りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2017-05-01から1ヶ月間の記事一覧

2017/5 恋と夏(ウィリアム・トレヴァー)

ベンガル語も英語も捨てて、新たに学び始めたイタリア語で綴ったという、ジュンパ・ラヒリさんのエッセイの評価には最後まで悩みました。優しい実母からも完璧な継母からも逃げ出して、自分で選んだ恋人と新しい生活をはじめたようなもの。それでも、これま…

なぎさ(山本文緒)

休筆後15年ぶりの長編では、家族関係という複雑で厄介なテーマに取り組んでいます。はしばしに「生き辛さ」を感じるのは休筆後の中編集『アカペラ』と同様ですが、終盤では明るい兆しも見えてきました。 家事だけが得意な専業主婦の冬乃は、夫の佐々井と2…

三谷幸喜のありふれた生活14 いくさ上手

新聞連載エッセイを単行本化したシリーズも、もう14巻になりました。対象となっているのは、2014年10月〜2016年5月まで。冒頭の「脚本家53歳の物思い」でいきなり、面倒ジジイになりつつあることを実感した日々の戸惑いをぼやいていますが、…

リバース(五十嵐貴久)

著者のデビュー作である『リカ』はホラーサスペンス大賞受賞作であり、苦手なジャンルなので未読のままでした。読み始めてから気付いたのですが、本書は「最恐のストーカー・リカ誕生物語」だったのです。裏表紙の内相紹介をちゃんと読んでおけば、手を出さ…

テスタメントシュピーゲル 3上(冲方丁)

世界中のテロが交差する近未来都市ウィーンで、機械化された特甲少女たちの闘いを描く「シュピーゲル・シリーズ」は、著者の最後のライトノベルになるとのこと。「黒犬・涼月、赤犬・陽炎、白犬・夕霧」らの活躍を描く『オイレンシリーズ』と、「紫火・鳳(…

魂の沃野(北方謙三)

『大水滸(全51巻)』を17年かけて書き上げた著者が次に挑むのは、多くの読者の期待と想像通り「テムジン」の物語だそうです。その前に「日本史を取り込んだ最後の小説」のテーマとなったのが、加賀の一向一揆でした。『楊令伝の序盤(第3巻、第4巻、…

ダイエット(フランソワーズ・マレ=ジョリス)

パリの高校で自然科学を教えているジャンヌは、35歳の独身女性。身長170センチで体重85キロと、見るからに肥満なのですが、自分の体形を気にしたことなどありませんでした。読書家で美食家である彼女は、校長のエリザベスからも、男女の友人たちから…

いつもが消えた日(西條奈加)

もと神楽坂芸者で今でも粋はお蔦さんをホームズ役、同居している孫で中学生の望をワトソン役とする「ご近所ミステリ」兼「望クンの成長物語」である「お蔦さんの神楽坂日記シリーズ」の第2作です。第1作『無花果の実のなるころに』では、比較的軽いテーマ…

べつの言葉で(ジュンパ・ラヒリ)

「両親の言葉であるベンガル語を実母とするなら、成長過程で身に着けた英語は継母」と例える著者が、第三の言語となるイタリア語で綴ったエッセイです。イタリア語で書いた「取り違え」、「薄暗がり」という2編の掌篇小説も収録されています。 そもそも彼女…

爆発の三つの欠片(チャイナ・ミエヴィル)

『都市と都市』や『言語都市』などの作品によって、現代的なSF作家とされる著者ですが、もともとは「ニュー・ウィアード」と称する怪奇的幻想小説の書き手であり、本人もそう自称しているとのこと。多種多様な28もの短編が収録されている本書ですが、ざ…

時の止まった小さな町(ボフミル・フラバル)

松籟社の「東欧のコレクション」シリーズのスピンアウト企画として、20世紀チェコで不遇の時を過ごした小説家、ボフミル・フラバルのコレクションが出版されています。本書はその第3弾。 本書は、自身の両親をモデルとして描いた前作『剃髪式』の直接の続…

枕草子(酒井順子訳)日本文学全集7

日本人なら誰でも知っている『枕草子』ですが、全文を読んだのは初めてです。酒井順子さんの翻訳は自然ですらすら読めました。 清少納言による随筆集ですが、スタイルは自由自在。通常は「あるある」を集めた類聚的章段、日ごろ思うことを書き綴った随想的章…

恋と夏(ウィリアム・トレヴァー)

2016年11月に88歳で亡くなったアイルランド出身の作家が、81歳のときに紡ぎあげた最後の長編です。 20世紀半ばですでに、歴史の表舞台から取り残されてしまっているアイルランドの田舎町。孤児院出身で働きに出た先の農夫の後妻となっていた若い…

宿神 第4巻(夢枕獏)

