りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2015-07-01から1ヶ月間の記事一覧

2015/7 アルタイ(ウー・ミン)

今月の1位と2位は、ほとんど同じメンバーであるイタリアの匿名作家集団の作品です。精緻な歴史解釈の中に潜ませたささやかなフィクションが、やがて歴史を再構築してしまう大技を楽しめます。しかも敗者の立場から、「人間の生き方に対する普遍的な問い」…

書店ガール3(碧野圭)

「書店を舞台としたお仕事エンタテインメント・シリーズ」の第3巻。TVドラマ化もされて、著者の代表作になりつつあるようです。本書にも勢いを感じました。とはいえ、第1巻では奔放なお嬢様キャラだった亜紀も、もう30歳の母親。「書店ガール」のタイ…

獣の奏者 外伝 刹那(上橋菜穂子)

中編2作と短編1作からなる外伝です。本編からのスピンアウトや、本編の前史や後日談が「外伝」として描かれることもありますが、本書のケースは、本編で省略されたエピソードですね。できれば、『ゲド戦記外伝』の「カワウソ」や「トンボ」のように、本編…

獣の奏者4.完結編(上橋菜穂子)

物語は悲劇へと向かって突き進んでいきます。 王獣の解放を願いながらも、王獣軍の訓練を続けなくてはならないエリン。妻エリンに王獣軍を使わせる前に戦闘を終わらそうと、闘蛇軍に身を投じたイアル。両親を案ずる気持を押さえきれずに荒れた姿こともありな…

獣の奏者3.探究編(上橋菜穂子)

このシリーズは、『第1巻:闘蛇編』と『第2巻:王獣編』で綺麗に終わっていたはずでした。なぜ、「降臨の野」で起きた奇跡から11年後の物語が必要とされたのか。本書を読むということは、そのテーマを理解していくことなのでしょう。 「堅き楯」の一員で…

そして山々はこだました(カーレド・ホッセイニ)

アフガニスタンで生まれ、15歳のときに一家でアメリカに亡命し、その後アメリカで医師となった著者の第3作です。第1作の『カイトランナー(文庫版改題(君のためなら千回でも)』は、世界的なベストセラーになりました。 本書は、幼いころに都会の裕福な…

Q(ルーサー・ブリセット)

宗教改革に揺れた16世紀前半の欧州史を、「権力に反抗し続ける無名の主人公」と「ローマ法王庁の密偵Q」との暗闘の歴史として再構築した本書は、イタリアの匿名の著者たちによる共著として出版された作品です。 1517年、ルターによる贖宥状批判に始ま…

ちゃんちゃら(朝井まかて)

「ちゃら」というのは、元浮浪児だった主人公の「ちゃんちゃらおかしいや」という口癖のこと。本名も年齢も不明だった少年には「ちゃら」という名前がついてしまったのです。植木屋の辰三こと「植辰」に拾われて育てられ、いっぱしの職人になりかけている「…

僕僕先生8 仙丹の契り(仁木英之)

シリーズ第8作の舞台は現チベットである吐蕃へと移りますが、その前に「旅の仲間」の入れ替えが起こります。『第2巻』からレギュラーだった幸薄い薄妃と、『第5巻』から登場したガッツある少女の蒼芽香は、程海に留まることを決めました。また、本巻の中…

狐火の家(貴志祐介)

衝撃的な未来図を描いた『新世界より』と同じころに出版されていますが、こちらは比較的正統派のミステリ。何しろ、美貌の弁護士・純子と、防犯探偵・榎本のコンビが解き明かす「密室殺人の謎」ですからね。もっとも本書は、4年前の『硝子のハンマー』の続…

あまからカルテット(柚木麻子)

奥手なピアノ講師の咲子、ずっと成績優秀で編集者となった薫子、美女でデパート美容部員の満里子、専業主婦で料理上手な由香子。容姿も性格も生活環境もバラバラなのに、中学時代から仲の良い、4人のアラサー女性の友情物語です。 特技を持っているというの…

ノンストップ!(サイモン・カーニック)

タイトル通り、「ノンストップの疾走感」をセールスポイントとするエンターテインメント作品です。 ロンドンの平凡な勤め人であるトムは、休日出勤中の妻に代わって2人の子供を世話するという、平凡な週末をおくっていました。それを破壊したのは、弁護士の…

世界受容(ジェフ・ヴァンダミア)

「3部シリーズの完結編」では前2巻と異なり、複数の視点から語られていきます。 ひとつは、『第2巻:監視機構』のラストで、「コントロール」とともに「エリアX」に飛び込んでいった「ゴーストバード」の語り。『第1巻:全滅領域』の語り手であった生物…

監視機構(ジェフ・ヴァンダミア)

シリーズ第1作『全滅領域』に続く2作目は、異様な生態系を有する謎の領域「エリアX」を監視する機構「サザーン・リーチ」が舞台になります。主人公は、前作の「第12次調査隊」が失敗に終わり、局長も行方不明となった機構を立て直すために「中央」から…

全滅領域(ジェフ・ヴァンダミア)

「サザーン・リーチ3部作」の第1作ですが、全体の枠組みが不明なまま、登場人物のモノローグによって物語が進展していきます。 どうやら「サザーン・リーチ」とは、世界の一角に突如として出現した、異様な生態系を有する謎の領域「エリアX」を監視する機…

西太后秘録(ユン・チアン)

清朝末の半世紀に渡って中国に君臨した西太后は、中国と王朝を衰退させた悪女なのでしょうか。それとも沈みゆく船を支えようとした女傑なのでしょうか。かつて主流だった「贅沢で残忍な独裁者」とのイメージは、浅田次郎さんの『蒼穹の昴』によって変わった…

アルタイ(ウー・ミン)

中国人のような著者名ですが、漢字で書くと「無名」となり、4人の匿名イタリア人作家集団による共作です。「レパントの海戦」前夜のコンスタンティノープルを舞台にして、壮大な夢の実現に向けて戦った者たちが敗れ去っていく過程を描いた物語。 ヴェネツィ…

ふるさと銀河線(高田郁)

まだ時代小説作家として文壇にデビューする前の著者が、女性コミックの原作として書いていた作品群を、あらためてノヴェライズした短編集です。副題の「軌道春秋」は、コミックのタイトルです。全部の作品で駅や列車が重要な役割を果たしているのですが、と…

無意味の祝祭(ミラン・クンデラ)

『存在の耐えられない軽さ』で「たった1回限りの人生の限りない軽さは本当に耐え難いのだろうか」と問いかけた著者は、「無意味」こそが人生の本質であるという地点にたどりついたかのようです。それは、「不滅なるものは通俗化を免れない」という感覚が帰…

四人組がいた。(高村薫)

高村薫さんの作品ですが、犯罪者の抱える心の闇と正対する合田雄一郎も、心の闇と共存しているような福澤彰之も登場しません。本書は日本の鄙びた山村を舞台とするユーモア小説なのです。 村の集会所に集まって、日がな一日茶飲み話をしているのは、自称村一…