りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2015-04-01から1ヶ月間の記事一覧

2015/4 キャパの十字架(沢木耕太郎)

先月の『凍』に続いて、沢木耕太郎さんのドキュメンタリー『キャパの十字架』を読みました。『深夜特急』のイメージが強すぎて、今までまともに読んだことがなかったことを後悔。著者自身の観点を明確にした、「私ノンフィクション」の面白さを堪能しました…

猫背の虎 動乱始末(真保裕一)

乱歩賞でデビューし、「外交官・黒田康作シリーズ」でブレークした著者ですが、最近では時代小説も書いていたのですね。すでに3作めだそうです。 「安政の大地震」によって被災した江戸を舞台に活躍する、南町奉行所の若き同心・大田虎之助が主人公。亡父の…

神去なあなあ夜話(三浦しをん)

映画化もされた『神去なあなあ日常』の続編です。三重県の山奥で林業に携わることになった青年・平野勇気の「その後」の物語。映画では長澤まさみが演じた年上の女教師・石井直紀への恋は、進展したのでしょうか。 「第一夜:神去村の起源」 もともとは大き…

魔の山(トーマス・マン

ジブリ映画の「風立ちぬ」に、カストルプというドイツ人が登場していたので、本書のことを思い出しました。「サナトリウム繋がり」ですね。第一次世界大戦時に20代の青年であったハンス・カストルプが戦火を生き延びることができていたら、このくらいの年…

男ともだち(千早茜)

29歳。京都在住。仕事に追われているイラストレーターの神名葵は、恋人・彰人と同棲中ながら、関係は冷えています。勤務医で妻帯者の遊び人・真司を愛人としていますが、人間関係にも仕事にも満たされていません。 そんな葵のところに、大学生のころからの…

あなたの本当の人生は(大島真寿美)

3人の女性を主人公として、「小説を書くこと」をめぐる小説です。 「ジュニア小説の女王」と呼ばれるものの、近年は何も書いていない森和木ホリー。ホリーにスカウトされて優秀な秘書となり、20数年間勤めている宇城圭子。新人賞でデビューしたものの伸び…

プロジェクトぴあの(山本弘)

「ぴあの」・・「ピアノドライブ」・・聞き覚えのある言葉だと思ったら、本書は『地球移動作戦』の前日譚だったのですね。 超光速で運動する粒子タキオンの実用化に成功し、外宇宙航行船や永久機関を生み出した超天才は、アイドルグループの少女「結城ぴあの…

草原讃歌(ナンシー・ヒューストン)

祖父パドンが遺した草稿の断片から、祖父の人生を紡ぎあげようとする孫娘のポーラ。解体されて順不同に綴られる物語群から浮かび上がってきたのは、パドンがカナダ社会に抱いていた怒りだったようです。もちろんそれは、著者自身が感じている怒りと同様のも…

山内一豊と妻千代(中島道子)

さしたる戦功もないのに「土佐24万石」を得た山内一豊の成功の鍵は、賢妻と言われる千代の存在にあったように、巷間伝えられています。「千代=賢妻」説をを決定的にしたのが、大河ドラマの原作ともなった司馬遼太郎さんの『功名が辻』ですが、本書はそこ…

遠い部屋、遠い奇跡(ダニヤール・ムイーヌッディーン)

パキスタン人の父親とアメリカ人の母親の間に生まれ、両国を行き来しながら育った著者による、連作短編集です。一瞬で瓦解するささやかな幸福や、西洋にかぶれた新しい世代の憂鬱などを描いた作品群から浮かび上がってくるのは、1970年代から2000年…

善き女の愛(アリス・マンロー)

ノーベル賞作家マンローは、2012年の『ディア・ライフ』をもって執筆生活からの引退を表明していますが、未邦訳だった作品もまだまだあるのです。本書は1998年出版の短編集。2001年に出版された『イラクサ』の直前の作品にあたります。 「善き女…

天切り松闇がたり5(浅田次郎)

警察署も刑務所も出入り自由の、かつての大泥棒「天切り松」が、署長も警官も囚人も聞き惚れる「昔語り」をするという、ある意味シュールな人気シリーズの、9年ぶりの新作です。2・26事件や溥儀と嵯峨浩の婚姻を描いた『前巻』の続編ではなく、少々遡っ…

アカペラ(山本文緒)

2001年に直木賞を受賞した後に、鬱で休業していた著者の復帰作品とのこと。こういう小説を書かれる方は、「生き辛い」のかもしれません。良くも悪くも、著者の人柄を感じることができるような作品でした。 「アカペラ」 しょっちゅう行方不明になる身勝…

