りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2016-05-01から1ヶ月間の記事一覧

2016/5 ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女(ダヴィド・ラーゲルクランツ)

自作の世界的大ヒットを知ることなく早逝したスティーグ・ラーソンの『ミレニアム3部作』に、公式の続編が登場。3部作で唯一決着がついていない問題を掘り下げた点が当然としても、著者が代わったことを感じさせない力量が素晴らしい。第6部までの契約だ…

妖星伝 1 鬼道の巻(半村良)

「伝奇小説」というジャンルにはじめて触れた作品かもしれません。懐かしくなって再読しました。 八代将軍・吉宗が退いた後の江戸期。日本史の裏側に潜み、いつの世も戦乱と血潮を求めてきた「鬼道衆」が妖しく蠢き出しま。長らく不在だった盟主「外道皇帝」…

春や春(森谷明子)

子規を輩出した松山市で、「俳句甲子園」というイベントが開催されているそうです。1チーム5人で、季題を用いた俳句および感想を闘わせる競技です。本書の登場人物によると、王朝時代にはじまった「歌合せ」に近いのかもしれません。『千年の黙』に始まる…

羊と鋼の森(宮下奈都)

タイトルの「羊と鋼の森」とはピアノのこと。羊毛製のフェルトハンマーが、鋼の弦を叩いて音が生まれるピアノの仕組みのことを指しています。本書は、ピアノの調律に魅せられた青年が、調律師として、人として成長する姿を描いた作品なのです。 まず、大雪山…

あなたへの歌 (楊逸)

中国出身でアラサー女子の華明月(メイ)は、東京のお菓子メーカーに勤める傍ら、中国語講師の副業を始めたところ。ずっと煮え切らない態度だった日本人の彼が、天津への転勤が決まった途端にプロポーズしてきて、かえってとまどってしまいます。結婚はした…

ロックイン(ジョン・スコルジー)

世界中で猛威をふるった「パンデミック後」の世界。意識はあるのに体をまるで動かせない「ロックイン」という後遺症に陥った患者は、アメリカ国内だけでも400万人以上になっています。 彼らは、ロボティクスとネットワーク技術の発展によって救われました…

ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。(辻村深月)

母親からDVを受けた過去を持ち、地元を嫌っていたが故に上京して結婚し、フリーライターとなっているみずほは、母親を殺害した容疑を賭けられて失踪した、かつての親友チエミの足跡を追い求めます。それぞれに生活している旧友たちにインタビューを繰り返…

未成年(イアン・マキューアン)

英国高等法院の裁判官として煩雑な家庭問題に判決を下しているフィオーナでしたが、彼女自身の家庭も危機に瀕していました。60歳になる夫が浮気の公認を求めてきたのです。離婚まで踏み切るつもりはなさそうなものの、話し合いは決裂。フィオーナは別居を…

エヴリシング・フロウズ(津村記久子)

『ウエストウイング』の時に小学生として登場したヒロシが、本書では主役になっています。 中学三年生になったヒロシは、平均より小柄で、離婚した母親と二人暮らし。絵を描くのが好きだったのに、自分よりも上手な女子・増田が登場してから断筆状態。ソフト…

えどさがし(畠中恵)

「しゃばけシリーズ」初の外伝です。本編の主人公・一太郎はほとんんど登場しませんし、時代も本編の前後に大きく飛びますが、やはり「しゃばけ」の世界です。 「五百年の判じ絵」 弘法大師によって生を受けた犬神が、長崎屋の手代となるべく、判じ絵によっ…

デリリウム17(ローレン・オリヴァー)

オバマ大統領が娘に贈った小説として、話題になった作品です。タイトルの「デリリウム」とは「神経症」のこと。この時代、国境を壁で閉鎖したアメリカでは「愛」は「病」と認定されており、既に脳手術による治療法も確立しています。愛こそが争いや暴力の原…

インドクリスタル(篠田節子)

『ゴサインタン』でネパール、『弥勒』でブータン、『転生』でチベットを書いてきた著者が、より複雑なインド社会に挑戦した作品です。 惑星探査機用の人工水晶の核となるマザークリスタルを求めてインドの寒村に赴いた藤岡は、不思議な少女ロサと出会います…

夜来香海峡(船戸与一)

主人公は、商社を辞めて国際友好促進協会というNPO団体を設立した蔵田雄介。東北の農村の嫁不足解消のため、中国人女性を花嫁として紹介するという「ビジネス」に、暴力団の介入という暗雲が垂れ込めてきたことを憂鬱に感じています。いくら綺麗ごとを言…

虹の家のアリス(加納朋子)

