梶よう子)

江戸城内での刃傷事件は7件あったそうです。吉良上野介や田沼意知、堀田正俊らが斬られた事件は有名ですが、本書は旗本の松平外記が同僚3名を殺害、2名を傷を負わせた一番最後の刃傷事件を題材にした作品。今でいう職場内パワハラに耐えきれなくなったこ…

民宿雪国(樋口毅宏)

これは「奇書」ですね。「国民的画家の丹生雄武郎が、大勢に惜しまれながら97歳で亡くなった」という冒頭の1ページからは想像もつかない展開の3つの章が続き、続く章でようやく前後が繋がったと思ったら、最後にまたそれが覆されるのです。 老境に入って…

東慶寺花だより(井上ひさし)

江戸時代、幕府公認の縁切寺として有名な鎌倉の東慶寺を舞台にして、離縁を決意した女の事情や夫婦の機微を描いた作品です。映画「駆け込み女と駆け出し男」の原作になって、再び脚光を浴びました。 縁切りを求める女たちから聞き取り調査をする役目を持って…

探偵くるみ嬢の事件簿(東直己)

札幌ススキノを舞台とするハードボイルドミステリ 『探偵はバーにいる』のシリーズの著者による、イロモノミステリです。廃坑で存の危機を迎えた来内別市が町おこしのために始めた、ピンク街の風俗嬢、岸本くるみが探偵役なのです。 職業柄というか場所柄と…

龍のすむ家(クリス・ダレーシー)

「下宿人募集―ただし、子どもとネコと龍の好きな方」という奇妙な張り紙を見て、大学生のデービッドが訪れた先は、やはり少々変わった家でした。あちこちに龍がたくさんいたのです。といってもこれは陶器の龍。「龍のほら穴」と名付けた立入禁止の部屋で龍を…

ヘルプ(キャスリン・ストケット)

「ヘルプ」とは「白人家庭の黒人メイド」のこと。本書の舞台は1960年代前半のミシシッピ州の田舎町。公民権運動が広がりを見せつつある中でも、ディープサウスの黒人メイドたちは、格安の賃金と過酷な条件の下で、声を上げることもなく黙々と働き続けて…

コロヨシ!!(三崎亜紀)

高校生を主人公とするスポーツ小説ですが、『となり町戦争』などの不思議世界を構築した著者の作品はひとあじ違います。なんと競技種目は「掃除」であり、その背景には思いもよらない秘密が隠されていたのです。 なぜ800年前に大陸から伝来してきた武術起…

ダーク・エンジェル 最終戦争(マックス・アラン・コリンズ)

『前作』で「ジェネティックvs人間」という対決構図を崩し、両者が共存できる世界の実現に向けて動き出したマックスたちですが、それを許容できない者たちの策動は止みません。闇のカルト集団「ファミリア」としての任務に失敗した元連邦捜査官のホワイトら…

ダーク・エンジェル スキン・ゲーム(マックス・アラン・コリンズ)

物語はいきなり、TVドラマ第2シーズンの直後まで飛んでしまいます。第2シーズンを最後まで見なかった者にとっては少々キツイのですが、そこで何があったのかは次第にわかってくるので、まあ大丈夫。 連邦政府が戦闘マシンとして遺伝子操作によって生み出…

ダーク・エンジェル 戦闘前夜(マックス・アラン・コリンズ)

日本では2002年から2003年にかけて放映されたTVドラマ「ダーク・エンジェル」は、主演女優のジェシカ・アルバのカッコよさが人気でしたが、第2シーズンの半ばから尻すぼみ状態となり、予定されていた続編も制作されずに終了していました。「核戦…