りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2016-07-01から1ヶ月間の記事一覧

2016/7 僕の違和感(オルハン・パムク)

再々読の『ホテル・ニューハンプシャー』は別格です。町田康訳の『宇治拾遺物語』も、『妖星伝 全7巻』も迫力ありましたが、今月の1位はオーソドックスに、ノーベル賞作家オルハン・パムクの新刊にしました。テロと難民問題に揺れる現在のトルコに対して、…

文学会議(セサル・アイラ

「アルゼンチンの奇才」による2編の中編は、評価を拒む種類の作品ですね。とにかく、ぶっ飛んでいるのです。 まずは表題作。主人公の「セサル・アイラ」が、小説家でありながら、世界征服をたくらむマッド・サイエンティストであるという設定がすごい。しか…

モダン(原田マハ)

マンハッタンの53番街にあるニューヨーク近代美術館(MoMA)は、出張の際に時間があれば必ず訪れている美術館です。そのコレクションだけでなく、建物も活動理念も素晴らしいのです。本書は、MoMAに勤務経験があり、絵画を題材にした小説で3度目の…

紙の動物園(ケン・リュウ)

中国系アメリカ人作家によるSF短編集です。「アジア的な情感」をたたえた作品群は、西洋的なSFとは一線を画しているようです。 「紙の動物園」 中国系移民の母と、異文化の中で育った息子の間では、やはり心の断絶は起こるのでしょう。たとえ母親が息子…

夜が来ると(フィオナ・マクファーレン)

シドニー郊外の海辺で余生を過ごしていた老女ルースは、獰猛なトラが家の中を徘徊する気配を感じて目を覚まします。それは何かの予感なのでしょうか。ニュージーランドで暮らす息子に電話をしても、もちろんまともには取り合ってもらえません。 しかし、自治…

御松茸騒動(朝井まかて)

尾張藩江戸屋敷に勤務する新進気鋭の若手藩士・小四郎が、上司に煙たがられて国許の御松茸同心に左遷。「3年で戻す」との口約束で向かった役目は、毎年幕府に献上する特産品の松茸の本数を揃えること。しかし、年ごとに産出が減っている松茸の収穫を元に戻…

キャロリング(有川浩)

クリスマス倒産が決まった「子供服メーカー 兼 学童保育所」に勤めている俊介と柊子。一時は恋人同士だった2人が別れたのは、俊介の育った過酷な家庭環境にありました。俊介はそれを説明できず、家族愛に包まれて育った柊子はそれを理解できなかったのです…

冬の光(篠田節子)

家族を裏切って20年以上も関係を続けた愛人の死後、四国遍路に出たまま冬の海に消えた父親。企業人としても成功し、家庭にも恵まれていたはずの男は、なぜそのような最期を迎えたのでしょう。次女の碧は、彼の四国での足跡をたどります。彼女は父親を理解…

ホテル・ニューハンプシャー(ジョン・アーヴィング)

西加奈子さんの『サラバ!』で言及されていたので再読してみました。私にとってもこの本は、物語を読むことの楽しさを再認識させてもらった、思い入れの深い作品なのです。 物語は、40代に差し掛かったジョン・ベリーが、人生というお伽噺の中で、愛し、傷…

神の水(パオロ・バチガルピ)

『ねじまき少女』で化石燃料の枯渇した世界を描いた著者による、水資源が枯渇したアメリカ南西部の物語。本書で描かれているのは、短編集『第六ポンプ』に収録されている「タマリスクハンター」と同じ世界のようです。 もともとアメリカ南西部は、先住民族が…

連鶴(梶よう子)

2016年上期の直木賞候補になった作家ですが、今までノーマークでしたので、とりあえず最近の作品を読んでみることにしました。 本書の主人公は、幕末の動乱の中で苦悩する桑名藩士の速見丈太郎。江戸詰めの身で京の情勢はわからないながら、京都所司代を…

発心集(伊藤比呂美訳)日本文学全集8

説話集の最後を飾る、鴨長明作の『発心集』は、本書に収録されている他の物語と比較して、正直言って地味な物語。訳者の伊藤さんも「話の後のコメントが長くておもしろくない」とコメントしているほど。しかしこの作品は純粋な「仏教説話」であり、著者の「…

宇治拾遺物語(町田康訳)日本文学全集8

町田さんの「超訳」は、本書の中の白眉ですね。よくぞこの人選を思い立ったものです。 「ご婦人方の間でスター」とか、「インディーズ系の僧侶」とか、「前世よりキャリーオーバーした宿業」とか、「あり得ないルックスの鬼」とか、「聖の狂熱のライブ」とい…

