りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2016-08-01から1ヶ月間の記事一覧

2016/8 離陸(絲山秋子)

今月の読書リストを見返すと、「絲山秋子、桜木紫乃、西加奈子、三浦しをん、朝井まかて、原田マハ、梶よう子、青山七恵、島本理生、桂望実」と、現代の女性作家の名前が目につきます。偶然なのですがせっかくなので、今月の1位はその中から選ばせていただ…

手の中の天秤(桂望実)

本書の舞台は未来です。執行猶予つきの判決を得た加害者に対して、執行猶予を取り消す権利を被害者や遺族に与えるという架空の制度が始まってから38年後という設定。30年前にその制度の担当係官であった井川が、大学の講師として教壇に立ち、当時の体験…

岳飛伝 15(北方謙三)

南方で勢力を蓄えた岳家軍は南宋の首都・臨安を脅かしたものの、程雲が仕掛けた罠に見事に嵌ってしまいました。全軍が人夫に身を窶して埋伏させていた南宋軍によって、死地に追い込まれてしまったのです。しかし、何度敗れても死なないのが岳飛。深手を負い…

ミニチュアの妻(マヌエル・ゴンザレス)

『エイミー・ベンダー』や『ミランダ・ジュライ』や『』の系譜に連なるような奇妙な小説が並ぶ短編集です。全18編もあるので全部は無理ですが、特に印象に強く残った作品を紹介しておきます。 「操縦士、副操縦士、作家」 ハイジャックされた飛行機に乗り…

診療室にきた赤ずきん(大平健)

ある方がブログで紹介されていたので、読んでみました。精神科医である著者が、患者に心の内を解放させるために童話やお伽噺を語り聞かせるエピソードが紹介されています。 親の過保護によって自立心を抑制されてしまった「眠り姫」。休息の時間を必要とした…

ポーランドのボクサー(エドゥアルド・ハルフォン)

ユダヤ系のルーツを持つ著者は、グアテマラで生まれ育ち、アメリカの大学で学んだ後に、故郷に戻って執筆活動を続けています。本書は、彼の3つの短編集『ポーランドのボクサー』、『ビルエット』、『修道院』のミックスになっていますが、決して不自然では…

世界が終わる前に- BISビブリオバトル部(山本弘)

『翼を持つ少女』と『幽霊なんて怖くない』に続く、「ビブリオバトル・シリーズ」の第3弾です。本書ではついに、ミステリ・ファンの方々が待ち望んでいた、ライバル校のミステリ研会長・早乙女寿美歌が大活躍。いったい彼女はどのような「世界がひっくりか…

あかりの湖畔(青山七恵)

物語の舞台となっている湖は、榛名湖のようです。一度だけ行ったことがありますが、夏でも涼しく、ロープウェイ駅付近を除いては観光客も多くなかったように記憶しています。 本書の主人公は、遊歩道の奥にある「お休み処・風弓亭」を営む26歳の長女・灯子…

離陸(絲山秋子)

「絲山秋子さんに女スパイものを書いてほしい」という村上春樹さんからのリクエストに応えるように書かれた作品とのことですが、『羊をめぐる冒険』や『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』が「本格スパイ小説」ではないように、本書もまた、スパ…

須賀敦子が歩いた道(須賀敦子ほか)

須賀敦子さんの没後10年を過ぎた2009年に出版された作品です。須賀さんの作品やエッセーに登場した道を写真付きで紹介した第1章と、須賀さんと関係の深かった作家の松山巖氏や、翻訳家のジェレヴィーニ・アレッサンドロ氏が彼女の思い出を綴る第2章…

時のかけらたち(須賀敦子)

1998年に出版された須賀敦子さんの最後のエッセイです。彼女の作品は、小説にしてもエッセイにしてもテーマが明確でしっかりした構成を持っているのですが、晩年におそらく病の中で書かれた本書は少々まとまりに欠けるように思えます。それでも、ひとつ…

花競べ(朝井まかて)

後に『恋歌』で直木賞を受賞する朝井さんのデビュー作です。 老中引退後の松平定信が登場するから、寛政の改革以降、江戸文化が花開きつつある時期ですね。江戸向島で種苗屋「なずな屋」を営む若夫婦、新次とおりんが主人公。互いに支え合い、工夫を重ねなが…

ジヴェルニーの食卓(原田マハ)

『楽園のカンヴァス』でアンリ・ルソーへの情熱を「幻の絵画をめぐるミステリ」として書き上げた著者が、マティス、ドガ、セザンヌ、モネという巨匠たちの人生の断章を、女性の視点から綴った短編として描き出しました。 「うつくしい墓」 マティスの晩年に…

