りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2018-02-01から1ヶ月間の記事一覧

2018/2 オープン・シティ(テジュ・コール)

「口訳万葉集(折口信夫)」、「百人一首(小池昌子)」、「新々百人一首(丸谷才一)」が収録されている、池澤夏樹編「日本文学全集 第2巻」を読みました。日ごろ縁遠い和歌の世界の奥深さを、垣間見させていただきました。 1.オープン・シティ(テジュ…

京都鷹ケ峰御薬園日録2 師走の扶持(澤田瞳子)

京都鷹ヶ峰にある幕府直轄の薬草園で働く21歳の元岡真葛を主人公とする、シリーズ第2作です。前作『ふたり女房』のラストで、当代きっての本草学・小野蘭山の薬物採取の旅への同行を決めた後の物語が描かれていきます。 「糸瓜の水」 小野蘭山や弟子の延…

京都鷹ケ峰御薬園日録 ふたり女房(澤田瞳子)

奈良・天平期を主戦場としてしっかりした歴史考証に基づく作品を著している著者ですが、『若冲』や本シリーズなど、江戸時代を舞台とする作品によって、幅を広げようとしているようです。 本書の主人公は、京都鷹ヶ峰にある幕府直轄の薬草園で働く21歳の元…

オープン・シティ(テジュ・コール)

ドイツ人の祖母とナイジェリア人の父を持つ精神科医のジュリアスが、自らの生活拠点であるニューヨークと、祖母が住んでいたブリュッセルを彷徨する傍らで思索を巡らしていく作品です。ナイジェリア出身の著者の視点は、主人公の視点と重なり合っているよう…

薄情(絲山秋子)

2006年から高崎市に在住している著者が2008年に出版した『ラジ&ピース』は、よそ者だった主人公が地方都市で受け入れられる物語でしたが、2015年に出版された本書の主人公は地元民です。著者の「よそ者度」は低くなっているのでしょう。 家業の…

センセイの鞄(川上弘美)

独特の空気感を醸し出す著者の代表作でしょう。37歳独身女性の大町ツキコさんが、ひとり通いの居酒屋で高校時代の恩師だった松本先生と出会い、ゆったりとした交際を始める物語。 居酒屋でぽつりぽつりと交わされる伊良子清白の詩やジャイアンツの話は、秋…

ドサ健ばくち地獄(阿佐田哲也)

著者の『麻雀放浪記』は、麻雀小説というより戦後ピカレスク小説の傑作であり、1984年に真田広之主演で映画化もされています。本書は、真田広が演じた「坊や哲」の先輩的存在であり、映画では鹿賀丈史が演じた「ドサ健」の10年後を描いた作品です。 昭…

風葬(桜木紫乃)

「桜木ノワールの原点」と帯にありましたが、本書に登場するモチーフはその後の作品にも登場していますね。北方領土を臨む海峡の街での厳しい女の生き方は『霧(ウラル)』で、書道家という主人公の職業は『無垢の領域』で用いられています。 主人公のひとり…

引き潮(スティーヴンスン/オズボーン)

『宝島』や『ジキル博士とハイド氏』で有名な文豪スティーブンスンが、義理の息子であるオズボーンの考えたプロットに手を加えて仕上げた作品です。同じコンビの共作である『箱ちがい』がコメディであるのに対し、こちらは本格海洋冒険小説・・と思いました…

政略結婚(高殿円)

あまり期待しないで読んだのですが、意外と楽しめました。江戸、明治、昭和の3つの時代を生きた3人の女性たちが、それぞれの時代の「結婚観」という呪縛に立ち向かった物語です。いずれも加賀藩ゆかりの女性たちで、小説のモチーフとして九谷焼が使われて…

起きようとしない男(デイヴィッド・ロッジ)

英国のコミックノヴェルの大御所が、30歳から80歳までに書いた8作を収録した短編集です。著者の作品を読むのは、ハプニング続きのハワイ旅行の顛末をコミカルながらハートウォーミングなタッチで描いた『楽園ニュース』以来です。記憶に残っていた「旅…

紅霞後宮物語 第0幕1(雪村花菜)

稀代の天才と呼ばれた女性軍人でありながら30代にして突如皇后となり、帝国に中興期をもたらして後に神格化された関小玉の活躍は、本編で綴られています。本書は彼女の伝説の始まりを記した「第0幕」なのですが、こちらも長く続きそうです。 彼女が軍に入…

