りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2018-05-01から1ヶ月間の記事一覧

2018/5 ソロ(ラーナー・ダスグプタ)

5月は「二部構造」の作品が上位に並びました。第1部の悲惨な過去を、第2部の白昼夢が美しく奏でていく『ソロ』と、第1部で夫の視点から語られた幸福な結婚生活を、第2部の妻の視点が覆していく『運命と復讐』。どちらも重層的な構造を持ちながら、読後…

カメレオンのための音楽(トルーマン・カポーティ)

『ティファニーで朝食を』や『冷血』の成功で文学界の寵児となりながら、その後は創造に悩み、アルコールと薬物中毒に苦しんだ著者が、晩年に書き上げた短編集です。 第1部は、表題作を含む6篇の短編から成り立っています。カリブ海の小島に住む貴族の老夫…

月蝕(篠綾子)

『伊勢物語』で名高い在原業平を主人公とする歴史ミステリです。六尺豊かな長身に華やかな美貌、和歌にも舞にも武芸にも秀でた青年として登場する在平は、当然のように色好みの貴公子として描かれます。そんな男が、いったいどんな事件に巻き込まれるのでし…

東京へ飛ばない夜(ラーナ・ダスグプタ)

悪天候のために東京行きのフライトが緊急着陸した夜の空港で、13人の男女が不思議な物語を語り合う「現代のデカメロン」なのですが、少々締りが悪い感じです。この種の話には全体を包み込む「大枠の物語」が必要なのです。『ソロ』と同様に、誰かの白昼夢…

階段を下りる女(ベルンハルト・シュリンク)

主人公の弁護士が、出張先のシドニーのギャラリーで1枚の絵と再会することろから物語が始まります。全裸で階段を浮揚するように下りてくる女の絵は、彼に40年前の出来事をまざまざと思い出させたのです。 当時駆け出しの弁護士であった主人公は、実業家の…

ピアリス(萩尾望都)

『ポーの一族』や『11人いる!』などの文学的な作風で知られる少女漫画家が、90年代に執筆した幻のSF小説・・というので期待したのですが、残念なことに未完でした。しかも続編を書く予定もないというのですから、欲求不満が溜まってしまいます。 内戦…

床下仙人(原宏一)

著者はギタリストやコピーライターを経験して作家デビューしたものの、才能の限界を感じて断筆。ところが1999年に発表した本書が「啓文堂書店おすすめ文庫大賞」に選ばれたことから、再び作家の道を歩むことにしたという異色の経歴を持っています。その…

ヘビメタ中年!(荒木源)

東京近郊の架空の町・梅ヶ丘を舞台とする音楽小説『オケ老人!』の姉妹作です。この町には、「ヘビメタ中年」も住んでいたのです。 高校時代に結成したヘビメタバンドの「ブラッククロウ」を、30年ぶりに再結成したメンバーは、皆揃って53歳。週に一度は…

ノーラ・ウェブスター(コルム・トビーン)

1970年前後のアイルランドの田舎町で、教師であった夫モーリスを突然亡くした46歳の主婦ノーラが、人生を立て直していく過程を丹念に描いた作品です。 特に大きな事件が起こるわけではありません。結婚前の職場に事務員として復職し、そこで出世してい…

いつかわたしに会いにきて(エリカ・クラウス)

セクシーでスキャンダラスな往年のハリウッド女優、メイ・ウェストの言葉をタイトルにした本書は、人生や恋愛に戸惑っている30代の女性を描いた13の短編からなっています。「」内に記した彼女の警句を扉に配して、それに応える文章で締めくくられる作品…

ニシノユキヒコの恋と冒険(川上弘美)

希代のモテ男であったニシノユキヒコの生涯を、彼の少年期、青年期、中年期、壮年期に関わった10人の女性の視点から綴った作品です。 そもそも彼はなぜモテたのか。ルックスも良くて優しい男性なのですが、どうやら徹底的に没個性であって、どんな女性の心…

エルドラードの孤児(ミウトン・ハトゥン)

南米文学というとまず、ノーベル賞作家であるマルケス、リョサ、ガルーダなどが思い浮かびますし、近年ではアジェンデ、ボラーニョ、モヤ、アラルコンなども多く紹介されていますが、南米最大の国であるブラジルの作家のことは、今までほとんど知りませんで…

幻想温泉郷(堀川アサコ)

「この世とあの世のあわい」を描く「幻想シリーズ」の第5作は、第1作の『幻想郵便局』が再び舞台になりますそこでは前代未聞の大事件が起きていました。亡くなった人が成仏する前に生前の善行・悪行を「功徳通帳」に記入して、来世での行き先を決めるシス…

白蓮の阿修羅(篠綾子)

