りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2018-06-01から1ヶ月間の記事一覧

2018/6 「 i 」 (西加奈子)

6月にアップしたレビューは、5月の長期出張の際に読んだ軽めの文庫本が中心です。そのせいでベストを3冊も選ぶのに苦しんだのですが、こういう月もあるということで・・。 1.「 i 」 (西加奈子) 「この世界にアイは存在しません」という冒頭の一言が…

つぼみ(宮下奈都)

『羊と鋼の森』が本屋大賞を受賞したり、直木賞候補になったりして乗っている著者ですが、デビュー作の『スコーレNo.4』も素晴らしい作品でした。デビュー直後の時期に書かれた6編の短編からなる本書では、『スコーレNo.4』のスピンオフ作品も3編含…

紫式部の娘。賢子はとまらない!(篠綾子)

平安期の歴史・文学に造詣の深い著者が、一皮むけたくだけた作風で著した『賢子がまいる!』の続編です。 母の紫式部から引き継いだ、皇太后彰子のもとでの宮仕えも2年目に入りました。すっかり宮中に馴染んだ賢子が気になっているのは、新人女房の藤袴。教…

幻の神器(篠綾子)

平安鎌倉期の物語を紡ぎ続けている著者が題材としたのは、「古今伝授」でした。『百人一首』の編者として名高い藤原定家が、老父の俊成から「三種の御題」を解けば「古今伝授」を授けると伝えられたところから物語が動き始めます。定家はその直前に、鎌倉幕…

Gマン(スティーヴン・ハンター)

『極大射程』でベトナム帰りのスナイパーとしてデビューしたボブ・リー・スワガーも、著者と同じ71歳。さすがにもう自分からアクションに踏み込んでいくことはなく、秘められた歴史を掘り起こす物語が、『第三の銃弾』、『スナイパーの誇り』と三作も続い…

トワイライト4最終章(ステファニー・メイヤー)

4部シリーズの最終章は、劇的な展開を迎えます。 ヴァンパイアの美青年エドワードとの運命の恋を結実させ、ついに転生を果たしたベラは、生命の危険を冒して娘レネズミを授かったのですが、それはヴァンパイアの歴史にも記録が残っていないほど例外的な事件…

トワイライト4(ステファニー・メイヤー)

4部シリーズの最終作ですが、「上下巻」と「最終章」は映画でも2部作になったとのことですので、紹介も分けて記すことにします。 禁断の愛を貫き通して、ついに結婚と転生を決意したベラとエドワードに、最後の試練が襲い掛かります。義姉アリスのプロデュ…

トワイライト3(ステファニー・メイヤー)

4部シリーズの第3作では、イタリアのヴォルトーリ一族との約束もあって、ヴァンパイアへの転生を決意したベラにさらなる試練が襲い掛かります。かつてベラを狙ってエドワードに殺害された吸血鬼の恋人ヴィクトリアが、凶暴な新生者たちを率いて、彼女に罠…

トワイライト2(ステファニー・メイヤー)

4部シリーズの第2作は、エドワードの失踪から始まります。愛のために自分もヴァンパイアに転生することを決意したベラに対し、彼女を呪われた運命に巻き込みたくないと苦悩するエドワードは、彼女のもとを去ってしまいます。 最愛の人を失って生気を失って…

トワイライト1(ステファニー・メイヤー)

普通の女子高生イザベラとヴァンパイアの青年エドワードの許されざる恋を描いた、人気ラブロマンスです。4部シリーズですが、第1作は物語の背景と、タブーを超えて熱く燃え上がって行く2人の感情の動きが描かれていきます。 母が再婚することになって、そ…

月下におくる(堀川アサコ)

40代で日本ファンタジーノベル大賞を受賞した著者が、青春時代に個人のウェブサイトに掲載していた小説を大幅に改稿した作品です。小学生の頃に「沖田総司ブーム」を体験したという著者は、「理想の男性」として描いた主人公を、迷い悩む普通の若者として…

その犬の歩むところ(ボストン・テラン)

『神は銃弾』や『音もなく少女は』で、剥き出しの暴力にさらされた者たちのギリギリの抵抗を描いた著者による、数奇な生涯を歩んだ一匹の犬の物語。 イラク戦争で心身に傷を負った海兵隊員を死を意識した暴走から救ったのは、傷だらけでたったひとり、山道を…

マルドゥック・アノニマス 3(冲方丁)

軍事技術を用いて改造された異形のエンハンサーたちが跋扈する未来都市マルドゥック・シティの支配を企む「クインテット」と、裏社会の悪事を告発する「イースターズ・オフィス」の戦いは、いよいよ佳境に入って行きます。 「クインテット」のリーダーのハン…

