りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2018-03-01から1ヶ月間の記事一覧

2018/3 わたしの本当の子どもたち(ジョー・ウォルトン)

国書刊行会から「ウィリアム・トレヴァー・コレクション」の第3弾が発行されました。2016年11月に亡くなられたアイルランド出身の巨匠ですが、未訳の作品も多いので、今後も継続して欲しいものです。 今月の一位としたジョー・ウォルトンさんの作品を…

フェルメールの街(櫻部由美子)

17世紀のオランダ。画家修業を終えて故郷デルフトに帰ってきた20歳のフェルメールは、宿屋兼居酒屋の実家を手伝いながら、レンブラントの高弟であるファブリティウスの助手を勤めはじめたところ。後に「光の魔術師」と呼ばれるフェルメールですが、まだ…

ふたつの人生(2)ウンブリアのわたしの家(ウィリアム・トレヴァー)

国書刊行会の「ウィリアム・トレヴァー・コレクション」第3弾に、『ツルゲーネフを読む声』とともに収録されている作品です。 イタリアのウンブリア地方で簡易ホテルを経営するエミリーが語る、1987年夏の思い出は、痛ましい列車爆破テロから始まります…

ふたつの人生(1)ツルゲーネフを読む声(ウィリアム・トレヴァー)

国書刊行会の「ウィリアム・トレヴァー・コレクション」第3弾には、ともに「小説」と深いかかわりを持つ熟年女性を主人公とする中篇が2作収録されていますが、内容的には全く別の作品ですので、レビューも2つに分けて書くこととします。まずは「ツルゲー…

負けた者がみな貰う(グレアム・グリーン)

文学作品と、エンターテインメント作品をはっきり区別していたという著者ですが、本書は明らかに後者であり、実際に映画化もされているとのこと。邦題は「ハネムーンはモンテカルロで」。 恋人ケアリーとの結婚を決めた、冴えない会計係の男性が主人公。イギ…

第三の男(グレアム・グリーン)

名作映画「第三の男」の原作ですが、もともと本書は映画製作のために書かれたとのこと。主人公の名前(原作はロロ、映画はホリー)や、有名なラストシーンが異なることなどは著者も前書きで述べており、とりわけヒロインのアンナが絶望しながらも毅然とした…

龍馬史(磯田道史)

龍馬暗殺の実行犯は京都見回組であるというのが定説になっているようですが、黒幕については幕府説、薩摩藩説、土佐藩説、紀州藩説などがあって、論争の的になっています。最近でも龍馬の手紙という「新資料」をもとにしてTV番組で特集されたほど。『武士…

スナイパーの誇り(スティーヴン・ハンター)

第二次大戦末期、ドイツ軍から「白い魔女」と呼ばれて怖れられていた狙撃手のリュドミラ・ペトロワの記録が抹殺されているのは何故なのか。その事実を調べ始めたモスクワ駐在記者のキャシーは、親友のボブ・リー・スワガーに相談して、共に調査を開始します…

関越えの夜(澤田瞳子)

奈良天平期を舞台にした作品群でデビューした著者ですが、江戸時代の作品も増えているのは読者層が厚いからなのでしょう。本書は、東海道を行きかう人々の悲喜こもごもの想いを描いた、連作小説集です。この著者は、何を書かせても上手ですね。 「忠助の銭」…

君の彼方、見えない星(ケイティ・カーン)

映画「ゼロ・グラビティ」を彷彿とさせるような小説です。小天体の衝突でシャトルから放り出された、女性宇宙飛行士のカリスと料理人のマックスに残された酸素は、わずか90分。恋人同士である2人は、互いを思いやりながら、絶望的な状況からの脱出をはか…

あきない世傳 金と銀 3(高田郁)

高価なモノが売れなくなった享保デフレ期。しかしこの時代には、明治以降の日本を支えていく大商人が育っていたのです。石田梅岩が商家の理念を肯定した「心学」を打ち出したのも、この時代でした。このシリーズは、傾きかけた大坂天満の呉服商「五鈴屋」を…

ジェネレーション<P>(ヴィクトル・ペレーヴィン)

宗教とテクノロジーの融合が生み出す恐怖の時代というテーマは、『恐怖の兜』や『宇宙飛行士オモン・ラー』と共通しています。とはいえ前2作と比較して、本書の背景はよりリアルです。 ソヴィエト連邦が自然死して「涅槃(ニルヴァーナ)」の境地に至り、か…

世界地図の下書き(朝井リョウ)

両親を事故で亡くした小学3年生の太輔は、引き取られた叔母の家で虐待を受けて「青葉おひさまの家」で暮らしはじめました。はじめは心を閉ざしていた太輔ですが、同じような境遇の5人の仲間たちと過ごす中で、次第に心を開いていきます。中でも太輔の心の…