西行を主役に据えた全4巻の大河伝奇小説の完結編です。自然界に存在する「ものの気配=宿神」を感知できる能力を有する西行が、平安という時代の終わりを看取って、自らもまた桜の季節に永眠するまでが描かれていきます。 前巻で描かれた保元の乱以降、時代…

宿神 第3巻(夢枕獏)

西行を主役に据えた全4巻の大河伝奇小説の第3巻では、平安期の摂関政治・院政に終わりを告げることになる「保元の乱」が描かれます。 1155年に近衛天皇が17歳の若さで亡くなると、鳥羽法皇の第4皇子で待賢門院を母に持つ後白河天皇が即位。実子・重…

宿神 第2巻(夢枕獏)

西行を主役に据えた全4巻の大河伝奇小説の第2巻では、北面の武士であった佐藤義清の出家がクライマックスになります。 忘れ得ぬ禁断の一夜を過ごした待賢門院璋子に対する激しい恋情を断ち切れない義清ですが、しょせんは禁断の恋。待賢門院から決別を言い…

宿神 第1巻(夢枕獏)

日本史上、稀に見る混乱期であった平安末期に、北面の武士という役職を捨てて出家した西行を主人公とする大河伝奇小説です。全4巻。 第1巻で描かれるのは、同い年の同僚である平清盛との篤い友情と、主君・鳥羽上皇の中宮である17歳年上の待賢門院璋子へ…

ツタよ、ツタ(大島真寿美)

明治の終わりに沖縄に生まれた「幻の女流作家」久路千紗子の生涯を描いた作品ですが、驚くべきことにモデルがいるのです。本書は、1932年「婦人公論」に「滅びゆく琉球女の手記」を書いた、久志芙沙子氏という実在の人物をモチーフにしたフィクションな…

下町ロケット 2(池井戸潤)

前作『下町ロケット』では「ロケット品質のバルブシステム」を製造して中小企業の「ものづくりの意地」を示した佃製作所ですが、ひとつのヒット商品だけで生きていけるほど経済界は甘くはありません。 帝国重工による次世代ロケットエンジン開発では、NAS…

眩(くらら) 朝井まかて

葛飾北斎の娘であり、偉大な父に「美人画にかけては敵わない」と言わしめたお栄こと葛飾応為の半生を描いた作品です。応為を主人公にした作品では山本昌代さんの『応為坦坦録』が有名ですが、河治和香さんの『国芳一門浮世絵草紙3 鬼振袖』に登場したり、映…

最悪の将軍(朝井まかて)

第5代将軍・徳川綱吉というと、「生類憐みの令」によって「犬公方」と揶揄された凡庸な君主というイメージが強いでしょう。しかし他面では、戦国時代の風潮を一掃して文治政治の礎を築いた人物として、再評価されてもいるようです。本書は「最悪の将軍」と…

ポーラースター(海堂尊)

医療問題小説に特化してきた著者の新境地は、キューバ革命の英雄チェ・ゲバラを主人公とする長編4部作でした。2017年はゲバラ没後50年にあたるのですが、完結は2019年予定とのことです。 その第1作は「ゲバラ覚醒」との副題をつけた青春篇。中心…

ウエディング・ママ(オリヴィア・ゴールドスミス)

69歳のフィリスは、夫の死を機に、余生をすごすはずだったフロリダからニューヨークに戻ることを決意。この知らせに動揺したのが、ともにニューヨークで暮らしている3人の子どもたち。独身で落ち目のキャリアウーマンである長女シガニー。仕事がうまくい…

GOSICK 7 薔薇色の人生(桜庭一樹)

外の世界で「2度目の嵐」が迫りつつある中、ソヴュール王国のオカルト省の首魁である父親のブロア侯爵によって、首都ソヴレムに召喚されたヴィクトリカ。彼女を心配して後を追う一弥。ついでにセシル先生と寮母のゾフィ。 ブロア侯爵の狙いは、王国最大のス…

GOSICKs 3 秋の花の思い出(桜庭一樹)

「シリーズ外伝」の第三作めにあたります。 GOSICK5 ベルゼブブの頭蓋 で闇の修道院から脱出し、GOSICK6 仮面舞踏会の夜で暴走機関車から逃れてきた夏の長旅の疲れからか、寝込んでしまったヴィクトリカ。花にまつわるエピソードをもって見舞…

三鬼 三島屋変調百物語四之続(宮部みゆき)

神田三島屋の叔父夫婦のもとに身を寄せた娘おちかが怪異話を聞く「変わり百物語」のシリーズ第四弾。「聞いて聞き捨て。語って語り捨て」のはずでしたが、そうもいかないケースも起こります。そして、おちかを囲む人々にも変化が・・。 「迷いの旅籠」 百姓…