りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2017-02-01から1ヶ月間の記事一覧

2017/2 プラネットアース(アラステア・フォザギル)

巨匠の遺作か、人気作家の新シリーズか、新鋭作家の直木賞候補作か悩みましたが、10年前に出版された写真集を1位に選ぶことにしました。この作品で突きつけられた課題は、今でも色褪せていないどころか、いっそう先鋭化しているのです。大きくて重くて高…

書楼弔堂 破曉(京極夏彦)

明治20年代半ば、出版という仕組みが生まれようとしている時代を舞台にして、「探書」に訪れる者に「一冊の本」を勧める不思議な書楼「弔堂」の物語。書楼の主人は、本とは読者を得て再生の時を待っている「移ろい行く過去を封じ込めた墓」だというのです…

僕僕先生 零-王の厨房(仁木英之)

ニート少年が少女姿の仙人と出会う『僕僕先生』は唐の玄宗皇帝時代の物語ですが、本書の舞台は神話時代。微力の仙人として生を受けた僕僕の成長冒険物語のシリーズ第2巻です。 老君が作り炎帝・黄帝・西王母の三神が育む天地の調和が乱れ始める中で、炎帝は…

クリフトン年代記5.剣より強し(ジェフリー・アーチャー)

シリーズ第4作と第5作の間に1年半も間が空いてしまったので、思い出すのに苦労しました。そういえば、主な登場人物がほとんど全員乗っている客船がIRAに爆破されそう・・というとんでもないところで終わっていたのです。もちろんそんな企てが成功する…

惑星童話(須賀しのぶ)

『また、桜の国で』で、2016年度下期の直木賞候補となった著者のデビュー作です。SF仕立ての純愛ものですが、まだ学生だった著者はSFについては全く詳しくなかったとのこと。ただ、本書でコバルト・ノベル大賞の読者大賞を受賞したことが、就職氷河…

陰陽師阿部雨堂(田牧大和)

『三人小町の恋』というタイトルで2011年10月に出版された作品が、文庫化に際して改題されたとのこと。「安倍晴明の傍流のそのまた傍流の末裔」と称する拝み屋家業の阿部雨堂と、養女で弟子である12歳の娘・おことが活躍する「お江戸呪いミステリー…

GOSICK 4 愚者を代弁せよ(桜庭一樹)

第一次大戦後のヨーロッパの架空の小国ソヴュールを舞台にして、ホームズ役のゴスロリ少女・ヴィクトリカと、ワトソン役の東洋からの留学生・久城一弥が活躍する「ゴシック・ミステリ」の第4作です。今回は、ヴィクトリカが過去の錬金術師リヴァイアサンと…

GOSICK 3 青い薔薇の下で(桜庭一樹)

第一次大戦後のヨーロッパの架空の小国ソヴュールを舞台にして、ホームズ役のゴスロリ少女・ヴィクトリカと、ワトソン役の東洋からの留学生・久城一弥が活躍する「ゴシック・ミステリ」の第3作です。今回は、風邪で寝込んでしまったヴィクトリカを置いて出…

天冥の標9.ヒトであるヒトとないヒトと Part 2(小川一水)

全10巻の大構想で書き始められた物語も、第9巻まで進みました。通常「ラス前」というものは、思いっきり物語を広げるものですが、この作品も例外ではありません。 わずか180万人の生き残りの人類を乗せた方舟のような惑星セレスは、宇宙空間を疾走して…

秋萩の散る(澤田瞳子)

著者が得意とする奈良時代を舞台とした短編集です。時代小説の大半は、戦国時代から江戸時代の物語であり、平安から室町期の物語ですら稀な中で、奈良時代を舞台とする小説の書き手は貴重な存在ですね。時代考証だけでも大変そうです。 「凱風の島」 唐と日…

漁港の肉子ちゃん(西加奈子)

不思議なタイトルですが、「通称・肉子」の本名は菊子。小さくて太っていて不細工で、港の焼肉屋で働いていることから「肉子」と呼ばれています。若い頃から男にだまされ続け、借金を背負わされ捨てられる人生を繰り返し、日本各地を転々とした末に北陸の小…

女友だちの賞味期限(ジェニー・オフィル編著)

