りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2018-04-01から1ヶ月間の記事一覧

2018/4 悪童日記(アゴタ・クリストフ)

最近「ハヤカワepi文庫」を読み始めました。16巻で発行終了してしまったような「ハヤカワepiブックプラネット」が新作を揃えていたのに対し、「epi文庫」は往年の名作も含んでいるのです。文庫収録前に読んだ作品も加えると、既刊93作の40%程度が既読…

幻想探偵社(堀川アサコ)

この世とあの世のあわいを描く「幻想シリーズ」 の第4作は、幽霊専門の探偵社でした。そこは、無事に成仏できなかった幽霊が塵芥となって消滅してしまう前に、この世に残した想いを解決するための調査機関なのです。 イケメンなのに女子の前であがってしま…

錠前破り、銀太 紅蜆(田牧大和)

「不味い蕎麦屋」を営む銀太、秀次の兄弟と、北町奉行所の吟味方与力助役の貫三郎という、異色の幼馴染たちが活躍する『錠前破り、銀太』のシリーズ第2作です。『緋色からくり』の主人公である錠前師の緋名は、前作に続いて連続出場。一方で『濱次お役者双…

錠前破り、銀太(田牧大和)

「不味い蕎麦屋」を営む銀太、秀次の兄弟と、北町奉行所の吟味方与力助役の貫三郎という、異色の幼馴染たちが事件に巻き込まれていく物語。実は銀太の蕎麦が不味いのは、早逝した妻のおかるが茹ですぎの蕎麦が好きだったからなのですが、銀太とおかるの夫婦…

雪月花黙示録(恩田陸)

大和文化を信奉する「ミヤコ民」と物質文明に傾倒する「帝国主義者」に二分された近未来の日本。春日、及川、三輪などの名家によって先導されているミヤコでは、将来のリーダーとしての座を約束される、学園の生徒会長選挙が重要な意味を持っているようです…

青い眼がほしい(トニ・モリスン)

ノーベル賞作家である著者が1970年に発表したデビュー作は、白人が作り上げた価値観を問いただす衝撃作です。 物語は、白人が理想とする「良きアメリカの家族像」を謳った、小学校教科書の一節から始まります。それを読んで「青い眼がほしい」と言った同…

紫式部の娘。賢子がまいる!(篠綾子)

母と同じく中宮彰子のもとで宮仕えを始める、紫式部の娘・賢子は14歳。お約束の新人イジメを軽々と跳ね除け、素敵な殿方との大恋愛に野望を抱く少女を主人公とする宮中ラノベなのですが、時代考証や登場人物の背景がしっかりしていることに加えて、母娘の…

忘れられたワルツ(絲山秋子)

淡々とした語り口ではあるものの、常に「死」を意識しているように思われる著者の作品は、独特の世界観を形作っています。本書に収録された7編は大震災の後に書かれた作品ということもあり、その傾向が強く顕れているようです。 「恋愛雑用論」 「恋愛とは…

毒見師イレーナ(マリア・V・スナイダー)

中世的な架空の世界を舞台とするファンタジーですが、主人公の少女が魅力的なだけでなく、矛盾に満ちた世界観も良いのです。 腐敗した王政を倒した革命軍事政権国家イクシアは、個人の権利を厳しく制限する法治国家である一方で、男女同権や法の下の平等は実…

暗幕のゲルニカ(原田マハ)

「泣き叫ぶ女、死んだ子供、いななく馬、力尽きて倒れる兵士、振り向いて世界が崩れる瞬間を見てしまった牝牛・・」。MOMAでピカソを専門とするキュレーターを務める八神瑤子は、10歳の時に見た「ゲルニカ」に捉えられてしまったのです。9.11で最…

南風吹く(森谷明子)

子規を輩出した松山市で開催されている「俳句甲子園」を舞台とする『春や春』の続編です。とはいっても、登場メンバーは入れ替わります。前作の主人公が東京の女子高校生チームだったのに対し、本書で描かれるのは愛媛県の離れ小島の高校生たち。 ミカン農家…

書架の探偵(ジーン・ウルフ)

SF・ファンタジーの大家である著者が、2015年に本書を著したときは84歳。「人間をできる限り本に近づけたらどうなるか」との発想から、亡くなった作家の記憶を植え付けた「複生体(リクローン)のアイデアが生まれたそうです。作家の複生体は図書館…

心臓抜き(ボリス・ヴィアン)

「肺の中で睡蓮の花が咲く」という奇病に罹った少女を愛する男の物語である『うたかたの日々』に、「心臓抜き」なる凶器が登場していましたが、本書で描かれるテーマはより精神的な苦痛です。 過去を持たず、空虚な存在として生まれた精神科医ジャックモール…

