りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2016-09-01から1ヶ月間の記事一覧

2016/9 事変(池宮彰一郎)

今月は休暇と出張が続いたため、手軽に持ち運べる文庫本が大半でした。そのせいか、軽めの本が多かった印象です。その中でも、旧作ですが昭和初期の史実を題材にして、途中まではほとんどノンフィクションかとさえ思わせた、池宮彰一郎さんの『事変』の巧み…

事変(池宮彰一郎)

国際連盟によって満州事変や満州国の調査を命じられたリットン調査団の報告書は、当時の日本が受け入れることができる内容ではなく、後に国際連盟を脱退する直接の原因になりました。 時の元老・西園寺公望と、元満鉄副総裁で後に外相として国連脱退演説をす…

ラム・パンチ(エルモア・レナード)

お洒落な犯罪小説です。 ひとりめの主人公は三流飛行機会社のスチュワーデスとして働くジャッキー。40歳を超えてもスタイルを保っている美女なのですが、この仕事も先が見えてきています。小遣い稼ぎに違法な金の運び屋をしたところ逮捕されてしまい、罪を…

蜩ノ記(葉室麟)

2011年度下期の第146回直木賞受賞作です。2014年に、岡田准一、役所浩二、堀北真紀らのキャストで映画化もされました。 豊後羽根藩の青年藩士・檀野庄三郎は、不始末を犯して罪を問われるべきところ、向山村に幽閉中の元郡奉行・戸田秋谷のもとに…

燃える果樹園(シーナ・マッケイ)

8歳の少女エイプリルが引っ越した先は、ロンドン郊外のストーンブリッジという田舎町。少女の両親は、そこでティールームを営むことにしたのです。お店の経営はうまくいかず、その町に長く住むことはなかったのですが、そこで少女は生涯忘れられない親友と…

まともな家の子供はいない(津村記久子)

中学生のセキコの家は崩壊寸前。祖父から引き継いだ設計事務所を潰してしまい、転職を繰り返しながら現在は無職の父親は、セキコの部屋でゲーム浸りの毎日。そんな夫のグウタラぶりを許容し、「家計のことは子供が心配しなくてもいい」と言いながらも、何の…

セリーナ(ロン・ラッシュ)

大恐慌後のアメリカ。最貧地域であったノースカロライナ山奥の森林地帯を舞台に繰り広げられる、稀代の悪女の物語。解説者は主人公を「マクベス夫人」に例えているほど。 製材会社の若き経営者であるペンバートンの新妻として、この地にやってきたセリーナの…

吉野太平記(武内涼)

室町時代、吉野に籠る後南朝の残党と、京都の天皇・公家勢力と、室町幕府とが三つ巴の闘いを繰り広げる、痛快な忍者小説です。 南朝正統の血を引く自天皇を奉じ、地方の反幕府勢力を率いて天下大乱を企てるのは、楠木正成の末裔であり超絶の忍者である楠木不…

ジャイロスコープ(伊坂幸太郎)

ジャイロスコープとは、三つの輪で支えられて自由に向きを変えられるコマのこと。軸はぶれないながらも、意外な動きをすることから、本書のタイトルに使われたのでしょう。7つの短編が収録された短編小説集です。 「浜田青年ホントスカ」 家出をした浜田青…

ハンガーゲーム3 マネシカケスの少女(スーザン・コリンズ)

シリーズ最終巻になります。2度目のハンガーゲームで絶体絶命のピンチに陥ったカットニスは、間一髪のところで、全滅したと思われていた第13地区が率いる反乱軍に救われました。今まで首都キャピトルに支配されていた各地区も次々と反乱に加わる中、勝利…

ハンガーゲーム2 燃え広がる炎(スーザン・コリンズ)

前作『ハンガーゲーム』の続編です。首都キャピトルの支配下にある12の地区から選ばれた少年少女たちを、最後の1人になるまで殺し合いを演じさせるゲームで、生き残った少女カットニスに、再び試練が訪れます。 そもそも彼女は、幼馴染のピーターとともに…

小説サブプライム(落合信彦)

ウォール街に事務所を構える日本人投資家を主人公にして、サブプライムローン問題をテーマとした小説です。とはいえ、サブプライム問題を徹底的に解説したノンフィクションである『世紀の空売り』とは異なり、こちらの方は日本人の主人公を思う存分活躍させ…

グーグル秘録(ケン・オーレッタ)

ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンという2人の天才が共同で創業したグーグル社は、画期的な検索エンジンを擁して、瞬く間に世界的な巨大企業へと成長を遂げました。ほぼ全てのグーグル幹部に対する150回もの取材を通して描かれた本書は、創業期から20…