新々百人一首(丸谷才一)日本文学全集2

著者が「新々百人一首」を編んだのは、「アララギ史観」に対する拒否の念からだとのこと。本書は、「『万葉集』が屹然と聳えたのち、勅撰和歌集よいう無視して差支へないものが21も続き、その時代では源実朝だけが推奨するに足る」という、アララギ派的な…

百人一首(小池昌子訳)日本文学全集2

幼いころからカルタでなじみの深い百人一首なので、『万葉集』ほどの「発見」は少ないのですが、それでもあらためて気づかされることは多いのです。いくつか記しておきましょう。 百人一首というと、清少納言、紫式部、和泉式部、赤染衛門、小野小町らの女流…

口訳万葉集(折口信夫)日本文学全集2

奈良時代に編まれた日本最古の和歌集である万葉集は、近世以降、契沖、賀茂真淵、本居宣長らによって研究・解釈が進められてきましたが、私たちが理解できる「口語訳」を完成させて広く普及させたのは折口信夫の功績でしょう。天皇から庶民までさまざまな人…

死体展覧会(ハサン・ブラーシム)

1973年にイラクのクルド人地域のキルクークに生まれ、2000年に国外脱出。イラン、トルコ、ブルガリアを経由してフィンランドにたどりついて市民権を得た著者の作品は、戦争の残虐性と不条理がグロテスクなまでに反映されているようです。 「死体展覧…

ガール・セヴン(ハンナ・ジェイミスン)

主人公は日英ハーフの21歳の女性、石田清美。通称セブン。3年前に何者かに家族を惨殺された後、ロンドンの底辺にあるナイトクラブで働きながら、クラブの経営者ノエルの愛人的存在となっています。彼女の望みは、何とかどん底生活から抜け出して東京に帰…

ネバー・ゴー・バック(リー・チャイルド)

トム・クルーズが主演した同名映画の原作です。トムがジャック・リーチャーを演じるのは「アウトロー」に続いて2作目ですが、小説シリーズはすでに21作も出版されているそうです。 もと米陸軍憲兵隊で犯罪捜査官で現在は流れ者としての生活をおくっている…

エストニア紀行(梨木香歩)

植物に造詣が深く、カヌーやバードウォッチングを趣味とする「自然派小説家」の著者が、バルト三国でも最も北に位置するエストニアで見たものは何だったのでしょう。「森の苔・庭の木漏れ日・海の葦」というサブタイトルがつけられた旅行記ですが、この地に…

土佐堀川 広岡浅子の生涯(古川智映子)

明治期に女性実業家、教育家、社会運動家として活躍した広岡浅子の一代記であり、2016年のNHK朝ドラ「あさが来た」の原案本となった作品です。 江戸時代末期に京都の三井家に生まれ、17歳で大坂の両替商・加島屋に嫁いだ浅子は、明治維新の時には2…

散り椿(葉室麟)

18年前に上役の不正を訴え出て逆に藩を追われた瓜生新兵衛が、亡き妻・篠の最後の願いを果たすために帰藩したところから物語が始まります。しかし当時の事件はまだ解決していないどころか、藩主の代替わりを前にして藩内の情勢はただならないものになって…

おじいさんに聞いた話(トーン・テレヘン)

2016年にベストセラーとなった『ハリネズミの願い』は「人間は登場させず、誰も死なない」という著者が自ら課した規則に忠実な寓話的な物語でしたが、本書は真逆です。著者が「おじいさんから聞いた話」として綴った39編の短編は、亡命者の悲哀に溢れ…

時砂の王(小川一水)

遥か未来の26世紀、謎の侵略者ETによって地球は壊滅。太陽系に散らばった人類たちも追撃されて絶滅寸前に陥った中で採られた起死回生の策は、時間を遡行してETの初動を制圧するというものでした。使命を帯びた人造知性体のメッセンジャーたちは過去へ…

大奥の座敷童子(堀川アサコ)

時は黒船来航に揺れる徳川家定の治世。奥州野笛藩一の美女で14歳の今井一期に与えられた使命は、座敷童子を連れ戻るために江戸城大奥へ奉公に上がることでした。かつては野笛藩にいた座敷童子が50年前に大奥に連れ出されてから、藩の財政は傾き出して、…

神秘大通り(ジョン・アーヴィング)

メキシコのゴミ捨て場で育ちアメリカに移住して作家となったフワン・ディエゴの、フィリピンへの感傷旅行は何を目的にしたものなのでしょう。いつしか道連れになった不思議な美人母娘に翻弄されながら、少年時代の記憶を呼び起こしていく主人公の旅が行きつ…