女がいる(エステルハージ・ペーテル)

ハンガリーの作家による、すべて「女がいる」ではじまる97編の断章からなる作品です。 「僕を愛している女」と「僕を憎んでいる女」がいるのですが、彼女らは同一人物かも別人かもしれないし、恋人か母親かもしれないし、最後の頃になってくると性別すら定…

虚言少年(京極夏彦)

やる気のない、モテない、冴えない少年たち。人気者でも、イジメっ子でも、嫌われ者でも、秀才でもなく、何の特徴もない3人の少年たちには、ひとつだけ共通点がありました。それは、「オモシロイことが大好き」ということだったのです。しかも彼らが狙うの…

ちょっとピンぼけ(ロバート・キャパ)

沢木耕太郎さんの『キャパの十字架』を読んで、本書を再読してみたくなりました。 「世界一有名な戦場カメラマン」であるキャパの手記ですが、本書には写真論などいっさいありません。それどころか、ハンガリー生まれのユダヤ人であるキャパがアメリカに移住…

侍女の物語(マーガレット・アトウッド)

近未来のアメリカ東部。キリスト教の原理主義者たちが起こしたクーデター政権の下では、徹底した「管理社会」が実現していました。中絶、産児制限、性病の流行、原発事故、化学・細菌兵器、有害廃棄物などによって急落していた白人種の出生率を増加させるた…

金魚生活(楊逸)

中国東北部でレストランに勤める林玉玲は、夫と8年前に死別した51歳の未亡人。まだまだ綺麗な玉玲に言い寄ってくる店主を袖にしたせいか、レストランの水槽で飼っている高価な金魚の世話という、面倒な仕事をおしつけられています。 そんな玉玲が日本に渡…

上海ファクター(チャールズ・マッキャリー)

文庫版で439ページある作品ですが、ほとんど最後まで事件は起こりません。途中で登場する女性殺し屋の存在なども、その時点では意味不明の存在ですし。全てが明らかになるのは最終版、主人公の怠惰な人生が何年も何年も過ぎてからなのです。 アメリカ情報…

C&Y地球最強姉妹キャンディ(山本弘)

地質学者の母を持つ天才小学生の竜崎知絵は、偶然出会った、冒険家の父を持つ野生派小学生の虎ノ門夕姫に助けられます。怪盗アラジン三世の一味に車で誘拐されそうになった知絵を、ローラースケートで追いかけた夕姫が助け出したのです。 怪盗アラジン三世は…

アイガー北壁・気象遭難(新田次郎)

1978年に出版された山岳短編集です。こうして見ると、山岳小説のドラマは「遭難」にあることがよく理解できます。1964年に出版されたアルプス紀行『アルプスの谷アルプスの村』の際に着想を得て書かれた作品も含まれています。 「殉職」 40年以上…

キャパの十字架(沢木耕太郎)

ロバート・キャパの「崩れ落ちる兵士」は、世界で一番有名な写真かもしれません。ひとりの共和国軍兵士が銃弾に倒れる瞬間を切り取った写真は、内戦で崩壊したスペイン共和国の運命を象徴するものとして、「聖性」を帯びるほどに扱われてきました。 しかしこ…

輝天炎上(海堂尊)

「バチスタシリーズ完結編」であった『ケルベロスの肖像』を、『螺鈿迷宮』の劣等医学生・天馬と、桜宮一族の生き残りの立場から描いた作品です。 桜宮市の終末医療を担っていた碧翠院桜宮病院の炎上事件から1年後。碧翠院の最後を看取ることとなった天馬は…

トニオ、天使の歌声(アン・ライス)

カストラート歌手・トニオを主人公として、18世紀イタリアを舞台に繰り広げられるロマン小説です。『ヴァンパイア・シリーズ』や『魔女の刻シリーズ』で有名な著者による作品ですが、本書は異界の登場人物が活躍するゴチック・ロマンではありませんので、…

紋ちらしのお玉(河治和香)

「紋ちらし」とは、抱かれた男の家紋を刺青として体に彫ること。柳橋芸者の玉勇=お玉は、忘れられない男たちの家紋の刺青を千個集めるという「千人信心」の願をかけているのです。 次代は幕末。芸者であるお玉は、身分や立場の違いを軽々と越えてしまいます…

マリアが語り遺したこと(コルム・トビーン)

息子はなぜ十字架にかけられたのか。息子を救うことはできなかったのか。息子を亡くした母が繰り返し自問することは、世の東西を問わず等しいようです。たとえその女性が、「聖母」と呼ばれる存在であっても。 小アジアのエフェソスに逃れて静謐な日々をおく…