ウィメンズマラソン(坂井希久子)

最近はあまり冴えませんが、オリンピックで2大会連続金メダルを獲得した女子マラソンは、陸上の花形競技です。そんな女子マラソンをテーマにした本書のテーマは、挫折からの再起。 大学時代には平凡な選手でしかなかった岸峰子は、彼女のマラソンへの適性を…

天皇の料理番(杉森久英)

明治21年に福井県の料理屋の次男として生まれ、大正期から昭和初期にかけて宮内省主厨長、すなわち「天皇の料理番」を勤めた秋山徳蔵氏の経歴をもとにした小説です。実在の人物であり、実際の経歴からは逸脱していないものの、細部はフィクションであると…

ビブリア古書堂の事件手帖 6(三上延)

シリーズ第6巻では、『第1作』で、古書店主の栞子に危害を加えた田中青年が再登場。かつて、いわくつきの稀覯本である太宰治の『晩年』の入手に異常な執念を見せた田中は、今度は太宰自身の書き込みがあるという別の『晩年』を探して欲しいという依頼をす…

セブン・イヤーズ・イン・チベット(ハインリヒ・ハラー)

インドで戦争捕虜となったものの、収容所を脱走してチベットの禁断の都ラサにたどり着き、若きダライ・ラマの個人教師を勤めるという数奇の体験をしたオーストリアの登山家ハラーの自伝的作品です。1997年にブラッド・ピット主演で映画化されました。 映…

マルドゥック・アノニマス 1(冲方丁)

未来都市マルドゥック・シティで、軍事技術を用いて改造された異形の者たちの闘いを描いた『マルドゥック・スクランブル』の待望の続編です。 冒頭いきなり、万能兵器として開発された人語を解するネズミ・ウフコックが、ガス室での死を前にして語り出します…

ボリバル侯爵(レオ・ペルッツ)

著者は、19世紀末にプラハで生まれて18歳でオーストリアに移住、ナチス・ドイツによるオーストリア併合後はパレスティナへの亡命を余儀なくされたユダヤ系作家です。20世紀初頭の幻想歴史作家として知られていますが、今読んでも面白い作品が多いのは…

小松とうさちゃん(絲山秋子)

主人公の小松は未婚の52歳のおじさんで、身分も不安定で安月給にあえぐ大学非常勤講師。職場では不遇なものの、危機感もハングリー精神もなく、ただただ慎ましく暮らしています。そんな小松が、新幹線で「運命の出会い」をした同い年の女性に恋をしてしま…

夜、僕らは輪になって歩く(ダニエル・アラルコン)

内戦と行方不明者の情報と記憶を葬り去ろうとする南米の架空の国で、消極的な抵抗を行った報道者たちの姿を描いた『ロスト・シティ・レディオ』の著者の新作です。 内戦時に「間抜けの大統領」という作品を上演して逮捕された過去を持つ劇作家が、内戦終結後…

講談 碑夜十郎(半村良)

NHKの時代劇ドラマやコミックにもなった「半村SF奇伝」です。 時は天保、ところはお江戸。闇にそびえる巨大な石碑の傍らに素っ裸で倒れていた、別の世界から来たらしき男・・というと「ターミネーター」をイメージしてしまいます。しかしその男は、記憶…

軋む心(ドナル・ライアン)

アイルランドで雇用問題を専門にしていた弁護士が、三年間休職して書き上げた作品です。個人で出版社に持ち込んで47回も断られた末にようやく出版された本書は、2012年のアイルランド最優秀図書に選出されました。 2008年のリーマン・ショックで経…

蒲公英(ダンデライオン)王朝記 巻ノ一 諸王の誉れ(ケン・リュウ)

中国系アメリカ人である著者のSF作品が、欧米のSF作家とは一線を画したアジア的感性に溢れていることは、日本デビューを果たした短編集『紙の動物園』で証明されています。本書は、『項羽と劉邦』を下敷きにした壮大なSF作品ですが、「中国色」を濃く…

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない(桜場一樹)

『世界が終わる前に』で本書が紹介されていて、未読であったことに気づきました。まだ桜庭さんが「少女小説」を書いていた、初期の作品です。 鳥取県の境港市で生まれ育った13歳の山田なぎさは、閉塞感と焦燥感を抱いて、町を出ていくための「実弾が欲しい…

陽気なお葬式(リュドミラ・ウリツカヤ)

1991年の夏、猛暑のニューヨークでひとりの亡命ロシア人が亡くなろうとしています。その男アーリクは売れない画家なのですが、亡命者という言葉から想像するような哀愁とは程遠い存在でした。明るく愛される人柄のせいで「故郷ごと、人生ごと移動し続け…