りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2016-04-01から1ヶ月間の記事一覧

2016/4 吸血鬼(佐藤亜紀)

佐藤亜紀さんの新作は「さすが」と思わせる作品でした。辻原登さんの『冬の旅』には、高村薫さんの『冷血』と繋がる匂いを感じます。 20世紀初頭の中欧で「幻想歴史小説」の先駆者となったレオ・ペルッツの作品を、3冊続けて読みました。最近相次いで発行…

第三の魔弾(レオ・ペルッツ)

「幻想歴史小説の先駆者」である著者の作品を、一気読みしています。今月3冊目となる本書の舞台は、16世紀のアステカ王国。征服者コルテスが率いるスペインの無敵軍に立ち向かったドイツ人の物語。 神聖ローマ帝国を追放された「ラインの暴れ伯爵」グルム…

スウェーデンの騎士(レオ・ペルッツ)

デンマーク王国顧問官にして特命公使夫人であるマリア・クリスティーネの回想録には、不思議なことが書かれていました。「スウェーデンの騎士」と呼ばれた父は、母の懇願を無視して戦場に赴いた後も何度か深夜に娘の窓辺を訪れ、それは名誉の戦士を遂げた後…

冷めない紅茶(小川洋子)

ともに芥川賞候補となった、デビュー直後の中編2作が収録されています。 「冷めない紅茶」 「死」に共感を抱き続ける女性の視点から綴られる、幻想的な作品です。中学時代の同級生の葬儀で再会したK君の家を訪問した主人公は、彼の妻が中学校の図書館司書…

応仁秘譚抄(岡田秀文)

室町時代末期。将軍家の後継者問題と大名家の権力争いによって引き起こされ、戦国時代の幕を開けることとなった「応仁の乱」の真相に、新解釈で迫った作品です。 物語は4人の視点から語られます。1人めは、第8代将軍義政の実弟・義視。兄から継嗣と名指し…

天冥の標9.ヒトであるヒトとないヒトと Part 1(小川一水)

「全10巻シリーズ」の第9巻であり、物語は終息に向かってピッチをあげていきます。かつて太陽系文明の中心であった小惑星セレスがすでに太陽系を離脱していたということは、前巻『ジャイアント・アーク』で明らかになっています。では、いったいどこに向…

猫城(南条竹則)

金を使い果たして無宿人となった詩人は、最後の仕事となった九州の大学での講演の後で東京に戻ることなく、別府とおぼしき温泉地に流れ着きます。そこは野良猫の多い町であり、「政宗」と名付けた隻眼の大きな虎猫の前で「猫を捨てるな」と書かれた呪符を破…

もし、シェイクスピアがスター・ウォーズを書いたら「帝国、逆襲す」(イアン・ドースチャー)

シェイクスピアの文体で書かれた「スター・ウォーズ」の「エピソード5:帝国の逆襲」は、「コロスによる背景要約」から始まります。この部分が、本書の意味合いをよく伝えていると思いますので、全文引用しておきましょう。映画の冒頭で、宇宙空間に文章が…

岳飛伝 14(北方謙三)

いよいよ物語が大きく動き始めました。南方で勢力を蓄えた岳家軍と、小梁山の秦容軍が、ついに南宋へと軍を動かします。南宋と大理国の国境を抜けた巴蜀の地・成都に拠点を定めた後、岳飛は点で動くようにして沿岸の温州へ。秦容は長江に沿っての線を制圧し…

岳飛伝 13(北方謙三)

金国皇帝の座に就いた海陵王が、中国全土を掻き乱そうとしています。 梁山泊の「魂の故郷」ともいうべき子午山に向かって禁軍一万騎を動かした際は、そこで育った九紋龍史進の逆鱗に触れて一瞬のもとに蹴散らされたものの、南宋への野望を隠そうともしません…

地のはてから(乃南アサ)

知床の語源は、アイヌ語で「地の果て」を意味する「シリエトク」だとのこと。わずか2歳で北海道に渡り、知床の過酷な環境の中で生き抜いた女性の半生をたどる物語です。 時代は大正期。株で失敗した父が作った借金のせいで、追われるように夜汽車に乗り込ん…

いちばん長い夜に(乃南アサ)

『いつか陽のあたる場所で』と『すれ違う背中を』に続く、「芭子&綾香シリーズ」の完結編です。上戸彩と飯島直子の共演でドラマ化されていますが、原作とTVではだいぶストーリーが異なっているようです。 著者はこのシリーズについて、自分を恥じて世間に…

ようこそ、自殺用品専門店へ(ジャン・トゥーレ)