わたしの本当の子どもたち(ジョー・ウォルトン)

歴史改変SFの傑作である『ファージング三部作』や、思春期少女のファンタジックな成長物語である『図書室の魔法』の著者の新作は、パラレルワールドの物語でした。23歳のパトリシアが、恋人マークから突然に乱暴な求婚を受けた時に、世界は2つに分裂し…

幻想電氣館(堀川アサコ)

『幻想郵便局』の続編ですが、舞台も主人公も変わります。来世への入口であった登天郵便局が消滅してしまった後で、その役割を果たすようになったのは、駅裏にある寂れた映画館「ゲルマ電氣館」でした。亡くなった人はここに集まり、見る人によって内容が異…

チビ犬ポンペイ冒険譚(フランシス・コヴェントリー)

飼い主が転々と変わった子犬のポンペイを狂言回しとして、18世紀イギリスの人々の気質や風俗や風習などを描いた小説です。動物を主人公として人間社会を風刺した小説というと、夏目漱石の『吾輩は猫である』を思い浮かべますが、丸谷才一氏は「漱石はロン…

恋するソマリア(高野秀行)

2013年に講談社ノンフィクション賞を受賞した『謎の独立国家ソマリランド』の続編です。ソマリ人とソマリ社会の魅力に嵌りこんだ著者は、ほとんど片思いのような状態ながら、ソマリア各地を再々訪。ベテランジャーナリストのワイヤッブや、ケーブルTV…

謎の独立国家ソマリランド(高野秀行)

紅海出口からアデン湾にかけて広がる「アフリカの角」ソマリアと聞いて浮かんでくるイメージは、映画「ブラックホークダウン」や「キャプテン・フィリップス」。「リアル・北斗の拳」とか「リアル・ワンピース」と呼ばれるほど、武装勢力や海賊が横行する崩…

果つる底なき(池井戸潤)

1998年に江戸川乱歩賞を受賞した著者初期の長編は、正統派の「社会派ミステリ」でした。 債権回収を担当する同僚が謎めいた言葉と不正の疑惑を残して急死。彼の仕事を引き継いだ銀行員の伊木は、過去に自分が行った融資に重大な過失があったことに気付き…

ともえ(諸田玲子)

芭蕉が葬られたのは、大津・義仲寺の木曽義仲の墓の隣であったこと。大津には芭蕉から「幻住庵記」を形見として送られた女流俳人・智月尼が住んでいたこと。この2つの史実から、2人の関係を晩年の無償の愛情物語に仕立てあげ、義仲の妻であった巴御前と智…

バラ色の未来(真山仁)

「総理大臣官邸にプラスチックのコインを投げつけていたホームレスは、IRを誘致し町おこしをと気炎を上げ、総理の指南役とまで呼ばれていた元名物町長・鈴木一郎だった。日本初のIRは、5年前、土壇場で総理大臣・松田勉のお膝元に持って行かれていた。…

最後の審判の巨匠(レオ・ペルッツ)

1909年のウィーン。宮廷俳優ビショーフ邸に招かれた騎兵大尉ゴットフリート男爵たちは、ビショーフが四阿で拳銃を手にして倒れているのを発見。現場は密室状態で自殺に間違いないと思われたものの、探偵役を務めた技師は「これは殺人だ」と断言。 当時ウ…

サロメ(原田マハ)

世紀末のイギリスに彗星のように現れて夭折した、悪魔的なタッチのペン画家のオーブリー・ピアズリー。悪徳とスキャンダルで知られる詩人のオスカー・ワイルド。フランス語版『サロメ』の文章と挿絵で奇跡的な出会いを果たした2人の鬼才を巡る愛憎劇が、オ…

幻想郵便局(堀川アサコ)

『大奥の座敷童子』の読後感が良かったので、著者初期のファンタジーを読んでみました。リアルさとシュールさのバランス感が良いですね。好きな作風です。 主人公は、履歴書の特技欄に「探し物」と書いたことから、不思議な郵便局でアルバイトをすることにな…

雪蟷螂(紅玉いづき)

『ミミズクと夜の王』と『MAMA』に続いて書かれた、著者初期の「人喰いファンタジー3部作」の最終譚です。 冬の山脈で長きにわたって氷血戦争を続けていたフェルビエ族とミルデ族の和解の条件は、若い族長同士の政略結婚でした。しかし、想い人を喰らう…

夜の谷を行く(桐野夏生)

かつて連合赤軍の「女性兵士」であり、服役した過去を持つ西田啓子は、ひっそりと「余生」を過ごしています。そんな彼女の生活に変化が生まれたのは2011年2月のこと。彼女は既に63歳となっていました。 きっかけは、元連合赤軍最高幹部・永田洋子の獄…