友人同士の別れは、失恋とは異なってじわじわとやってくることが多いのかもしれません。そのせいか、激しい感情を伴わないケースも多いのですが、過去を振り返った時に感じる罪の意識は、恋愛の場合も友情の場合も同じように深いようです。 本書は、作家・批…

プラネットアース(アラステア・フォザギル)

2006年にNHKスペシャル枠で11週に渡って放映された、英国BBCとNHKの共同製作による自然ドキュメンタリーシリーズが「プラネットアース」。地球上のあらゆる場所で育まれる生命の神秘に感動し、映像の美しさに息を呑んだものです。2016年…

炎路を行く者(上橋菜穂子)

「守り人シリーズ」の外伝である本書には、タルシュ帝国の密偵として本編に登場したヨゴ人のアラユタン・ヒュウゴの少年時代を描いた「炎路の旅人」と、バルサの回想の物語「十五の我には」の2編が収録されています。 タルシュ帝国に敗れたヨゴ皇国では、反…

説教節(伊藤比呂美訳)日本文学全集10

「説経節」とは、唱導師による「語りもの芸能」のこと。後年には三味線の伴奏や、操り人形を用いる形式もあったといいますから、浄瑠璃の先駆けだったのでしょう。、『かるかや』、『山椒大夫』、『小栗判官』、『俊徳丸』、『法蔵比丘』を「五説経」という…

仮名手本忠臣蔵(松井今朝子訳)日本文学全集10

赤穂浪士の仇討ちを「太平記」の時代に移し替えた、浄瑠璃の名作です。「仮名手本」とは、赤穂47士をいろは47文字になぞらえた所から来ているとのこと。吉良上野介が高師直、浅野匠守が塩冶判官、大石内蔵助が大星由良助とされている点には気を付けない…

義経千本桜(いしいしんじ訳)日本文学全集10

2016年春に吉野山に花見に行きました。「義経千本桜」という演目は、女の入れない大峰へと踏み込んでいく義経一行と静御前の別れを描いた演目かと勝手に思い込んでいたのですが、とんでもない物語だったのですね。後白河法王から兄頼朝を討てとの謎をか…

菅原伝授手習鑑(三浦しをん訳)日本文学全集10

菅原道真をモデルとする菅丞相が、高潔な人格であるために悲劇的な運命をたどるものの、死後に名誉回復されて天神様として崇められるという物語。5段続の長い演目です。 第1段は、皇室をないがしろにする時平(モデルは藤原時平)と筆法伝授から外されたこ…

女殺し油地獄(桜庭一樹訳)日本文学全集10

近松門左衛門による人形浄瑠璃の代表作です。大阪天満の油屋の放蕩息子の与兵衛が借金に追われて、彼のことを弟のように気にかけてくれていた、同じ町内の油屋の若女房・お吉を斬殺して、店の掛け金を奪う物語。懲らしめのために与兵衛を勘当していた両親は…

曾根崎心中(いとうせいこう訳)日本文学全集10

近松門左衛門の人形浄瑠璃の代表作です。伯父の娘との結婚を断ったため、継母が受け取って返さない結納金の返金を求められた徳兵衛は、友人と信じていた九平次に騙されて、絶望的な状況に陥ってしまいます。徳兵衛の苦境を知った恋人のお初は、とともに死ぬ…

能・狂言(岡田利規訳)日本文学全集10

室町期・江戸初期の文学は、語られ演じられた作品が中心になってきます。それはまるで、ほぼ同時代のシェークスピア文学が戯曲であることと、相似関係にあるようです。 第10巻の冒頭には、能から「松風」、「卒塔婆小町」、「邯鄲」の3編、狂言から「金津…

ヨイ豊(梶よう子)

黒船来航から12年、明治への改元まであと3年と迫った時期に、三代目・歌川豊国の葬儀が営まれる場面から物語が始まります。広重、国芳と並んで「歌川の三羽烏」と呼ばれた最後の一人が亡くなった後、版元・絵師・役者たちから名跡を継ぐよう迫られた、二…

ヌメロ・ゼロ(ウンベルト・エーコ)

2016年2月に84歳で亡くなられた著者の7作目にして最後の小説は、前作の『プラハの墓地』と同様に、情報操作をテーマとするものでした。 「握りつぶされた真実の告発」を目的とした新聞の創刊を目指して集められた記者たちが、パイロット版として「ヌ…