りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2017-04-01から1ヶ月間の記事一覧

2017/4 岳飛伝 17(北方謙三)

昨年出版された森見さんと万城目さんの新作を、ほぼ同時に読みました。個人的には、京都にこだわり続ける森見さんのほうが、物語世界を広げている万城目さんよりも好みなのですが、今回は万城目さんのほうが良かったですね。作家となる決意を抱くに至る作品…

オリンポスの神々と7人の英雄 外伝(リック・リオーダン)

『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』と同様に、続編の『オリンポスの神々と7人の英雄』にも外伝がありました。最後の短編は、16歳になった息子ヘイリーが最初に書いた小説だそうです。息子のために書いた小説を、息子が書き継いでくれることを、…

標的(パトリシア・コーンウェル)

「検屍官シリーズ」第22作では、以外な人物が再登場。このシリーズの悪役として、テンプル・ゴールト、ニュートン・ジョイス、deadoc、ジョー・ワデル、狼男シャンドンなど、数多くの人物が印象に残っていますが、この人物が一番インパクトあったのではな…

レモンケーキの独特なさびしさ(エイミー・ベンダー)

9歳の誕生日に母が焼いてくれたレモンケーキを食べたローズは、母の内面にあった虚無感を味わってしまいました。それ以来、何を食べても作り手の気持ちがわかってしまうようになったローズにとって、食事は苦痛になってしまいます。人々が普段は隠している…

あの家に暮らす四人の女(三浦しをん)

杉並区の古びた洋館に住む「四人の女」とは、60代の母親・牧田鶴代と30代の娘・佐知、それと縁あって共同生活を営むようになった30代の雪乃と20代の多恵美。登場人物の名前からして、谷崎純一郎『細雪』の蒔岡家四姉妹「鶴子、幸子、雪子 、妙子」を…

岳飛伝 17(北方謙三)

『水滸伝(全19巻)』と『楊令伝(全15巻)』に続く『岳飛伝(全17巻)』が、ついに完結しました。2000年から2016年にかけて綴られた、一大叙事詩「大水滸」はどのように締めくくられたのでしょうか。 史実は、本書で著された1260年代以降…

おくのほそ道(松尾芭蕉著・松浦寿輝訳)日本文学全集12

高校時代に古文の授業で抄文を読んだだけですが、結構覚えていました。当時は記憶力が良かったのか、芭蕉の句が持っているパワなのか、おそらく両方なのでしょう。隅田のほとりにあった芭蕉庵を引き払い、門人の河合曾良を伴って、下野、岩代、陸前、陸中、…

ユージニア(恩田陸)

いかにも恩田さんらしい作品です。金沢市の名家・青澤家を襲った大量毒殺事件の犯人は、犯行を告白した遺書を残して自殺した青年だったのでしょうか。事件から数十年たった後に発覚した「見落とされていた真実」とは何だったのでしょうか。 最も疑わしいと思…

屋根裏の仏さま(ジュリー・オオツカ)

明治から昭和初期の日本からアメリカに移住し、言葉の壁と差別に苦しみながら勤勉に働いて居場所を築いていった男たち。彼らの妻となるために、夫となる人の写真だけを頼りに海を渡った女たち。本書は「写真花嫁」と呼ばれた日本人女性移民たち、ひとりひと…

ジョイランド(スティーヴン・キング)

2016年7月に発売されたスティーヴン・キングの新作は、モダンホラーというよりもほろ苦い青春小説という雰囲気が色濃い作品です。 現在は年老いた主人公のデヴィンが、彼女に振られた傷心を抱えながら、海辺の遊園地「ジョイランド」でバイトをした19…

それを愛とは呼ばず(桜木紫乃)

新潟の事業家で年上の妻が交通事故で意識不明に陥り、義理の息子たちから会社を追い出された54歳の亮介。彼が新たに得た職は、バブル期に建てられて廃墟のようになっている北海道のリゾートマンションの販売。リゾートとは名ばかりで、劣悪条件で杜撰な建…

無花果の実のなるころに(西條奈加)

父の転勤に同行せず、神楽坂の祖母と暮らすことを決めた中学二年生の望。元芸者で女優歴もあり、不思議な人望を持つ祖母の「お蔦さん」と一緒に暮らす中で、望が少しずつ成長していく様子を描いた連作短編集です。最近では「時代小説作家」の印象が強い著者…

夜行(森見登美彦)

『夜は短し歩けよ乙女』以来、2度目の直木賞候補作ですが、惜しくも受賞はなりませんでした。ただ、『きつねのはなし』と似た静謐なホラーである本書が代表作かというと、少々違うようにも思えます。著者独特のコミカルな語り口こそ、他の誰にもまねのでき…

