りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2016-06-01から1ヶ月間の記事一覧

2016/6 サラバ!(西加奈子)

西加奈子さんの直木賞受賞作は、ストーリー・テラーとしての力量を見せてくれただけでなく、アーヴィングやコンロイを彷彿とさせるほどの迫力に満ちた作品でした。文句なしに、今月の1位です。 池澤夏樹編「日本文学全集 第3巻」は、『源氏物語』前後に成…

妖星伝 4 黄道の巻(半村良)

外道皇帝が、地球を「生命が生命を喰らい合う地獄の星」としてまで発信したかった情報とは、「意志を持った時間」についての警告だったことは、前巻『神道の巻』のラストで予告されています。しかし、それについての説明はいったんお休み。また外道皇帝らポ…

琥珀のまたたき(小川洋子)

「芸術の館」という一種の福祉施設にいる老人男性には、6年8カ月もの間、母親によって監禁されていた過去がありました。今でも、少年時代に母親から言いつけられた呪縛に縛られている老人は、生涯を棒に振ったようなものですが、彼には豊饒な内面生活があ…

更科日記(江國香織訳)日本文学全集3

池澤夏樹氏の個人編集による「日本文学全集」第3巻は、『源氏物語』前後の小説にあてられているのですが、これが一番新鮮でした。とにかく、江國香織さんの新訳が素晴らしいのです。 「日記」というタイトルがついているものの、これは「女性の半生記」です…

土佐日記(堀江敏幸訳)日本文学全集3

「男もすなる日記といふものを、女もしてみむとしてするなり」とはじまる「仮名文字の日記」が、紀貫之の手によることは、はじめから明かされています。つまり「ネタ」として「ネカマ」を演じていることを「ネタバレ」されている状態なのです。 この新訳を担…

堤中納言物語(中島京子訳)日本文学全集3

池澤夏樹氏の個人編集による「日本文学全集」第3巻の3作めは、『源氏物語』の47年後に書かれたと伝えられる『堤中納言物語』です。パロディ精神とユーモアに富む10編(+1断章)の新訳に、『FUTON』の著者をあてるとは、心憎い人選です。馴染み…

伊勢物語(川上弘美訳)日本文学全集3

池澤夏樹氏の個人編集による「日本文学全集」第3巻の2作めは、在原業平らしき男の一代記と言われる『伊勢物語』です。男女の恋愛を中心に据えながら、親子、主従、友人、社交など多岐にわたる「断章」から「人生」を紡ぎあげるという物語の新訳に、川上弘…

竹取物語(森見登美彦訳)日本文学全集3

池澤夏樹氏の個人編集による「日本文学全集」第3巻の冒頭を飾ったのは、日本最古の物語でした。森見登美彦氏は新訳に際して、「美女と竹林、阿呆な男たちの恋と迷走、この世ならざる世界への怖れと憧れ。これまで自分が書いてきたもの、これから書くであろ…

ゼロ以下の死(C.J.ボックス)

大自然と家族を愛して不正を憎む、心優しい猟区管理官のジョー・ピケットを主人公とする「自然保護ミステリ」の第8作です。 ジョーは、前作『復讐のトレイル』でハンター殺害事件を解決したものの、法を逸脱した行為を犯したため、辺境のバッグズ地区に単身…

ハンニバル戦争(佐藤賢一)

ローマが滅亡を覚悟したという「第2次ポエニ戦争」、すなわち「ハンニバルのアルプス越え」から「ザマの会戦」に至る18年間の物語。語り手は、一貫してローマの若き貴族スキピオです。 「第1次ポエニ戦争」後にシチリアを領有したローマと、イベリア半島…

ライラの冒険 3.琥珀の望遠鏡(フィリップ・プルマン)

第2巻『神秘の短剣』のラストでコールター夫人に連れ去れてしまったライラは、薬によって眠り続けています。なぜコールター夫人は、ライラの殺害という使命を直ちに実行しないのでしょうか。一方、「神秘の短剣」の使い手であるウィルは、創造主を名乗るオ…

ライラの冒険 2.神秘の短剣(フィリップ・プルマン)

前巻『黄金の羅針盤』のラストで「オーロラの世界」に渡ったライラは、私たちと同じ世界からやってきた少年ウィルと出会います。行方不明になった父親を探しているウィルは、ライラの協力によって神秘の短剣を手に入れます。それは、並行世界と往来できる窓…

ライラの冒険 1.黄金の羅針盤(フィリップ・プルマン)

3部作の第1巻です。ダニエル・クレイグやニコル・キッドマンなど錚々たるキャストを揃え、潤沢な予算をかけて2008年に映画化されたものの、続編は制作されませんでした。どうやら、本書の無神論的思想に対して北米でボイコット運動が起きたことが理由…

