りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2017-03-01から1ヶ月間の記事一覧

2017/3 ナチ略奪美術品を救え(ロバート・M・エドゼル)

オーストリアの世界遺産ハルシュタット近くの岩塩杭で、ナチが略奪した美術品を爆破される直前に救出した場面は、映画「ミケランジェロ・プロジェクト」でもクライマックスになりました。映画の原作となったノンフィクション・ドキュメンタリーを今月の1位…

杯(カップ)緑の海へ(沢木耕太郎)

「2002年ワールドカップ」の取材で、日韓両国を何度も行き来しながら21試合を観戦した著者によるノンフィクションは、サッカーという競技が持つ魅力と意味を問いかけて来るようです。 ワールドカップ観戦がもたらしてくれるものは、自国応援の楽しみと…

ルパン(ジャン=ポール・サロメ)

ルパン生誕100周年を記念して制作された映画「ルパン」のノヴェライズです。『カリオストロ伯爵夫人』のエピソードを中心にして、ルパン誕生からシリーズ全体の後日譚のような『カリオストロの復讐』に至るまでを、大河物語のように描いていきます。 冒頭…

GOSICK 5 ベルゼブブの頭蓋(桜庭一樹)

長い出張に持って行った本の中の一冊だったのですが、これが大失敗。本書はこれだけでは完結していなかったのです。欲求不満にならないよう。続編も持っていくべきでした。 夏の終わり、いきなり学園から姿を消したヴィクトリカ。彼女は、父親であるブロワ公…

GOSICKs 春来たる死神(桜庭一樹)

『GOSICK』の前日譚となる「はじまりの物語」です。1924年春、ヨーロッパの小国ソヴュールに極東から留学してきた久城一弥が、ゴスロリ天才少女のヴィクトリカと出会います。 学園に伝わる不吉な伝説から「死神」呼ばわりされている一弥が、あろう…

日乃出が走る(中島久枝)

時は明治2年。世の混乱と主人の急死によって店を閉めることになった老舗菓子店・橘屋の一人娘・日之出が、悪徳豪商に立ち向かう物語。父の形見の掛け軸を取り戻すには、父が創った幻の菓子「薄紅」を売って、「百日で百両」稼がなければならないのですが、…

パーク・ライフ(吉田修一)

2002年上期の第127回芥川賞受賞作です。 ストーリーらしいストーリーは何もありません。都会で働くサラリーマンの青年が、地下鉄で偶然話しかけた女性と日比谷公園で再会し、微妙な距離感を保ちつつ会話を交わしていく物語。会社の先輩とか、離婚しそ…

天平の女帝 孝謙称徳(玉岡かおる)

聖武天皇と光明皇后の娘として生まれ、一度目は孝謙帝として、二度目は称徳帝として重祚した女帝とは、どのような人物だったのでしょう。女帝から深く信頼されていた2人の女官・和気広虫と吉備由利が、女帝の真意と突然の死の謎を解き明かしていきます。 天…

古代への情熱(シュリーマン)

19世紀末にトロイア、ミケーネ、ティリンス遺跡を立て続けて発見した、シュリーマンの自伝です。ペロポネソス半島のコリントとナフプリオンの間にあるミケーネとティリンスには行ったことがあるので、懐かしく感じながら読みました。 少年時代に読んだホメ…

ナチ略奪美術品を救え(ロバート・M・エドゼル)

第二次大戦の末期、ナチスが欧州各国から収奪した美術品を保護・奪還した特殊部隊「モニュメンツ・メン」の活躍を描いたドキュメンタリー作品です。映画「ミケランジェロ・プロジェクト」の原作になりました。 もともと美術館長、学芸員、彫刻家、美術学者な…

グレース・オブ・モナコ(ジェフリー・ロビンソン)

人気絶頂期にハリウッド・スターからモナコ公妃へと、シンデレラ・ストーリーを地で行く華麗な転身を遂げたグレース・ケリーは、今でも伝説的な存在です。 最近も本書から題材を得た映画「グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札」が公開されたばかり。映画の…

風を繍う(あさのあつこ)

町人文化が最盛期を迎えた文化文政期の江戸が舞台。「剣才ある町娘と刺繍職人を志す若侍」というと、読み間違いかと思ってしまいますが、そうではありません。深川の繍箔屋丸仙の一人娘おちえは、お裁縫は苦手なものの「榊道場の白龍」と渾名されるほどの剣…

与楽の飯(澤田瞳子)

東大寺大仏建立のために徴用された人々の姿を描いた小説というと、帚木蓬生さんの『国銅』が思い浮かびますが、テイストは異なります。そちらが「大河ドラマ」なら、連作短編集である本書は「土曜時代劇」という雰囲気です。 近江から徴用されて造仏所の仕丁…

