りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2018-08-01から1ヶ月間の記事一覧

2018/8 火星の人(アンディ・ウィアー)

8月にはSF作品をたくさんアップしました。暑い夏を乗り切るには、SFに限りますね。スピルバーグが監督した映画「Ready Player One」の原作者であるアーネスト・クラインさんのオタクぶりも、リドリー・コットが監督した「オデッセイ」の原作者であるア…

わたしを見かけませんでしたか?(コーリイ・フォード)

近頃なぜか、階段の勾配はきつくなり、電話帳の活字は小さくなり、駅は遠くなり、スーツは胴回りだけ縮んでしまったという「あなたの年齢当てます」をはじめとして、中年男性の悲哀をユーモラスに描いた12編の「あるある」短編集です。 デバートやレストラ…

酸っぱいブドウ/はりねずみ(ザカリーヤー・ターミル)

1931年にダマスカスで生まれ、現在はシリアを代表する文学者となっている著者の短編集「酸っぱいブドウ」と、中編「はりねずみ」が収録されています。 59編もの短編からなる「酸っぱいブドウ」では、架空の地域「クワイク街区」を舞台として、暴力・抑…

団塊の後(堺屋太一)

戦後の高度経済成長とバブル景気を経験した第一次ベビーブーム世代を『団塊の世代』と名付け、『平成三十年』などの著作で、団塊の世代が定年を迎えた後の閉塞社会を予測した著者が、さらに次の時代を予測した作品です。 時代は2026年。東京オリンピック…

戦の国(冲方丁)

著者が、アンソロジー歴史小説『決戦!シリーズ』に寄せた6作品を1冊にまとめた本ですが、桶狭間から大阪の陣まで時系列で並べてみると、ひとつの思いが浮かび上がって来るようです。それは、太平の世を作ることを大義名分としながら、太平の世には収まり…

明るい夜に出かけて(佐藤多佳子)

人間関係のトラブルがきっかけで大学を休学し、金沢八景のコンビニでバイトしながら一人暮らしを始めた主人公・富山の唯一の趣味は、ラジオの深夜放送を聞くことでした。中でもお気に入りは「アルコ&ピース」がパーソナリティを務める「オールナイトニッポ…

ウィステリアと三人の女たち(川上未映子)

2008年に芥川賞を受賞した著者の作品を、はじめて読みました。3編の短編と1編の長編にはいずれも、死の影が漂っており、時折り同性愛的なものが見え隠れするという点で、作中にも登場するヴァージニア・ウルフをイメージさせてくれます。 「彼女と彼女…

スパイダー(パトリック・マグラア)

カナダで療養を終えてロンドンに戻ってきた主人公デニスが、一人称で語り続ける物語。彼によると、20年前に恐ろしい事件が起こっていたのです。身勝手な父が、パブで知り合った娼婦ヒルダと共謀して、優しかった母を殺害。母になり代わって家に住みついた…

コールドマウンテン(チャールズ・フレイジャー)

だいぶ前に映画で見たのですが、原作は未読でした。南北戦争末期、戦争で引き裂かれた恋人たちが再会を目指す物語。映画のキャストは、ジュード・ロウとニコル・キッドマンでしたね。 ピーターズバーグの戦いで首に銃弾を受け、瀕死の重症を負った南軍兵士の…

エトワール広場/夜のロンド(パトリック・モディアノ)

ノーベル文学賞受賞作家であり「生存する最も偉大なフランス作家」とも称される著者が、1968年に22歳で発表したデビュー作と、翌年の第2作を収録した1冊です。どちらの作品にも「ナチス占領下のパリで闇のブローカーとして生き残ったユダヤ人」であ…

ウンベルト・エコ作『女王ロアーナの謎の炎』逆(裏)読み(フランコ・パルミエーリ)

『女王ロアーナ、神秘の炎』の解説書かと思ったのですが、全然違いました。これは「エーコ批判の書」だったのです。 では『女王ロアーナ』のどのような点が批判されているのでしょう。どうやら著者はこの本を「小説」ではなく「収集家の記録」として位置付け…

紅霞後宮物語 第0幕2(雪村花菜)

軍人皇后として伝説を残す関小玉の活躍は、『紅霞後宮物語』として、現在7巻まで出ています。こちらの「第0幕」は、小玉が皇后に登り詰めるまでの物語。 前巻の『第0幕1』では、貧農の家に生まれ、足の悪い兄の身代わりとして徴兵された小玉が、軍才を見…

愛のゆくえ(リチャード・ブローティガン)

