2015-09-01から1ヶ月間の記事一覧
今月は比較的「軽めの読書」でしたが、上位にあげた2冊は、テーマも文体もジャンルも異なっていながら、人間という存在に希望を感じさせてくれる作品でした。 ミステリ・ファンの間で評価が高かった『その女アレックス』は、もちろん高水準の作品でしたが、…
「永平寺」というと、しんしんと降り積もる雪の中で、除夜の鐘がおごそかに響く「行く年くる年」のイメージが強い寺院。開祖道元というと、ウィットゲンシュタインやサルトルらの西洋哲学と比較されることも多い、中世日本有数の哲学的宗教家。 そこで学ぶ修…
18世紀の思想家ヴォルテールとプロイセン王フリードリヒの関係を、史実や書簡から再構築した「歴史小説」ですが、その内容はほとんどゴシップ。2人の人間性が浮かび上がってくるようです。 後に啓蒙君主と呼ばれることになるフリードリヒは、皇太子時代か…
1993年に『酒仙』で「第5回ファンタジーノベル大賞優秀賞」を受賞した著者は、以来、中国古典に想を得た作品を多く書いていますが、本書もその一冊。どこまでが中国古典なのか、それとも全てがオリジナルなのか、混然一体となっていた判別しがたい・・…
インド系イギリス人の著者による、不思議な物語です。「ピンチョンとデリーロの系譜に連なる」と紹介されていましたが、むしろ『クラウド・アトラス(デイヴィッド・ミッチェル)』に近いものを感じます。 アメリカ西部の砂漠にある「ピナクル・ロック」なる…
一見普通の生活をおくる「ワケアリ」の主人公。そこに近づいてくる謎めいた存在。明かされる過去の因縁。ついほだされる人情と、先の読めない今後の展開。まさに、田牧さんの連作時代小説にぴったりのテーマですが、主人公然としているのが鯖模様の三毛猫で…
『ハゲタカ』の著者が、東京地検特捜部をテーマとして扱った小説です。著者が本書の構想を練った2012年当時、証拠改ざん事件が続けて明るみに出たことによって、かつて「最強の捜査機関」と呼ばれた特捜部の権威は地に堕ちていたとのこと。しかし本書に…
「文明崩壊後の世界を描くSFサスペンス」というと、殺伐あるいは荒涼とした終末論的世界をイメージしてしまいますが、本書は「人間として生きること」の意味を問い詰めた作品でした。アーサー・C・クラーク賞の受賞にとどまらず、全米図書賞の最終候補作…
シリーズ第3巻の「京都」には、さすがにメジャーな寺院が並んでいます。全ての寺院を訪問したことがあるのは、この巻だけです。 「第21番 金閣寺 目もくらむような亀裂に輝く寺」 『三島由紀夫の名作』の印象が強い寺院ですが、もともとは足利義満が政治…
2011年。ドイツ人ジャーナリストのハーゲンが手に入れたデータは、イスラエル情報機関の歴史の暗部に関わる資料でした。しかも、陰謀はまだ進行形で存在していたのです。表と裏の両方の情報機関から執拗に追われるハーゲンの逃走劇と、イスラエルの草創…
オルリー市街の理髪店の客となった航空管制官レオは、理髪師の老人を相手に奇想天外な話を語り始めます。それは、アイスランドの火山噴火の影響でヨーロッパ中の空港が閉鎖された日に、オルリー空港から飛び立ったひとりの女性の物語でした。 その女性プロヴ…
この長いタイトルに全てが込められている、フランス発のユーモア小説です。「サドゥー」とは、ヒンズー教の苦行者のことですが、本書の主人公ジャタシャトルー(通称アジャ)は、宗教的にはかなりグチャグチャのようです。 1泊2日の予定でパリにやってきたア…
2014~2015年の各ミステリ・ランキングで1位を独占し、「6冠」に輝いた作品です。しかし、良くできたミステリに共通することですが、レビューは書きにくい。ネタバレにならないよう、気を付けないといけませんので。 物語は、美しい女性がパリの路…
贈賄の罪を被せられて失踪した男を巡る、6人の男女の心情を語る連作短編集。 男の犯罪を告発しながら「逃げて」と告げる愛人。夫の犯罪と失踪を知って、精神に変調をきたす妻。子供のころから男の弱さを知っている姉。数年後、小学3年生になった男の娘ルイ…
3部構成の小説です。 第1部は、1935年のパリ。新人作家ヴァランタンは、怒りを叩きつけたような作風の作品も売れず、批評家には叩かれ、救いを求めた上流階級夫人との恋愛も破局を迎えて、絶望の余りに自殺。しかし、第2部の50数年後には「戦争を予…
スーパースターのような存在だった兄が事故で不具になり、やがて自殺したことによって、家族は崩壊してしまいました。物静かで思慮深かった父は家を飛び出し、太陽のように陽気だった母は過食と飲酒に溺れ、超美形の妹は引き籠り生活。語り手である次男は実…
『しゃばけシリーズ』の第13弾では、ついに若だんな一太郎のお嫁さんが決まります。それは、仁吉や、佐助や、妖たちとの別れを意味してしまうのでしょうか。時が止まっているかのようなシリーズですが、少しずつ時間は流れているようです。 「栄吉の来年」…
伝説の写真家となったロバート・キャパを一躍有名にしたのは、「崩れ落ちる兵士」と呼ばれるようになった1枚の写真でした。その写真に潜む謎を解き明かした『キャパの十字架』の姉妹編ともゆうべき作品です。むしろ『キャパの十字架』は、本書の一部といっ…
「赤壁」で大敗を喫した曹操ですが、経済力・軍事力で他を圧している中原の支配者としては、小休止といったところ。魏と呉が小競り合いをしている間に、ついに劉備軍団は蜀を手に入れます。その過程が本巻の前半部分。 漢王室の流れを組む(とする)劉備が、…
「吉祥寺探偵物語」というシリーズの第1作だそうです。素人探偵の1人称で綴られる「ハードボイルド風」のミステリ。 妻に去られ、会社も辞めて、コンビニでバイトをしながら小学生の息子を育て、夜な夜なゲイバーに繰り出す生活を起こっている「おれ、川庄…
ナポリのスラムに住む18歳の舞子が、一度も会ったことのない七海という同年代の女性に向けて発信する手紙。舞子はそこで、母によって歪められた数奇な半生を語っていきます。 なぜか顔の整形を繰り返す母親は、娘に対して自分の本当の名前を明かさず、父親…