りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2017-07-01から1ヶ月間の記事一覧

2017/7 ジュリエット(アリス・マンロー)

2013年に絶筆を宣言したアリス・マンローさんには、まだまだ未翻訳の短編集があるようです。2004年の作品である『ジュリエット』は、映画化を機に出版されたようですが、今後の邦訳にも期待したいものです。 グレッグ・イーガンの「直交宇宙3部作」…

しゃばけ14 なりたい(畠中恵)

「しゃばけシリーズ」の第14弾です。いつものように寝込んでいた病弱な若旦那・一太郎の回復祈願のため、兄やたちの仁吉(白沢)と佐吉(犬神)は、なんと神様たちを招待してしまいます。神様たちは饗応を受けたお礼に、「来世でなりたいもの」の願いを叶…

院内カフェ(中島たい子)

『漢方小説』や『そろそろくる』で、30代女性の微妙な体調の悩みを描いた著者も、もう40代後半。介護の問題や、連れ合いの病とか、それなりのお年頃の女性の悩みも身近に感じるようになってきたのでしょうか。 本書の舞台になっている、総合病院内に併設…

クリフトン年代記6.機は熟せり(ジェフリー・アーチャー)

激動の20世紀を生きたイギリスのクリフトン家の物語も、大詰めに向かってきました。人気作家の当主ハリーは、獄中にいるソ連の作家ババコフがスターリンの所業を暴いた「アンクル・ジョー」の出版に奔走。ババコフがノーベル文学賞を受賞するという朗報が…

四人の交差点(トンミ・キンヌネン)

フィンランドの新鋭作家による「ある家族の100年の物語」は、北東部の寒村を舞台にして3世代に渡る4人の視点人物によって語られていきます。4人の人生が交差する一瞬に、大きな家の中に隠されていた秘密が浮かび上がります。 1人目は、19世紀末に助…

海は見えるか(真山仁)

神戸から応援教師として東北に赴任してきた小野寺が、被災地の子供たちと正面から向き合う『そして、星の輝く夜がくる』の続編です。正解があるわけでもなく、放置されたままの問題も多い中で、子供たちはどう生きているのでしょう。 「それでも、夜は明ける…

賢者の石、売ります(朱野帰子)

『海に降る』などの科学小説を得意とする著者の作品ですが、本書は少々毛色が変わっています。テーマが「似非科学」なのです。 主人公の羽嶋賢児をバリバリの科学信奉者としたのは、「地学者 兼 鉱物販売業」の父親の影響だけでなく、家庭内に反面教師がいた…

ソフロニア嬢、倫敦で恋に陥落する(ゲイル・キャリガー)

吸血鬼や人狼が貴族扱いされ、メカ使用人がお屋敷で働くヴィクトリア朝英国。「ホラー」と「スチームパンク」が同居する独特の世界観に基づいて綴られた「英国空中学園譚シリーズ」の最終巻です。 レディのための花嫁学校と間違われて、飛行船内に寄宿するス…

君たちに明日はない(垣根涼介)

主人公の村上真介は、リストラ請負会社に勤めるクビ切り面接官。映画「マイレージ・マイライフ」でジョージ・クルーニーが演じたような仕事であり、用意周到かつ冷徹な面接手法でリストラ候補者を希望退職に追い込むのですが、彼の場合は葛藤を抱えているわ…

現代詩人探偵(紅玉いづき)

『ミミズクと夜の王』や『ブランコ乗りのサン=テグジュペリ』など、ファンタジー系の作品が多い著者によるミステリです。とはいえ、著者自身が「あとがき」で述べているように、本書は本格的なミステリではありません。本書のテーマは「詩人たちの心の闇」…

10:04(ベン・ラーナー)

タイトルの「10:04」とは、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で主人公が未来に戻る時刻のこと。時計塔に雷が落ちるシーンで、時計塔の針は10:04を指していたそうです。本書は、さまざまな人生の岐路に立たされた主人公が選択を繰り返すことで、…

天子蒙塵 第2巻(浅田次郎)

『第1巻』では、中国史上はじめて皇帝と離婚した側妃・文繍の視点から、「清朝復辟」の夢想から覚められない溥儀が満州国の傀儡元首となるまでが描かれました。続く第2巻は、爆殺された張作霖の部下たちの動向から始まります。 張作霖の後継者である張学良…

天子蒙塵 第1巻(浅田次郎)

清朝末期以降の激動の中国史を、中国を支配できる器の持ち主だけが手に出来るという「龍玉」をキーワードとして綴る「蒼穹の昴シリーズ」がついに再開されました。 第1巻の冒頭は、満州事変で国を追われた張学良の述懐から始まります。日本軍に対する「無抵…