人生の敗北者たちが自作の著書を持ち込んでくる風変わりな図書館で、ただひとりのスタッフとして24時間勤務している主人公の男性は31歳。もう3年も図書館の外に出たことはありません。なんとなく、村上春樹さんの『世界の終り』を思わせるプロットです…

ビブリア古書堂の事件手帖 7(三上延)

人気シリーズの完結編だけあって、今回取り上げられる古書は超大物である「ファーストフォリオ」です。世界でも238冊しか存在が確認されていない、シェイクスピア戯曲集の初版本であり、時価は数億円というしろもの。しかも「ファーストフォリオ」の存在…

はるかな星(ロベルト・ボラーニョ)

この著者のことは、白水社の「エクス・リブリス」から刊行されている『通話』と『野生の探偵たち』で知りました。それ以外にも同じ白水社から「ボラーニョ・コレクション」として既に7作刊行されていますが、本書はその1冊。 本書は、短編集『アメリカ大陸…

老人と宇宙(そら)6 終わりなき戦火(ジョン・スコルジー)

戦死率が異常に高い異星人との戦争において、老人たちに若返った身体を与えて「人類コロニー連合」の兵士とするというアイデアから始まったシリーズですが、かなり遠いところまで来てしまいました。そもそも本編は「第3巻」で終了しており、「第4巻」は別…

アルテミス(アンディ・ウィアー)

極限状態のサバイバルを徹頭徹尾科学的に描いたハードSF『火星の人』の著者が次に選んだ舞台は、月世界でした。しかも本書の主人公は、貧しくもユーモア精神にあふれた自称天才美女なのです。ついでにサウジアラビア人。 5つのドームに2000人の住民が…

火星の人(アンディ・ウィアー)

リドリー・コット監督によって映画化されました。映画の邦題「オデッセイ」はちょっといただけないのですが、原題は原作と同じ「The Martian」です。 ストーリーはシンプルです。猛烈な砂嵐によって3度目の有人火星探査ミッションは途中で中断。折れたアン…

メカ・サムライ・エンパイア(ピーター・トライアス)

第二次世界大戦で枢軸国が勝利し、アメリカ西海岸は大日本帝国の統治下にある「日本合衆国」となっている世界。歴史改変SFである『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』の続編にあたりますが、独立した作品としても読書可能でしょう。前作のヒロイン…

エバ・ルーナのお話(イサベル・アジェンデ)

シェヘラザードのように物語を紡ぎ出す能力をもって、混迷する世界を逞しく生き抜く少女『エバ・ルーナ』が、ついに巡り合った運命の人・ロルフに語る「お話」が23編も詰まっている「別巻」です。まるで神話のような物語群ですが、大半はエバが暮らしたア…

エバ・ルーナ(イサベル・アジェンデ)

1973年に暗殺されたチリのアジェンデ大統領の姪で、1982年に『精霊たちの家』でデビューした著者が、亡命先のベネズエラを舞台にして著した作品です。 密林に捨てられていた少女と、毒蛇に噛まれて死にかけていたインディオの間に生まれた娘エバが、…

昏い水(マーガレット・ドラブル)

D・H・ロレンスの『死の船』にある「昏い水が押し寄せてくる、からだが少しずつ死んでゆく」というフレーズに登場する言葉をタイトルとする、「老い」をテーマとする群像小説なのですが、決して暗い作品ではありません。老いと死を意識しながらも、最後ま…

接触(クレア・ノース)

まだ32歳の若さながら3つのペンネームを使い分けて多くの作品を著している著者が、SF用の「クレア・ノース」名を用いた2作目の作品です。前作の『ハリー・オーガスト、15回目の人生』は、完全な記憶を有したまま同じ人生を再開できる特異者の物語で…

サンド(ヒュー・ハウイー)

『ウール』にはじまる三部作で、核戦争後の世界で地中の巨大サイロに閉じ込められた人々の物語を描いた著者mによる、新たなディストピア・ストーリーです。 文明が絶えて砂漠化した世界。唯一発達したのは、思念と機材を用いて砂の中に潜り、生活資材や貴重…

アルマダ(アーネスト・クライン)

ゲームを愛する人たちは「現実はクソゲーだ」と思うことがあるそうです。現実は、ゲームのように理路戦前としていないからなのです。 本書の主人公は、幼い頃に父を亡くして田舎町の中古ゲーム店でバイトをしながら母と暮らす高校生のザック。彼が唯一特得意…

ゲームウォーズ(アーネスト・クライン)

1980年代に少年期を過ごした著者が没入した、ゲーム、映画、アニメの世界がふんだんに盛り込まれたクロスオーバー作品です。本書の原題である「Ready Player One」のタイトルで、スピルバーグによって映画化されました。 深刻な社会不安が現実世界を覆う…