シーボルトの駱駝(矢的竜)

長崎のオランダ商館長ブロンホフが、将軍家斉に献上するつもりで持ち込んだヒトコブラクダは、江戸への異動と飼育に手間がかかるとして、幕府の受け取り拒否にあったそうです。しかしその数年後には、江戸・両国にてラクダの見世物興業が行われて大盛況だっ…

四十八人目の忠臣(諸田玲子)

「忠臣蔵」を題材とした作品は数多くありますが、本書の主人公は意外な人物です。たまたま赤穂浅野家の江戸屋敷に奉公することになった美女きよなのです。 江戸詰めの藩士・礒貝十郎佐衛門と恋仲になって夫婦の約束をしたところで、浅野内匠頭の刃傷事件が起…

ファントム(スーザン・ケイ)

「オペラ座の怪人」のエリックは、どのような人生をたどってオペラ座にたどり着いたのでしょうか。彼をファントムに仕立て上げたものは何なのでしょうか。作家の想像力が、彼の半生の再構築に挑んだ作品です。 19世紀のフランス。夫を亡くしたマドレーヌが…

千年鬼(西条奈加)

単なる異界の存在である普通の鬼と異なり、鬼の芽を宿した人が変身した人鬼は、額に二本の角を果たした恐ろしい鬼となるそうです。ひとたび人の心に宿った鬼の芽は、いくたび死んで生まれ変わってもその者に悪心を抱かせ続け、千年に渡って摘み取り続けない…

コッペリア(加納朋子)

スワニルダという婚約者がいながら、人形に恋してしまった青年フランツを主人公とするバレエ「コッペリア」に対するオマージュ的な作品です。 まゆらという人形作家が作る精巧な人形に惹かれた青年が出会ったのは、その人形にそっくりの女性でした。パトロン…

オリンピックがやってきた(堀川アサコ)

「1964年北国の家族の物語」と副題がつけられた本書は、まるで「青森版・三丁目の夕日」ですね。1964年に青森で生まれた著者は、「自分が生まれた年の物語を書きたかった」と述べています。 連作短編集の形式を取る群像劇ですが、中心になるのは3世…

深川二幸堂菓子こよみ(知野みさき)

冒頭のエピソードが「己丑の大火」ですから、文政時代の1829年。本編はそれから14年後のことなので天保時代の1843年、江戸時代も終盤に差し掛かった頃の物語。少年時代の大火を危うく生き延びた、光太郎と孝次郎の兄弟が、2人して深川で菓子屋を…

神坐す山の物語(浅田次郎)

著者の母方の実家が奥多摩の御岳山の神官であったことは、『あやし うらめし あな かなし』の後書きで知りました。そこに収録されていた「お狐様の話」と「赤い絆」と同様に、著者が少年時代に伯母から聞かされた怪異譚の連作短編集です。 まずは複雑な登場…

七夜物語(川上弘美)

舞台の設定は1977年。両親の離婚で母親と2人で暮らしているさよは、町の図書館で見つけた『七夜物語』という不思議な本に誘われ、同級生の仄田くんと共に「夜の世界」へと入り込んでいきます。そこは大ネズミのグリクレルや影のミエルが跋扈し、「モノ…

公正的戦闘規範(藤井太陽)

この著者の作品ははじめて読んだのですが、水準の高さに驚かされました。それもそのはず、現在の日本SFクラブ会長であり、名実ともに日本を代表するSF作家なのでした。知らないということは恐ろしい・・。 「コラボレーション」 量子アルゴリズムをベー…

「i」(西加奈子)

著者は当初「LGBTQ」の「Q:Questioning(自分のセクシュアリティがわからない状態)」をテーマとする小説を書きたかったそうですが、最終的には「Q」以前に存在すべき「I(自分自身)」を主人公が肯定できるまでの物語となりました。とはいえ、自己…

クランベリー・クイーン(キャスリーン・デマーコ)

ニューヨークの有名なネット企業でマネージャーを務めているダイアナですが、私生活はさんざんで、3年前の失恋を未だに引きずっている状態。そんな彼女が交通事故で両親と兄を一気に失ってしまい、喪失感の深淵に沈んでしまいます。 友人たちの親切心も受け…

冷酷な丘(C・J・ボックス)

ワイオミングの猟区管理官、ジョー・ピケットを主人公とするシリーズの第10作です。このシリーズが開始された2001年以降のワイオミングでは、押し寄せるシェールガス開発から自然を守ることが大きな課題でしたが、本書が出版された2011年の時点で…