著者は、奈良時代の女性で特別興味を惹かれた人物が3人いるそうです。藤原不比等の3女で聖武天皇の妃となった光明皇后。不比等の2女で長屋王の妻となった長娥子。そして長屋王と長娥子の娘で、後に出家して教勝と名乗る佐保。本書は興福寺の阿修羅像の三…

運命と復讐(ローレン・グロフ)

ギリシャ悲劇の骨格を有する、重層的な作品です。22歳で駆け落ちして結ばれた男女が、海辺で愛し合う高揚感が伝わってくる冒頭シーンで、「君は僕のものになった」と言う男に対して「誰かが誰かのものになるなんて嫌」と返答する女の言葉が持つ深い意味が…

師父の遺言(松井今朝子)

江戸時代の芝居小屋や花街を舞台とする作品が多く、『吉原手引草』で直木賞を受賞した著者の自伝は、「稀代の演出家にして昭和の怪人」と言われる武智鉄二氏との師弟関係を中心とする作品です。 厳しい要求に応え、やがて「跡継ぎ」と見込まれ、弟子として武…

三美スーパースターズ(パク・ミンギュ)

本書でデビューした著者にとって、忘れられない年は1982年のようです。韓国にプロ野球が誕生した年に仁川市の中学生だった少年は、地元の球団である「三美スーパースターズ」の熱烈なファンになるのですが、彼の期待は裏切られ続けます。 スーパースター…

ソロ(ラーナー・ダスグプタ)

21世紀初め、ブルガリアの首都ソフィアのうらぶれたアパートで、わずかな年金と隣人たちの施しによって生き延びている老人ウルリッヒ。盲目で身寄りもない老人は、ほぼ1世紀に渡る自らの人生を振り返ることで日々をすごしています。 20世紀のブルガリア…

しあわせの理由(グレッグ・イーガン)

現代ハードSFの第一人者と言われる著者の1990年代の作品を収録した、日本版オリジナル短編集です。最先端サイエンスの先に来るものを見通しつつ、意図的に原理を歪めた世界は秀逸ですが、著者の中心テーマは人間心理であることが良く理解できます。 「…

がっかり行進曲(中島たい子)

運動会、合唱祭、学芸会、遠足などの大切な日に限って、ぜんそくの発作がでてしまう実花の毎日は、「がっかり」することばかり。勉強も運動も不得意だし、全然美人でもないし、特別仲の良い友人もいないし、あだ名だってついていない。音楽や読書は好きだけ…

赤い天幕(アニータ・ディアマント)

旧約聖書においてアダムから数えて12代目の部族長ヤコブは、伯父ラバンの娘である4姉妹を妻とし、「イスラエル12部族」の祖となる12人の息子と、1人の娘ディナをもうけた人物です。男性中心に記述されている聖書では、ヤコブと息子たちの関係が詳し…

最果てのイレーナ(マリア・V・スナイダー)

『毒見師イレーナ』と『イレーナの帰還 』に続く「スタディ三部作」の完結編です。魔術が存在する中世的な架空世界を舞台として、魔術を否定する清廉な革命国家イクシアと、魔術師が支配する自由国家シティアの架け橋となろうとするイレーナですが、彼女を悪…

イレーナの帰還(マリア・V・スナイダー)

中世的な架空の世界を舞台とするファンタジー3部作ですが、第2巻になって魔術的な要素が色濃くなってきました。 前巻『毒見師イレーナ』で、死刑執行と引き換えに最高司令官アンブローズの毒見役となり、側近のヴァレクとともに革命国家イクシアの転覆の陰…

愛に乱暴(吉田修一)

幸福な結婚生活をおくっていたはずの主婦・初瀬桃子の人生が、結婚8年目にして狂い始めます。きっかけは桃子の理解者であった義父の宗一郎が脳梗塞で倒れたことでした。さらに、うろたえるばかりの義母・照子を手伝って疲れ果てたところにかかってきた1本…

アポロンと5つの神託 1.太陽の転落(リック・リオーダン)

ギリシャ・ローマの神々と人間との間に生まれたハーフたちの活躍を描く『パーシー・ジャクソン・シリーズ』の第3シリーズが始まりました。 現在はニューヨークに拠点を移しているオリンポスの神々にとってかわろうとするゼウスの父親クロノスや、万物の母ガ…

ワイズ・チルドレン(アンジェラ・カーター)

本書の語り手は75歳の女性で、双子の姉のドーラ。妹のノーラとともに、歌とダンスでショービジネス界を生き抜いてきたドーラは、今でも色気を失っておらず、舞台俳優である父親メルキオールの100歳の誕生パーティに何を着ていこうかと悩んでいる所。そ…