バベル九朔(万城目学)

作家志望の夢を抱きながら、亡き祖父が遺した雑居ビル「バベル九朔」の管理人を務めている主人公の前に現れたのは、全身黒ずくめの「カラス女」。彼女に追われるようにして飛び込んだ世界は、どことも知れない湖の中。ようやく岸に這い上がった主人公は、不…

フーコーの振り子(ウンベルト・エーコ)

1988年に刊行された著者の2作目の小説を再読したのは、絶筆となった『ヌメロ・ゼロ』を読み、「虚構が現実を襲う」展開に本書との類似性を感じ取ったためです。あらためて読むと、やはりおもしろい。晩年の作品のほうが、「虚構の上に成り立っている陰…

報復(ドン・ウィンズロウ)

元デルタフォース隊員で、現在は空港の保安監督官として働くデイビッドが、飛行機事故で最愛の妻子を失う場面から物語は始まります。真相追及に動いたデイビッドは、この事故がテロリストの攻撃であるという明白な証拠を掴んだものの、現政権はテロ対策が功…

アイミタガイ(中條てい)

何気ない日常を描いた5つの物語。すれ違っているだけのように見える人たちが、どこかで繋がっているというだけのことが、どうして感動を生み出すのでしょう。「善意のリンク」を実感することが少なくなっているせいかもしれません。映画「ペイ・フォワード…

GOSICKs 2 夏から遠ざかる列車(桜庭一樹)

1924年春、ヨーロッパの小国ソヴュールに極東から留学してきた久城一弥が、ゴスロリ天才少女のヴィクトリカと繰り広げる「ゴスロリ・ミステリ」の外伝第2弾。混沌に満ちた世界の中で、ヴィクトリカの出生の謎を解き明かしていく物語を「縦糸」とする本…

GOSICK 6 仮面舞踏会の夜(桜庭一樹)

1924年春、ヨーロッパの小国ソヴュールに極東から留学してきた久城一弥が、ゴスロリ天才少女のヴィクトリカと繰り広げるゴシック・ミステリの第6巻。前巻『GOSICK 5 ベルゼブブの頭蓋』で、リトアニアの修道院から辛くも脱出したヴィクトリカと…

バーにかかってきた電話(東直己)

シリーズ第2作である本書は、映画「探偵はBARにいる」の原作にもなっています。 「コンドウキョウコ」を名乗る女性からの電話の依頼で、ある弁護士に奇妙な伝言を届けた「俺」は、いきなり襲われて雪原に埋められてしまいます。辛くも脱出した「俺」は暴…

探偵はバーにいる(東直己)

大泉洋主演で2011年に公開された映画「探偵はBARにいる」の原作は、本書ではなく、シリーズ第2作の『バーにかかってきた電話』です。確かに物語的にはそちらのほうがドラマティックなのですが、シリーズ第1作である本書は、日本版ハードボイルドの…

アルファ・ラルファ大通り(コードウェイナー・スミス)

「人類補完機構」の保護のもとで、「古代戦争」によって絶滅しかけた人類が宇宙への進出を果たした時代のエピソードは、前巻『スキャナーに生きがいはない』に収録されています。続巻となる本書では、下級民とされたキメラたちが市民権を勝ち取る「人類の再…

落日の宴(吉村昭)

著者が「幕末に閃光のようにひときわ鋭い光彩を放って生きた人物」とまで評する川路聖謨の生涯を、端正な文章で丁寧に描いた作品です。 軽輩の出でありながら、まれにみる能力と人格によって要職を歴任し、勘定奉行・海防掛・外国奉行という幕僚としての最高…

波に舞ふ舞ふ 平清盛(瀬川貴次)

後に太政大臣へと上り詰めて平氏の天下を築いた平清盛の青春時代を、出生の秘密を知った苦しみと、彼を取り巻く女性たちとの関係から描いた作品です。 伊勢平氏の頭領・平忠盛の長男として生まれた清盛が、実は白河法皇の御落胤ではないかという説があること…

帝冠の恋(須賀しのぶ)

まだナポレオン戦争の記憶も新しい1824年。ハプスブルク家のフランツ・カール大公に嫁ぎ、やがてフランツ・ヨーゼフ1世の母親となるゾフィーを主人公とする、王宮政治と愛の物語。ゾフィーというと、後に息子の嫁になるエリザベート・シシィを苛めた意…

玉蘭(桐野夏生)

2001年の作品である本書では「現在の上海」の描写が既に古臭くなっているのですが、そこが問題になる作品ではありません。異国の地である上海を舞台に繰り広げられる、「現在」と「過去」の2組の男女の思いが交差する物語です。 「現在の物語」の主人公…