今昔物語(福永武彦訳)日本文学全集8

平安時代末期に成立したと言われる「今昔物語」には、仏教的・教訓的な説話のみならず、とにかく不思議で楽しい話が多く含まれています。 まずは変身譚を紹介しましょう。「女の執念が凝って蛇になる話」は安珍・清姫の「道成寺」の原型ですね。逆に「恋の虜…

日本霊異記(伊藤比呂美訳)日本文学全集8

日本文学全集の第8巻は「説話集」です。奈良薬師寺の僧、景戒による『日本霊異記』は822年成立と言われますから、これは古いですね。これ以前の「日本文学」は、『記紀』や『万葉集』くらいしかないのですから。 「説話」ですので、勧善懲悪を説いて仏法…

古寺巡礼(和辻哲郎)

戦前の日本において、日本思想と西洋哲学の融合を試み「和辻倫理学」とでもいうべき境地にたどり着いた哲学者が、学生時代に奈良の古寺を巡り歩いた際の印象記です。著者自身が後に「若書き」と述べたように、主観に満ちた「感想」が大半なのですが、今読ん…

永遠の始まり 4(ケン・フォレット)

20世紀をテーマにした「100年3部作」がついに完結を迎えます。『第1部』の登場人物たちから見て孫の世代にあたる主人公たちは、冷戦が終結に向かう中で、どのような役割を果たしていくのでしょうか。 アメリカでは、ケネディ兄弟やキング牧師が暗殺さ…

永遠の始まり 3(ケン・フォレット)

20世紀をテーマにした「100年3部作」の第3部・第3巻では、ケネディ暗殺後の冷戦時代が描かれます。 ケネディ亡き後のアメリカは、後を継いだジョンソン大統領のもとで公民権法が制定されたものの、ベトナム戦争にのめり込んでいく中で国内対立も激化…

獅子吼(浅田次郎)

太平洋戦争、高度経済成長期、大学紛争期と、すでに「過去」となった「昭和」をテーマにした短編が収録されています。いずれも、時代の波に飲まれながらも、運命を受け入れる者たちを主役に据えた物語です。 「獅子吼」 格調高い孤高のつぶやきの主は、動物…

僕の違和感(オルハン・パムク)

イスタンブルでトルコの伝統的飲料ボザを売り歩いた行商人メヴルトを中心に据えて、半世紀に渡る都市の変貌を描いた作品です。雑穀から造られる発酵飲料のボザは、アルコール度数が1%と低く、都合によって酒扱いされたりされなかったりするそうです。伝統…

妖星伝 7 魔道の巻(半村良)

シリーズ『第6巻 人道の巻』から13年後に刊行された、シリーズを締めくくる第7巻については、評価が分かれるところでしょう。すでに『第5巻 天道の巻』までで鬼道衆と外道皇帝の物語は終結しており、宇宙的意義を失ったあとの人間の生き方をお幾と栗山…

妖星伝 6 人道の巻(半村良)

外道皇帝が、肉から脱して霊的存在となった鬼道衆とともに、地球から去ろうとしています。地球を「生命が生命を喰らい合う妖星」に作り変えてまで果たそうとした使命は、ここで完結。それ以上は「知るあたわず」としてもよかったのでしょうが、続きは10数…

妖星伝 5 天道の巻(半村良)

いつの世も悪逆と淫欲の限りをつくしてきた「鬼道衆」についての物語は、本巻で一応の決着がつくことになります。外道皇帝の正体も、伝説の黄金城の所在も明らかになって、伝説の「地獄祭」を執り行うことをきめた鬼道衆は、外道皇帝の天敵として生み出され…

昭和の犬(姫野カオルコ)

まるで「犬」について語ったようなタイトルですが、主人公は昭和33年に生まれた女性の柏木イク。中年女性となったイクが自らの半生を「遠近法的に」振り返り、いつも傍らには犬がいたことを思い起こす物語。著者は5回目のノミネートで、2014年に本書…

ぼくはお金を使わずに生きることにした(マーク・ボイル)

イギリスで1年間お金を使わずに生活する実験をした、29歳の若者の記録です。 もちろん現代社会でお金を100%否定することは不可能なので、トレーラーハウス、太陽光発電設備、自転車、パソコン、衣服などの備品は事前に購入。遠い距離の移動はヒッチハ…

となりのセレブたち(篠田節子)

篠田さんの短編小説集ですが、結構以前に書かれた作品も含まれているようです。「となりのセレブたち」というタイトルも、かなり無理して纏めた感じがします。強いて5編の共通項を括ると、「何でもお金で解決しようとする人=セレブ」ということにでもなる…