ふる(西加奈子)

池井戸花しす、28歳。職業はAVへのモザイクがけ。誰にも嫌われず、癒し系の存在であることに全力を注いでいますが、それは優しさではないことには気づいています。ポケットにしのばせているICレコーダーで日常会話を隠し録ることを趣味にしていますが…

ラグランジュ・ミッション(ジェイムズ・L・キャンビアス)

舞台は2030年の近未来。月面で採掘されて地球へと打ち出されるヘリウム3輸送船を、月と地球の重力が均衡して宇宙船がゼロ・スピードになるラグランジュ・ポイント付近で奪い合う物語。 宇宙船と積み荷の持ち主は、アメリカと各国が共同事業体。それを奪…

夢みる葦笛(上田早夕里)

『華竜の宮』や『深紅の碑文』で、地球的な危機に際して深海での生活に適合する人類を創造してしまった著者が、さまざまな形で「人類の次に来るもの」を見越した作品を中心とする短編集です。SFというより奇想に近い作品も含まれています。 「夢みる葦笛」…

世界天才紀行(エリック・ワイナー)

「ソクラテスからスティーブ・ジョブズまで」とのサブタイトルがついています。天才を生み出すのは遺伝子でも努力でも偶然でもなく、天才の出現は「場所と時間に影響される」と考えた著者が、天才たちが生まれた町を訪れる思索紀行です。時代を遡るのは不可…

リーチ先生(原田マハ)

日本の美を愛し続けた英国人陶芸家のバーナード・リーチの半生を、彼の弟子となった無名の父子の視点から描いた作品です。 英国留学中の高村光太郎の知遇を得て、明治42年に22歳で来日。柳宗悦ら白樺派の青年達と交友し、富本憲吉とともに6代尾形乾山か…

信長の血脈(加藤廣)

著者のデビュー作かつライフワークである『本能寺3部作』の取材から派生したアイデアながら、本編には書き込めなかったテーマを集めた短編集。「信長の血脈」という書名ではあるものの、同名の作品はあいません。 第三編「山三郎の死」の隠れテーマではある…

料理通異聞(松井今朝子)

天明期の狂歌師・太田蜀山人に「詩は五山、役者は杜若、傾はかの、芸者はおかつ、料理八百善」と詠まれた江戸で一番の料理屋を築きあげた、4代目栗山善四郎の一代記です。祇園の料亭を実家に持つ著者が、江戸料理が成熟していった時代背景についてはダイナ…

マトリョーシカと消えた死体(ケイト・アトキンソン)

『探偵ブロディの事件ファイル』の続編ですが、前作を読んでいなくても大丈夫でしょう。バツイチ中年男性で、財産の遺贈を受けてフランスで悠々自適の生活をしているブロディは、前作で出会った「こじらせ女子」の女優ジュリアと恋愛中。ジュリアが出演する…

ブルース(桜木紫乃)

著者には珍しく、男性を主人公にした連作短編集です。昭和から平成初期の釧路を舞台にして、貧民窟で育った6本指の少年・影山博人が故郷の歓楽街の支配者となるまでが、彼と関係を結んだ8人の女性の視点から語られます。 中学時代に「下の町」で暮らす同級…

ハケンアニメ!(辻村深月)

ハケンとは「覇権」のこと。そのクールに放映されるアニメ番組の中で最もディスクが売れる「ハケンアニメ」の座を巡って、プロデューサー、監督、アニメーター、声優たちがしのぎを削って競い合う物語。アニメの採算は視聴率だけではなく、パッケージで決ま…

わかっていただけますかねえ(ジム・シェパード)

本書は、それぞれある人物になりきって1人称で書かれた短編小説集。シニカルなフレーズのようなタイトルと、人類初の女性宇宙飛行士テレシコワの笑顔の表紙を見ると、まるでジョーク集のようにも見えるのですが、かなりシリアスな作品が並びます。全米図書…

14歳のX計画(ジム・シェパード)

聞いたことがある名前と思ったら、村上春樹選のアンソロジー『恋しくて』に収録されている「恋と水素」の著者でした。「スクールシューティング」をテーマとした本書は、「コロンバイン高校銃乱射事件」の記憶もまだ新しい2004年に出版されています。 語…

セレス(南条竹則)

「仙人小説」なる不思議なジャンルの作品を書き綴っている著者が、20年近く前に書いた「サイバーパンク版の封神演義」です。 マンダリン社が開発した仮想現実空間は、長安などの古代都市を模した「セレス」と、特殊なソフトにより神仙の神通力を使える仙境…