10代続く老舗の「自殺用品専門店」を舞台にした、フランスのブラック・ユーモア小説です。舞台となるのは、首つりロープ、切腹セット、毒リンゴ、タランチュラ・・死を願う全ての人の希望を叶える様々な「自殺グッズ」を扱うお店。は、されているのです。 …

エディに別れを告げて(エドゥアール・ルイ)

20歳を超えたばかりの青年が、過去からの逃走の顛末を語った、衝撃的な私小説です。 著者の出身地であるフランス北部のピカルディ地方は、男が力で家族を支配し、ワルであることが美徳とされる封建的な地域だそうです。学校を卒業しても工場で力仕事につく…

聖ペテロの雪(レオ・ペルッツ)

1932年3月。ドイツの病院で目覚めたアムベルクは、「交通事故にあってから5週間ここで昏睡していた」と医師から告げられます。しかし、彼の記憶は違っていたのでした。彼は、亡父の旧友だったというフォン・マルヒン男爵の領地に医者として赴き、男爵…

暗黒女子(秋吉理香子)

「イヤミス」という言葉があることを知りませんでした。読んで「イヤーな気分になるミステリ」のことだそうです。「イヤミスの女王」として湊かなえさんの名前があげられていますが、確かに『告白』以来、別の作品を読もうという気にならないままです。 本書…

シャッター通りに陽が昇る(広谷鏡子)

丸亀市出身の小説家による、「故郷の商店街復活への思いを込めた」という作品です。父親の入院と彼との別れをきっかけにして、東京からドロップアウトして地元に戻ってきたアラフォー女性の奮闘記。舞台となっている「さぬき亀山市」は、もちろん丸亀市のこ…

冬の旅(辻原登)

「秋葉原通り魔事件」が起きた2008年6月8日に、刑期を終えた38歳の男が滋賀刑務所から出所する場面から始まった物語は、いきなり不思議な展開を迎えます。その男「緒方隆雄」の身は、大阪駅で2つに分かれたというのです。ひとりは母親の菩提を弔う…

わが心のジェニファー(浅田次郎)

アメリカ人青年のラリーは、日本贔屓の恋人ジェニファーから、結婚の条件として日本への一人旅を命じられます。幼い頃に父母が離婚したため、元軍人で日本嫌いの祖父に育てられたラリーの、初めての日本体験は困惑することばかり。 ウォシュレット、カプセル…

つつましい英雄(マリオ・バルガス=リョサ)

交互に進展する2つの物語が交差する中で、最後に浮かび上がってきたテーマは「家族」だったようです。縁を切ることができない家族関係とは、複雑で、面倒で、悩みの種であるとともに、やはり素晴らしいものなのです。 奇数章の主人公は、ペルー北西部にある…

ミストレス(篠田節子)

『小説宝石』の「春の官能小説特集」への寄稿作品を中心とする短編集です。「官能」なのでエロい表現もあるのですが、どの作品も「ダメ男に厳しいブラック・ファンタジー」になっているところに、篠田さんらしさを感じます。 「ミストレス」 コンサートの最…

無菌病棟より愛をこめて(加納朋子)

2010年6月、『七人の敵がいる』の出版準備中に突然、著者は「急性白血病」だと告知されてしまいます。放置すれば数カ月の命。治療しても5年生存率は3分の1。 病名を聞いたとたんに誰もが無言になるという「メジャーな難病」に対して、抗癌剤治療から…

トオリヌケキンシ(加納朋子)

2014年10月に発行された短編集ですが、2010年からの闘病生活以前に書かれた作品も含まれています。しかし、その前か後かということに、意味はありませんね。6つの物語に共通するのは、いずれも理不尽の壁に「トオリヌケキンシ」されてしまった若…

吸血鬼(佐藤亜紀)

近隣3国によって分割された19世紀のポーランド。ハプスブルグ帝国の最貧部となったガリツィアに派遣された新任役人のヘルマン・ゲスラーは、かつて詩人としても知られた領主のアダム・クワルスキと対峙します。しかしクワルスキは、ポーランド独立を夢想…

ユリアヌス(南川高志)

「歴史と教科書の山川出版社」が、副読本として位置付けているのが「世界史リブレット」シリーズでしょうか。要するに伝記的解説書です。 本書を読んであらためて、辻邦生さんの『背教者ユリアヌス』が史実に基づいていることを確認できました。もっとも、第…

Twelve Y.O.(福井晴敏)

タイトルの「Twelve Y.O.」とは、「12 years old」のこと。戦後マッカーサーに「日本人の精神年齢は12歳」と言われたという言葉からきています。 本書は、かつて自衛隊内部の非公開情報機関「DAIS」に所属していたという男が、たったひとり…