標的(真山仁)

日本に女性首相が誕生する日は来るのでしょうか。48歳という若さと美貌に加え、政治への情熱と清廉潔白さを併せ持つ越村みやび厚労大臣が総裁候補に名乗りを上げた時に、思いもよらない収賄疑惑が東京地検に持ち込まれます。果たして彼女はクロなのか、そ…

ヒューマン・ファクター(グレアム・グリーン)

イギリス情報部の幹部でありながら二重スパイであったことが暴かれ、1963年にソ連へと亡命したキム・フィルビーの事件は、各界に衝撃を与えました。本書は、実際にMI6でフィルビーの部下だったこともある著者が、事件に触発されて著した作品です。 ア…

スワンプランディア!(カレン・ラッセル)

南フロリダの湖沼地帯の小島で、時代遅れのワニ園「スワンプランディア!」を経営する家族は、崩壊の危機を迎えていました。ワニだらけの池に飛び込んで見せるスターだったママが癌で亡くなってしまったのです。 客足が絶えたワニ園の再生をあきらめない父親…

蘇我氏(倉本一宏)

古代日本の大豪族であった蘇我氏というと、稲目、馬子、蝦夷、入鹿と4代に渡って権力の中枢にいながら、乙巳の変で中大兄皇子と中臣鎌足に討たれて滅亡したという印象があります。確かにその後、中大兄皇子に組した傍流の蘇我倉山田石川麻呂も冤罪で自害さ…

アルヴァとイルヴァ(エドワード・ケアリー)

舞台となるエントラーラの町は、ナポレオンに関するエピソードがあるものの、パリを外国と言っている場面もあるので、おそらく地中海沿いの架空の国の架空の町なのでしょう。中世の砦跡、大聖堂、中央駅、大学、歌劇場、美術館、動物園などもあるので、それ…

幻想日記店(堀川アサコ)

『幻想郵便局』と『幻想電氣館』に続くシリーズ第3作では、前2作に続いて「生と死の狭間の世界」が描かれますが、本書のテーマは「旅立ち」ではありませんでした。 大学1年生の友哉が働くことになったのは、謎の美女・紀猩子(きのしょうこ)が営む日記堂…

ズーシティ(ローレン・ビュークス)

動物とペアになった登場人物たちというと『ライラの冒険』を思い浮かべてしまいますが、こちらに登場するのはリアルな動物。とはいえ設定は黒魔術的であり、「重犯罪者はそれぞれ一匹の動物と共生関係になりそれによって超能力を得る」という不思議な世界の…

紅霞後宮物語 第5幕(雪村花菜)

皇后・小玉の活躍で「維山の反乱」は収まったものの、皇帝・文林は隣国との関係や宮中の不正に対応する仕事に忙殺される日々が続いています。そんな文林に食事と睡眠を与えるために、「逆・お渡り」を繰り返す小玉でしたが、あろうことか「皇后に貞節の疑い…

ロボット・イン・ザ・ガーデン(デボラ・インストール)

AIの開発が進み、モデルチェンジを繰り返すアンドロイドが家事や仕事に就いている近未来のイギリス。親から譲り受けた家と遺産で漫然と過ごしている34歳のベンと、法廷弁護士でキャリアウーマンのエイミーの夫婦関係が崩壊寸戦になっているところに現れ…

吾輩は猫である(夏目漱石)

夏目漱石のデビュー作です。帝国大学卒業後に東京・松山・熊本で英語教師を勤めた後にロンドン留学。帰国後に東京帝大講師を勤めながら、38歳の時に書き上げた作品です。先日、本書の元ネタのひとつではないかと言われる『チビ犬ポンペイ冒険譚(フランシ…

第三の噓(アゴタ・クリストフ)

「三部作シリーズ」の最終作である本書は、タイトルからして意味深長です。第1部の『悪童日記』も、第2部の『ふたりの証拠』も、そして本書の中にも真実など存在しないと宣言しているようなのです。しかも、第2部とは異なって故郷に残ったほうがクラウス…

ふたりの証拠(アゴタ・クリストフ)

『悪童日記』の後日譚になりますが、前作で名前のなかった双子の兄弟に名前が与えられ、物語は三人称で綴られていきます。しかし、感情を顕わにせずに深い絶望を描いていくスタイルは前作と共通しています。 祖母も父親も失い、兄弟にも去られて一人残された…

悪童日記(アゴタ・クリストフ)

1956年のハンガリー動乱の際に西側に亡命した著者が、1986年に著した「異形の小説」です。第二次大戦末期、おそらくハンガリーであろう国家の首都から、西側と国境を接する村に一人で住む祖母のもとに疎開してきた双子の少年が「一人称複数形」で綴…