『螺旋階段のアリス』の続編です。脱サラ探偵の仁木順平と、押しかけ助手の美少女・安梨沙が遭遇する「日常に潜む奇妙な事件」は、「ある結末」に向かって進んでいきます。 「虹の家のアリス」 「二児」を持つ母親たちの育児サークルへの嫌がらせは、誰が何…

ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女(ダヴィド・ラーゲルクランツ)

世界的なメガヒットとなった「ミレニアム3部作」の著者スティーグ・ラーソンは、第1部の出版前に急逝してしまったため、続編はありえないと思っていました。ただ、第3部までにほとんど登場しなかったものの、決着がついていなかった重要キャラクターがひ…

カクテル・ウェイトレス(ジェームズ・M・ケイン)

『郵便配達は二度ベルを鳴らす』の著者の、最晩年の遺作だそうです。 主人公は、交通事故でDV夫を亡くしたばかりで、幼い息子を抱えて生活のあてもない若き未亡人ジョーン。少々怪しげなバーでカクテル・ウェイトレスとして働き出したところ、そこで初老の…

郵便配達は二度ベルを鳴らす(ジェームズ・M・ケイン)

1934年に書かれ、映画化7回、邦訳6回を記録する大ベストセラーの新訳です。ジャック・ニコルソンとジェシカ・ラングが共演した1981年版の映画を見たことがありますが、2人ともかなり好演していたように記憶しています。 ストーリーはシンプル。1…

許されざる者(辻原登)

19世紀の「本格文学」を意識したスタイルで、紀州・熊野を舞台にして日露戦争前後の時代を描いた作品です。主人公は、海外で学んだ優秀な医師の槇隆光。貧者からは治療費を取らずに「毒取ル(ドクトル)」と慕われ、町に新しい思想を持ち込み、西洋料理の…

鍵のない夢を見る(辻村深月)

読後に嫌な気分が残るミステリを「イヤミス」というそうです。この著者の作品も、そのジャンルに入るのではないでしょうか。ささやかな夢を求める女性たちが、いつしか深みに嵌ってしまう様子を眺めることは、後味が悪いのです。 「仁志野町の泥棒」 母と参…

夫に出会わないためのTo Doリスト(ケルスティン・ギア)

カティは、ケルンに住む35歳のキャリアウーマン。5年前に結婚した夫フェリークスは、「運命によって結ばれた」と言うほどカティを愛しているものの、内科医の仕事が多忙すぎてすれ違い生活。さらに夫の家族や友人とは最悪の相性だったこともあり、夫婦の…

永遠の始まり 2(ケン・フォレット)

キューバが焦点となって米ソ対立が激化しく中で、世界は核戦争の恐怖に包まれていきます。司法長官ボビー・ケネディのスタッフのジョージも、フルシチョフの補佐官のディムカも、それぞれの立場で戦争回避に向けて、必死の画策を続けます。世界を破滅から救…

永遠の始まり 1(ケン・フォレット)

20世紀をテーマにした「100年3部作」の最後にあたる、第3部の出版が始まりました。舞台は冷戦と公民権運動に揺れる1960年代であり、主役となるのは第2部の主人公たちの子供たちの世代です。 ベルリン。教師になっていた、カーラとヴェルナーの養…

若冲(澤田瞳子)

江戸時代中期。京都で活躍した伊藤若冲は、緻密な構図、大胆な題材、新規な手法による「奇想の画家」として知られています。著者は、若冲の生涯に思い切ったフィクションを挿入して、天才絵師の創作の秘密に踏み込みました。 そのフィクションとは、生涯独身…

ひとりっ子(グレッグ・イーガン)

「現代ハードSFの第一人者」である著者の、日本オリジナル短篇集第3弾です。 「行動原理」 脳のリンクを組み替えて「行動原理」そのものを「有期限で」改変してしまうインプラントが、容易に入手できる時代。妻を銀行強盗に射殺された主人公は、死刑廃止…

森見登美彦の京都ぐるぐる案内

『太陽の塔』、『四畳半神話大系』、『きつねのはなし』、『夜は短し歩けよ乙女』、『有頂天家族』、『宵山万華鏡』、『聖なる怠け者の冒険』・・京都を舞台にした小説を描き続ける著者による、不思議な京都案内です。 ここには、清水寺も、金閣寺も、銀閣寺…

砂星からの訪問者 (小川一水)

遠未来。超光速航法を入手して恒星間宇宙へと進出した地球人類は、数々の地球外知的生命体とのコンタクトも果たした結果、調査を目的としながらも重度に武装した宇宙艦隊を保有するようになっています。本書は、はからずも派遣先で遭遇した知的生命体との接…