りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2015-08-01から1ヶ月間の記事一覧

2015/8 満州国演義9 残夢の骸(船戸与一)

今月の1位は、今年4月に亡くなられた船戸与一さんの絶筆となった作品に捧げましょう。複眼的な視点によって歴史を立体的に描き出す手法は、最後の最後まで冴えわたりました。著者が描いたものは、わずか13年しかない満州国の興亡ではなく、明治維新後8…

コロロギ岳から木星トロヤへ(小川一水)

本格ハードSFの大作『天冥の標』を展開中の著者による、ラノベ感覚SFです。 宇宙規模の時空間を往来する存在・カイアクの尻尾が引っかかってしまったのが、西暦2231年の木星前方トロヤ群の小惑星アキレス。小惑星間の戦争に敗れてライバル星の占領下…

下妻物語 完(嶽本野ばら)

ロリータ少女・竜ヶ崎桃子と、ヤンキー少女・白百合イチゴの間に「不思議な友情」が生まれた『下妻物語』の完結編です。「ヤンキーちゃんとロリータちゃんと殺人事件」という副題が示すように、ミステリ仕立てになっています。 桃子はデザインと刺繍を認めら…

下妻物語(嶽本野ばら)

2004年に映画化され、深田恭子のロリータ・ファッションと土屋アンナのヤンキー姿が見事にはまっていた作品です。舞台となった茨城県の下妻市は、何度か通ったことがあるのですが、小説にも登場するジャスコと3本の国道(125号、294号、357号…

クリフトン年代記4.追風に帆を上げよ(ジェフリー・アーチャー)

「クリフトン年代記」の第4部です。ここまで、ハリー・クリフトンとエマ・バリントンの数奇な運命を中心に描いてきたシリーズでしたが、徐々に主人公は、2人の息子である第二世代のセバスチャンに移っていくようです。 ということで、前作『裁きの鐘は』の…

土漠の花(月村了衛)

東アフリカのジブチにPKOとして派遣された自衛隊部隊が、ソマリアとの国境地帯で戦闘に巻き込まれる物語。墜落した米軍ヘリの捜索・救助に向かった部隊は、保護を求めてきた現地女性たちを匿った途端に、武装勢力に急襲されて、全滅の危機に陥ってしまい…

ハンガーゲーム(スーザン・コリンズ)

映画化されて話題になった作品です。 首都キャピトルが12の地区を支配する国で、反乱を抑えるための「見せしめ」として毎年行われているのは「ハンガーゲーム」。それは、12の地区から男女1名ずつ選出された24人の少年少女たちが、最後の1人になるま…

有頂天家族 二代目の帰朝(森見登美彦)

「面白きことは良きことなり」という偉大な父の教えを胸に生きている、狸界の名門下鴨家の三男・矢三郎が活躍する『有頂天家族』の続編がついに登場。京の町を舞台にして、狸と天狗と胡散臭い人間たちが三つ巴で絡み合う物語は、三部作になる予定とのこと。 …

祈りの海(グレッグ・イーガン)

1990年代に著された11篇の短編を収録した作品集です。現代のSF界で、もっともハードな作家と言われる著者の多彩な発想を楽しめる作品が揃っているように思えます。やはり短編集である『TAP』と並んで、「イーガン入門書」として適切な本だと思い…

革命前夜(須賀しのぶ)

「ライトノベル」から「一般小説」へと転身を果たした著者ですが、小説の完成度が高くなっている反面、以前の奔放さが失われているようなのが気になります。 本書の舞台は、「ベルリンの壁」崩壊前夜の東ドイツ。日本からの留学生としてドレスデンの音楽大学…

ソフロニア嬢、仮面舞踏会を密偵する(ゲイル・キャリガー)

19世紀のイギリスを舞台にしたスチームパンク・シリーズの3作目です。この世界では吸血鬼や人狼が人間と共存しているどころか、彼らが貴族として女王の顧問や軍隊となったことで、イギリスが世界に覇を唱えることができたとされています。 レディのための…

忘れられた巨人(カズオ・イシグロ)

『わたしを離さないで』以来10年ぶりの長編は、なんとファンタジー色の濃い作品でした。記憶を薄れさせる霧、ドラゴン退治への旅、秘密を隠した修道院、アーサー王伝説の騎士など、中世の騎士伝説そのままの世界が、本書の舞台なのです。 物語はブリトン人…

スリーピング・ブッダ(早見和真)

「若き僧侶の修行物語」というので、映画「ファンシイダンス」をイメージしていましたが、後半になって大きな展開を見せてくれた作品でした。 事故死した長兄に代わって北陸の古寺を継ぐ決意をしたものの、僧侶となることの意義を自問し続けている小平広也。…

世界が終わってしまったあとの世界で(ニック・ハーカウェイ)

ついに起こった最終戦争は、暗い情念を実体化する「非現実の素」を振りまいてしまいました。かろうじて生き残った人類は、「素」を無力化する物質の供給パイプに囲まれたゾーンで細々と暮らしています。その外側には何が棲んでいるのか、わかったものではあ…

あやかし飴屋の神隠し(紅玉いづき)

神社のお祭りで飴細工のお店を出している、2人の青年の物語。この世ならざるモノが見えてしまう叶義の指示で、牡丹が作る妖怪型の飴細工には、不思議な力があるのです。それは、その人に憑いている妖怪を落とす力。しかし、妖怪を落としてしまうことが、そ…

我らの罪を許したまえ(ロマン・サルドゥ)

13世紀の南フランスで起きた奇妙な事件の顛末を描いた作品です。この地域が、アルビジョア派十字軍で殲滅された異端カタリ派の拠点であったことが、ひとつの伏線になっています。 1284年冬、南仏の不毛な司教区でアカン司教が何者かに惨殺される事件が…

図書館奇譚(村上春樹)

1983年の『カンガルー日和』に収録されていた短編が、ドイツのデュモン社から、カット・メンシックさんのイラスト付きの絵本として出版されたものです。シリーズになっており、『ねむり』と『パン屋襲撃』に続く3冊目とのこと。なかなかダークなイラス…

薫香のカナピウム(上田早夕里)

『華竜の宮』で、滅亡しつつある人類が姿を変えて生きのびようとする闘いを描いた著者が、視点を変えて描いた作品です。 本書の主人公は、熱帯雨林で樹上生活をしている部族の少女・愛琉。表題のカナピウムとは「林冠=カノピー」のことなのです。定住してい…

秘密(ケイト・モートン)

2011年。イギリスの国民的女優のローレルは、母ドロシーの死を前にして、見知らぬ侵入者を母が刺殺した50年前の事件の真相を追い始めます。事件は正当防衛で片付いたのですが、幼かったローレルは、侵入者が母の名を呼んだのを聞いていました。彼女は…

満州国演義9 残夢の骸(船戸与一)

癌と闘いながら8年に渡って書き続けられた著者畢生の大作が、ついに完結しました。最終第9巻では、昭和19年から21年にかけての敗戦前夜から満州国解体による悲劇的な混乱が描かれ、そして著者がかねてから「シリーズの着地点」と決めていたという「通…

ひゃくはち(早見和真)

硬式球の縫い目と、人間の煩悩の数は一緒だそうです。どちらも108。 甲子園常連の名門校の補欠球児だった雅人。恋人の言葉をきっかけにして蘇ってきた、封印していたはずの高校時代の記憶。野球漬けの毎日。高圧的な監督への反感。ベンチ入りできる16人…