楽園のカンヴァス(原田マハ)

大原美術館の監視員でシングルマザーの早川織絵のもとに、不思議な依頼が舞い込みます。MOMAの門外不出の傑作であるルソーの「夢」を借り出そうとする新聞社に対して、交渉窓口として彼女が指名されたというのです。 かつて新進気鋭のルソー研究家だった…

ふくわらい(西加奈子)

不思議なタイトルと不思議な表紙を持つ作品ですが、タイトルの意味は冒頭で、表紙の絵が持つ意味はラストで明かされることになります。 整った顔をパーツに解体してもよいと知った時の衝撃は、それは「おしょうがつ」という言葉が、6つの文字の組み合わせで…

舞台(西加奈子)

29歳の葉太が病的に自意識過剰な性格になったのは、いつも他人の視点を意識して振る舞っていた作家の亡父への反発のせいなのでしょうか。それが嵩じて幽霊まで見えるようになるのですが、「いつも見られている」という状態は、どんどん彼を追い詰めていき…

当確師(真山仁)

アメリカの大統領選、イギリスの国民投票、日本の参院選・都知事選と、今年は世界的に選挙の当たり年のようです。ただ、私たちは選挙で何を選んでいるのでしょう。選挙版『ハゲタカ』と言われる本書は、その問題を問い返しているようです。「デモでは何も変…

木暮荘物語(三浦しをん)

小田急線・世田谷代田駅から徒歩5分、築ウン十年、2階建て全6室のおんぼろアパート木暮荘を舞台にして繰り広げられる人間悲喜劇。というと、よくある現代人情モノと思われるでしょうし、事実そうなのですが、三浦さんの作品なのでヒネリが利いています。…

立身いたしたく候(梶よう子)

ある資料によると、2万3千人いた旗本・御家人のうち、10%以上が無役の寄合・小普請だったとのこと。幕末期、瀬戸物屋の五男坊に生まれた駿平は、貧乏御家人の野依家に婿養子入りしたものの、許嫁となる10歳の義妹もよから「兄様・・」と呼ばれて萌え…

霧(ウラル)桜木紫乃

北の町での女の生きざまを描き続けている著者が、またひとり、ニューヒロインを誕生させました。 昭和35年。根室の有力企業であった河之辺水産の三姉妹は、それぞれ異なる道を歩もうとしていました。いつも百点満点を目指していた長女・智鶴は、やはり地元…

アイネクライネナハトムジーク(伊坂幸太郎)

19年という長い年月の間に育まれた、複雑な人物相関送を楽しむ作品のようですが、まずは6編の連作短編の内容を紹介しておきましょう。 「アイネクライネ」 妻子に逃げられた先輩のミスのとばっちりで、街頭アンケートをさせられているマーケットリサーチ…

春色梅児誉美(島本理生訳)日本文学全集11

『ナラタージュ』でダメ男との恋愛を受け入れて昇華させてしまった著者が、為永春水作の「江戸期のダメ男を美女たちが奪い合う人情本」を女性目線で書き換えてくれました。 遊女屋「唐琴屋」の養子で美青年の夏目丹次郎は、養父母の死後、悪番頭の悪巧みで罪…

通言総籬(いとうせいこう訳)日本文学全集11

洒落本全盛期の天明年間に刊行された、山東京伝作『通言総籬(つうげんそうまがき)』の新訳に挑んだのは、サブカルにも精通している、いとうせいこうさんでした。これまた、適材適所の人選です。 「通言」とは流行語のことであり、「総籬」とは吉原の高級遊…

雨月物語(円城塔訳)日本文学全集11

上田秋声が江戸時代後期に綴った「雨は晴れ、月が朧に照らす夜に綴った物語」の訳者として、円城塔ほどふさわしい人はいないのではないでしょうか。この作品があるので、この巻を読んだようなもの。日本的な感性と中国的な倫理観を融合させて不思議な世界を…

好色一代男(島田雅彦訳)日本文学全集11

池澤夏樹編「日本文学全集11巻」は、江戸文学です。冒頭を飾るのは、島田雅彦さんの新訳による江戸中期の浮世草子で、井原西鶴著『好色一代男』。 モテ男の代名詞となっている「世之介」の性的放浪記は、全54章。これは「源氏物語54帖」にちなんでいま…

荒神絵巻(原作:宮部みゆき、絵と文:こうの史代)

宮部みゆきさんの『荒神』が新聞連載されていたときの挿絵を描いたこうの史代さんが、「昭和の絵物語」のように書き下ろした「絵巻」です。全403点+αの挿絵が、全部オールカラーで収録されているという贅沢さ。 語り口は変わったものの、もちろんストー…