りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2017-06-01から1ヶ月間の記事一覧

2017/6 本を読むひと(アリス・フェルネ)

故水木しげる氏の一周忌にあたる2016年11月に出版された京極夏彦さんの『虚実妖怪百物語』は、実在の人物も数多く登場して大騒動を繰り広げる、紙上の大法要ともいうべき作品でした。タイミングを逃しましたが、生涯戦争反対を訴え続けた水木しげる氏…

限界集落株式会社(黒野伸一)

起業のためにIT企業を辞職した多岐川優が、人生の休息で訪れた故郷は、限界集落になっていました。過疎・高齢化が進み、郵便局も小学校もバス便も消え、役場からは麓の村に引っ越すように強く勧められていたのです。 村の人たちと交流するうちに限界集落を…

霖雨(葉室麟)

天保期の豊後日田で、私塾・咸宜園を主宰する広瀬淡窓と、家業博多屋を継いだ弟・久兵衛の兄弟が、権力の横暴と時代の荒波に耐えて清冽な生き方を貫こうとする、地味ながら味わい深い物語です。 権力の横暴は「官府の難」という言葉で表わされます。野心を持…

川あかり(葉室麟)

主人公は、川止めで途方に暮れている若侍の伊東七十郎。藩で一番の臆病者と言われる七十郎の使命は、専横を極める藩の重鎮の暗殺なのですが、彼は単なる捨て駒のようです。川明けを待つ間、安宿で相部屋になったのは一癖も二癖もある連中ばかり。実は彼らは…

長崎ぶらぶら節(なかにし礼)

丸山に実在した名妓・愛八が、長崎研究で身代を傾けた市井の学者・古賀十二朗に声をかけられ、ともに長崎の古い歌を訪ね歩く本書は、素朴な感動を呼び起こしてくれます。 義侠心が強く、身銭を切って苦労している若者や子供を援助してきた愛八が、古賀と出会…

きいろいゾウ(西加奈子)

お互いを「ムコさん」「ツマ」と呼び合う若夫婦の本名は、武辜歩と妻利愛子。背中に大きな鳥のタトゥーを持つ売れない小説家のムコと、周囲の生き物の声が聞こえてしまう過剰なエネルギーに溢れたツマの生活は、つつましいものながら愛にあふれていました。…

宇宙ヴァンパイアー(コリン・ウィルソン)

村上春樹さんと柴田元幸さんが「もう一度読みたい海外文学」を新訳・復刊している「村上柴田翻訳堂シリーズ」内の一作ですが、本書はかなりキワモノ風です。 物語は、カールセン船長が指揮する宇宙船が、明らかに人類のものではない巨大難破船に遭遇した場面…

天智帝をめぐる七人(杉本苑子)

乙巳の変(大化の改新)の首謀者であった中大兄皇子(後の天智天皇)には、冷酷な策謀家という印象があります。本書は天智帝と関係が深かった7人の視点から彼の人物像に迫った作品ですが、著者の好悪も感じ取れますね。叔父の軽皇子を即位させて自らは皇太…

木曜組曲(恩田陸)

恩田さんがまだ「新進気鋭のミステリ作家」と呼ばれていた時代の作品です。耽美派小説の巨匠であった重松時子が、謎の薬物死を遂げてから4年。彼女に縁の深い女性たちが集まる「偲ぶ会」は、彼女の死を巡る「告発と告白の会」になっていきます。 集まった女…

アリバイ・アイク(リング・ラードナー)

村上春樹さんと柴田元幸さんが、「もう一度読みたい海外文学」の10作品を新訳・復刊している「村上柴田翻訳堂シリーズ」内の一作です。新聞のコラムニスト出身の著者は、1910~20年代に活躍した短編の名手。柴田さんが巻末対談で「純文学というより…

永遠をさがしに(原田マハ)

2012年に直木賞候補となった『楽園のカンヴァス』でブレークする直前の作品です。この2作の間には断絶がありますね。この作品は、ストーリーは盛り込み過ぎで、テーマは未消化の感じです。 世界的な指揮者を父親に持つ高校生の和音は、5年前の両親の離…

はじめての古寺歩き(井沢元彦)

『逆説の日本史』の著者による、古寺鑑賞の入門書です。三大ポイントである「仏像、建築、庭園」を鑑賞するための知識や視点が、著者の実体験に基づいて平易に説明されています。 実践編に登場する、金閣寺、千本釈迦堂、永観堂、東寺、東大寺、興福寺、新薬…

虚実妖怪百物語 急(京極夏彦)

魔人・加藤保憲と、彼が召喚した太古の魔物の日本滅亡計画とは、この国の人々が昔から持っていた「ゆとりや余裕や馬鹿さ」を消滅させてしまうことでした。この力があったため、この国は過去に戦争や大災害があっても滅亡することはなく、復旧を遂げてきたと…