十一面観音巡礼(白洲正子)

今年のGWに湖北・木之本町近辺の「観音の里」を訪れたこともあり、本書を読んでみました。『かくれ里』の著者が、大和、近江、京都、若狭、美濃、信州の山里に、仏像の中でも大衆の信仰心を最も篤く受けてきた十一面観音を訪ね歩いたとき、何が見えたので…

そして、星の輝く夜がくる(真山仁)

2014年3月11日という出版日には、もちろん意味があります。東日本大震災の被災地にある小学校を舞台にして、深く傷つきながらもそこから立ち上がろうとする子供たちの姿をリアルに描いた、連作短編集です。定期的に被災地を訪れている著者の、「大人…

ジャパン・ディグニティ( 高森美由紀)

暮らしの基本を構成する「衣食住」をテーマにした小説を対象とする「暮らしの小説大賞」の第1回受賞作です。 主人公は、青森で生まれ育った22歳の美也子。彼女の家族と生活は崩壊寸前になっていました。父親は昔気質の津軽塗の職人なのですが、仕事は減る…

妖星伝 3 神道の巻(半村良)

常に歴史の陰に潜み、世に退廃と戦乱をもたらしてきた異能集団・鬼道衆。徳川の世で二派に分裂していた鬼道衆の闘争が、外道皇帝の再来とともに終結しようとしています。しかし、手打ちを前提として超能力を競っていた宮毘羅・日天と因陀羅・信三郎の間に、…

通天閣(西加奈子)

「通天閣」というタイトルで、織田作之助賞の受賞作といったら、大阪に住むことがなかったら絶対に読まなかったであろう種類の小説でした。たとえ著者が、後に『サラバ!』で直木賞を受賞したとしても、です。 主人公は、通天閣の近くで暮らしている2人の男…

サラバ!(西加奈子)

2015年の直木賞受賞作品ですが、そんな説明は不要でしょう。とにかく面白い。作中でも触れられる『ホテル・ニューハンプシャー(アーヴィング)』や、『潮流の王者(コンロイ)』と似た雰囲気をたたえた作品です。 主人公は1977年5月にイランの首都…

クロックワーク・ロケット(グレッグ・イーガン)

「新☆ハヤカワ・SF・シリーズ」から、ハードSFの第一人者による三部作の出版が始まりました。著者は、ここで我々の世界とは全く異なる宇宙を、まるごと創造しています。しかも、物理法則の根本をひとつ変えるだけで、全てを変えてしまうという、極めてエレ…

弥勒(篠田節子)

近作『インドクリスタル』でインドの闇を描いた著者ですが、以前にも『ゴサインタン』でネパール、『転生』でチベットを舞台にした作品を描いています。本書の舞台は架空の国であるパスキムですが、イメージされているのは明らかにブータンです。 独自の仏教…

ぐるぐる猿と歌う鳥(加納朋子)

講談社が「かつて子供だったあなたと少年少女のための作品」として刊行している「ミステリーランド・シリーズ」の1冊です。ハードカバーで、大きな文字で、漢字にはルビがふってありますが、大人の鑑賞にも耐える作品になっています。 父親の転勤で東京から…

ゲイルズバーグの春を愛す(ジャック・フィニイ)

森谷明子さんが俳句甲子園を目指す女子高生たちを描いた『春や春 』で、ある登場人物の愛読書として紹介されていた作品です。1950年代に書かれた短編を編纂したものですが、冷戦時代に保守化を進めたアメリカ社会が、ノスタルジーを求めていたように思え…

妖星伝 2 外道の巻(半村良)

1970年代を代表する「伝奇小説」を再読しています。 常に歴史の裏に潜んで、社会を混乱に陥れ、時の政権を倒してきた「鬼道衆」とは何者なのか。遠い過去に失われて久しく、彼らが探し求め続けている「外道皇帝」や「黄金城」とは何なのか。江戸中期を舞…

ダブルギアリング(真山仁)

著者が、『ハゲタカ』でデビューした前年に、大手生保社員と合作で発表していたという「幻のデビュー作」です。 物語の舞台は生命保険会社。バブル破綻後の1990年代後半から2000年代にかけて経営危機に陥った生保会社が、相次いで海外の大手保険会社…

降臨の群れ(船戸与一)

インドネシア東部のマルク州の首都アンボンは、オランダの支配拠点だった時代が長かったことから、プロテスタント人口比率が高い地域だとのこと。1991年1月には、イスラム教徒とプロテスタントの間で宗教戦争が起こって、4000人の死者と40万人の…