りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2017-09-01から1ヶ月間の記事一覧

2017/9 私の名前はルーシー・バートン(エリザベス・ストラウト)

9月にアップしたレビューは、8月に読んだ本が中心です。暑いと軽めの作品が多くなりますね。今月は「次点なし」です。 1.私の名前はルーシー・バートン(エリザベス・ストラウト) 著者自身を彷彿とさせる架空の女性、ルーシー・バートンが、自分自身を…

狼の領域(C・J・ボックス)

心優しく不器用な、まるで高倉健のようなワイオミングの猟区管理官ジョー・ピケットを主人公とするシリーズの第9作です。家族の住むサドルストリングから遠く離れたシエラマドレでの単身赴任生活を終える直前、ジョーは事件に巻き込まれてしまいます。 不審…

エチュード春一番 第2曲 三日月のボレロ(荻原規子)

パピヨン犬の姿で顕現した八百万の神モノクロと暮らし始めた、大学新入生の美綾に転機が訪れます。きっかけは、夏休みに大宮の祖母の家に行った際に、神官の娘である門宮弓月に出会ったことでした。神気を増幅させることができるという弓月が、夜の氷川神社…

エチュード春一番 第1曲 小犬のプレリュード(荻原規子)

和製ファンタジーの名手による新シリーズは、普通の女子大生のもとに、子犬の姿で神が顕現する物語でした。大学生となった途端、父親のロンドン転勤で一人暮らしを始めることになった美綾の家に迷い込んできたパピヨンが「わしは八百万の神だ」と名乗るので…

ワンス・アポン・ア・タイム(オデット・ビーン)

現代アメリカで犯罪者を捜し出す賞金稼ぎとして生計を立てているエマのもとに訪れたのは、彼女の息子と名乗る少年ヘンリーでした。実はエマには、ハイティーンの時に出産して養子に出したまま忘れ去っていた息子がいたのです。 親子の再会劇と思いきや、ヘン…

実朝の首(葉室麟)

鎌倉幕府三代将軍の源実朝が鶴岡八幡宮で甥の公暁に暗殺され、さらにその公暁も殺害されたことで、源氏の嫡流が絶えたのは1219年のこと。その機に乗じた後鳥羽上皇が起こした承久の乱を、北条氏が鎮圧して、執権政治が開始されたことは歴史的な事実です…

眺めのいい部屋売ります(ジル・シメント)

ニューヨークのイースト・ヴィレッジに建つ古いアパートの5階の部屋に45年間住み続けた老夫婦が、部屋を売って引っ越すことを決意。イーストリバーに架かる橋と、対岸のブルックリンを臨む眺望は捨てがたいものの、足腰が弱ってきた夫婦と、12歳になる…

激流(柴田よしき)

物語の始まりは、中学校時代の修学旅行。7人組のグループで行動していた京都で、ひとりの女生徒・冬葉が突然失踪し、消息を絶ってしまったのです。 それから20年後、35歳になったグループのメンバーに過去の亡霊が蘇ります。発端は2人の女性に届いた「…

GOSICK PINK(桜庭一樹)

新大陸に到着した日に高層ビル爆破事件に巻き込まれたヴィクトリカと一弥ですが、とりあえずは一弥の姉・瑠璃の家に仮住まい。本書は、2人が新大陸で「ジョブ&ホーム」を得て、新生活を開始するようになるまでの物語です。 もっとも、生まれてからずっと幽…

デトロイト美術館の奇跡(原田マハ)

キュレーターとしてMOMAに勤務した経験を持ち、『楽園のカンヴァス』や『ジヴェルニーの食卓』などの「アート小説」でブレークした著者が、2016年秋の「デトロイト美術館展」に寄せて綴った作品です。 2013年に、市の財政破産によって存続の危機…

青い海の宇宙港 秋冬篇(川端裕人)

近未来の2020年代。ロケット発射場がある種子島をモデルにした多根島に「宇宙遊学」した少年少女たちの1年間を描いた作品の後半です。『上巻「春夏篇』では、夏休みに「シュガー・ロケット」を飛ばしたものの、到達高度は500m。高度100km以上…

青い海の宇宙港 春夏篇(川端裕人)

近未来の2020年代。ロケット発射場がある種子島をモデルにした多根島に「宇宙遊学生」として1年間を過ごした少年たちの『ロケット・ボーイズ』物語。 「宇宙遊学生」といっても、ロケットや宇宙に興味がある小学生ばかりではありません。主人公の天羽駆…

ナオミとカナコ(奥田英朗)

女性たちによるDV夫の殺人というと桐野夏生さんの『OUT』を思い出しますが、女性2人の友情という点では映画「テルマ&ルイーズ」のほうが近いかもしれません。広末涼子と内田有紀のW主演でドラマ化もされた作品です。 望まない職場で憂鬱な日々を送る…