蜜蜂と遠雷(恩田陸)

新たな音楽の地平を目指してピアノコンクールで競う視点人物は4人。養蜂家の父とともに各地を転々とし自宅にピアノを持たない15歳の風間塵。かつて天才少女として将来を嘱望されていたものの、母の突然死以来ピアノから遠ざかっていた20歳の栄伝亜夜。…

ハリー・オーガスト、15回目の人生(クレア・ノース)

完全な記憶を有したまま、同じ状況で生まれ変わって人生を再開できる特異者を主人公とする「リプレイもの」。同じ体質を持つ者が複数いると遠い未来のこともわかるようです。自分が高齢で死ぬ間際に、次の世代の若者の記憶を伝えてもらえば、自分の死後の出…

GOSICK RED(桜庭一樹)

旧大陸の架空国ソヴュールを舞台にしたオリジナルシリーズは、超頭脳を有するゴシック美少女・ヴィクトリカと、帝国軍人の三男ながら彼女に振り回されてばかりの久城一弥が、「2度目の嵐」に襲われた世界を生き延びて、再会を果たしたところで終了していま…

アロウズ・オブ・タイム(グレッグ・イーガン)

空間的方向と時間的方向が「直交」しているため、超光速で宇宙空間を航行するロケットが一種のタイムマシンとして機能する世界の危機を描いた「直交宇宙3部作」がついに完結しました。 第1部の『クロックワーク・ロケット』で生態系をまるごと乗せた超巨大…

僕の名はアラム(ウィリアム・サローヤン)

「村上柴田翻訳堂シリーズ」から、柴田元幸さんの新訳で、サローヤンの名作が復刊されました。 語り手であるアラム少年は、著者の分身にほかなりません。オスマントルコによる迫害から逃れてアメリカに移り住んだアルメニア人大家族の一員として生まれた少年…

遊戯神通 伊藤若冲(河治和香)

「時空を超えて我々を魅了し続ける若冲の素顔と秘密に迫る」とありますが、本書は「若冲の物語」ではありませんね。著者が若冲の作品に触発されて創り上げた、架空の女性たちの物語です。 若冲没後100年、セントルイス万博に出現した「若冲の間」を飾った…

書楼弔堂 炎昼(京極夏彦)

時は明治30年代、「探書」に訪れる者に「一冊の本」を勧める不思議な書楼「弔堂」の物語。第2巻の語り手を務めるのは、女学生の塔子。書楼の主人から例外的に何冊もの本を勧められる塔子は、著者の創作のようですが、他のシリーズに登場することもあるの…

陰陽師 玉兎ノ巻(夢枕獏)

連載開始から30年、第15巻目という節目の作品です。このシリーズを評するのに「偉大なるマンネリ」という言葉がよく使われますが、この水準を維持するだけでも大変なことです。 「邪蛇狂ひ」 100年生きた蛇、角を生やして蛟(みずち)になるそうです…

ジュリエット(アリス・マンロー)

スペインのペドロ・アルモドバル監督が「ジュリエッタ」のタイトルで映画化した、3篇の連作短編を中心とする短編小説集です。原作『Runaway』は『イラクサ』と『林檎の木の下で』の間の2004年に出版されています。 「家出」 横暴な夫から逃げ出したいと…

後妻業(黒川博行)

高齢の資産家の後妻となって遺産を相続することを「業」とするには、相手の男性が早く亡くなってくれないといけません。結婚相談所の所長・柏木とグルになって「後妻業」を繰り返す小夜子の仕事には、夫の死期を早めることも含まれていたのです。 物語の前半…

土の記(高村薫)

「日本の田舎の老人」という「種の存在」を、シュールなブラックユーモアとして描いた作品が『四人組がいた。』なら、本書は同じテーマを純文学として描いた作品なのでしょう。 東京の大学を出て関西の大手メーカーに就職し、奈良県大宇陀の旧家の婿養子とな…

紅霞後宮物語(雪村花菜)

第2回富士見ラノベ文芸大賞金賞受賞作です。タイトルからして 酒見賢一さんのデビュー作『後宮小説』を彷彿とさせてくれますが、内容的にもグレードアップしています。後宮に召し出された田舎娘「銀河」が反乱に際して「後宮軍」を組織する酒見さんの作品に…

トラッシュ(アンディ・ムリガン)

スモーキーマウンテンという地名やペソという通貨によって、舞台となっている国の想像はつきますが、政府要人の不正も登場するので、やはり架空の国ということにしておきましょう。 巨大なゴミ捨て場に住み、ゴミを漁って生涯をすごす運命にある少年のラファ…