虚実妖怪百物語 破(京極夏彦)

三部作の第2巻です。『第1巻 序』の冒頭でシリアの遺跡に登場した魔人・加藤保憲が、富士の樹海に再登場。どうやら彼は、憎きニッポンを滅ぼすために中東の太古の魔物を召喚したようです。その魔物は、都知事や与党幹事長の肉体を借りて、使命を果たそうと…

虚実妖怪百物語 序(京極夏彦)

「うそまこと ようかいひゃくものがたり」と読みます。著者自身をはじめとして、妖怪に関する大先生の水木しげる、大御所の荒俣宏、専門誌『怪』の執筆陣・編集陣である平山夢明、加門七海、黒史郎、多田克己、村上健司、郡司聡らが「とても良く似たキャラ」…

十二人の死にたい子どもたち(冲方丁)

著者初のミステリは、映画「十二人の怒れる男」をモチーフにした作品でした。 廃業した病院に集まった12人の少年少女たちは、あるサイトで知り合った自殺志願者たち。彼らはすぐに病院の一室で一緒に安楽死を迎える予定でした。しかし彼らの前に、すでに1…

花野に眠る(森谷明子)

東京郊外の秋葉図書館で新人として入った今居文子の司書生活も2年目に入りました。『れんげ野原のまんなかで』の続編となる、図書館ミステリの第2弾です。今回も季節感あふれた表題を持つ5話構成ですが、全体を通じてひとつの謎を解いていく二重構造の作…

れんげ野原のまんなかで(森谷明子)

『紫式部三部作』の印象が強い著者ですが、かなり早い時期から現代ものも書いています。本書は、地方都市の街外れにある図書館を舞台にして「日常の謎」を扱うミステリ。語り手は新人司書の今居文子で、謎解き役は先輩男性司書の能勢。読書量豊富な先輩女性…

ビリー・リンの永遠の一日(ベン・ファウンテン)

2004年11月25日、感謝祭の日にテキサススタジアムで行われたアメフトゲームでは、派手なハーフタイムショーが繰り広げられたそうです。通常のチアダンスに加えて、ビヨンセを含むディスティニーズ・チャイルドが招かれ、大学や軍のマーチングバンド…

GOSICK 8 神々の黄昏(桜庭一樹)

ゴスロリ姿の天才少女ヴィクトリカと、留学生の一弥を主人公とする「ゴシックミステリ・シリーズ」の最終巻です。 クリスマス当日、ヴィクトリカが一弥に求めたのは、15個の謎でした。それは、彼女にとっては「2度目の嵐」の到来時期を予測するための真実…

GOSICKs 4 冬のサクリファイス(桜庭一樹)

世界が「2度目の嵐」に襲われる予感が強まっていく中で、聖マルグリット学園ではクリスマスの行事である「リビング・チェス大会」が開催されます。要は人間がチェスの駒を演じる「人間チェス」ですね。最後の平安な一日に、今まで積み残されてきた小さな謎…

本を読むひと(アリス・フェルネ)

パリ郊外に暮らすジプシーの大家族と、図書館員エステールの交流を描いた作品です。「20年におよぶフランスのロングセラー」とのことなので、現在のジプシーたちの生活環境は変化しているのかもしれませんが、本質は変わっていないのではないかと思われま…

地下の鳩(西加奈子)

帯に「平成版夫婦善哉」とあるように、大阪ミナミの夜に生きる破滅的な男女の物語です。実は、少々苦手なジャンルの作品でした。 ミナミのキャバレーで客引きとして働く、暗い目をした「吉田」は40歳。若いころから女にはもててきたけれど、人生をともにす…

ワイルド・ミートとブリー・バーガー(ロイス・アン・ヤマナカ)

1970年代のハワイ島ヒロを舞台にして、日系三世の少女ラヴィ・ナリヨシの日常生活を描いた作品です。 彼女は、さまざまなことに不満を抱えて生きています。小学校では訛りのひどいピジン英語を注意され、イケてる女子たちからは馬鹿にされ、唯一の友人は…

水戸黄門 天下の副編集長(月村了衛)

水戸黄門の諸国漫遊は、原稿督促が目的だった? 『国史(大日本史)』完成を悲願とする光圀公は、いくら督促しても原稿を上げてこない執筆者たちに業を煮やし、自ら町人に身をやつして諸国原稿取り立ての旅に出発。お供を申しつけられたのは、水戸彰考館で国…

終わりなき道(ジョン・ハート)

デビュー作の『キングの死』以来、ミステリでありながらも家族の確執や愛憎を濃厚に描いてきた著者の新作は、やはり重層的な作品でした。 刑事のエリザベスは、少女監禁犯を拷問・射殺したのではないかと疑われ、州警察から調査されているのですが、どうも真…