私の名前はルーシー・バートン(エリザベス・ストラウト)

ルーシー・バートンという架空の作家が、一人称で語る回想記です。中心になっているのは、1980年代半ばに9週間に渡って入院生活を送った際に、イリノイの田舎町から見舞いにやってきた母親と過ごした5日間の思い出。子育ての合間に文章を書き始めては…

大正箱娘 2(紅玉いづき)

前作『大正箱娘』から1年後の続編ですが、この間、著者は出産されたとのこと。おめでとうございます。 どんな箱も開けることができるという「箱娘」こと回向院うららの存在は、国家の最高機密とされ、この世界がどこか歪んでいることと関係しているようなの…

人質オペラ(荒木源)

「イスラム過激派組織による日本人人質事件」に揺れる官邸を描いた政治ドラマです。 参院選を前にして、トルコで難民救援活動をしていた日本人女性がテロ組織の人質になったというニュースが飛び込んできます。多額の身代金を要求されたものの、テロに屈しな…

かばん屋の相続(池井戸潤)

著者が銀行小説を書き始めてから、直木賞を受賞する頃までに著された短編小説が、6編収録されています。どの作品も主人公は、銀行員です。 「十年目のクリスマス」 資金繰りに行き詰った中小企業への追加融資の稟議を通せず、むざむざ倒産させてしまったこ…

呪われた腕(トマス・ハーディ)

村上春樹さんは「ハーディを読んでいると小説が書きたくなる」とコメントしています。「村上柴田翻訳堂」シリーズの一冊として復刻された「ハーディ傑作選」には、悲劇的な運命に翻弄される人々を描く8編の短編が収録されています。かなり昔に読んだ『テス…

モップガール 3(加藤実秋)

『モップガール』と『スイーパーズ』に続く、3部作の完結編になります。 事件事故現場を専門とする清掃会社で働く桃子の特殊能力は、現場に遺された想いに感応するというもの。それは聴覚や臭覚や触覚の異常という形で顕れるものの、事件の真相まではわから…

ウインドアイ(ブライアン・エヴンソン)

『遁走状態』に続く短編集です。「存在と不在」あるいは「生と死」の間を揺れ動く25の短編群は、奇妙な世界を生きる登場人物たちのみならず、読者の記憶や認識や知覚を揺るがすほどの破壊力を擁しています。 「ウインドアイ」 窓に吸い込まれて消えた妹の…

幹事のアッコちゃん(柚木麻子)

『ランチのアッコちゃん』と『3時のアッコちゃん』に続く、人気シリーズの第3弾です。今回は4編すべてに、アッコさんがフル登場。「永遠の弟子」である澤田三智子の成長ぶりも見ることができます。 「幹事のアッコちゃん」 ダメ派遣社員だった三智子は、…

籠の鸚鵡(辻原登)

1980年代の和歌山で、男たちは堕ちていきます。町の出納室長を務める梶は、スナックホステスのカヨ子との不倫現場をビデオに録られて強請られ、公金横領の深みに嵌っていきます。実はカヨ子は、ヤクザ者で情夫の峯尾からの指示で、常連客の梶を罠に陥れ…

帰郷(浅田次郎)

著者が「いまこそ読んでほしい」という反戦小説集です。普通の人が招集されて戦争に駆り出され、運命を狂わされてしまうことの怖さが、胸に迫ってきます。 「歸鄕」 終戦から3ヶ月、身寄りを失って新宿で身体を売っていた女性は、復員したばかりの兵隊から…

魔物のためのニューヨーク案内(ムア・ラファティ)

地方都市で雑誌編集をしていたゾーイは、社内不倫でボロボロになってニューヨークに戻ってきたところ。偶然入ったうらぶれた書店で見つけた求人広告に申し込んだものの、「君は会社に馴染めない」と拒絶されてしまいます。実はその会社の従業員は全員が魔物…

独りでいるより優しくて(イーユン・リー)

天安門事件で将来を閉ざされた女子大生の小艾(シャオアイ)が毒を含み、脳にダメージを負って21年もの入院生活を送った後に、ようやく死を迎えます。当時高校生だった3人の男女は、なぜこの事件に責任を感じて、それぞれに孤独な人生を歩んでいたのでし…

しゃばけ15 おおあたり(畠中恵)

ひところは「生死観」に関わる重めのテーマを扱ったシリーズですが、この数作はまた軽くなりました。1年に1作という長期シリーズでは、避けられないことなのでしょうか。今回のテーマである「おおあたり」とは、良いことなのか、悪いことなのか、一太郎は…