りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2015-02-01から1ヶ月間の記事一覧

2015/2 低地(ジュンパ・ラヒリ)

5年をかけて書き続けられた高田郁さんの「みをつくし料理帖」が、第10巻で完結しました。人物描写に深みがないとか、ご都合主義とかの批判も聞きますが、著者の人柄がにじみ出てくるような作風は嫌いではありません。 1位はジュンパ・ラヒリさんの10年…

我慢ならない女(桂望実)

著者が3年前に見た「不機嫌そうな女性の肖像画」からインスピレーションを得て、書かれた小説だそうです。 本書の主人公は苦悩する女性小説家のひろ子。18歳の時に小説家を志して上京。苦しい生活の中から必死に書き上げた作品が、なんとか新人賞に引っか…

夜の国のクーパー(伊坂幸太郎)

大江健三郎さんの『同時代ゲーム』を意識して書かれた小説だとのこと。確かに、「村人の半数を戸籍外とするカラクリ」や「村と大日本帝国との戦争」や「不死の巨人である壊す人」など、同書の根幹をなす箇所との共通点を感じるような作品です。 妻の浮気に逆…

誇りと復讐(ジェフリー・アーチャー)

いかにも著者らしい「ジェットコースター・ストーリー」ですが、「無実の罪による収監」、「人物の入れ替わり」、「裁判での大逆転」と聞くと、既読感を持つ人も多いのではないでしょうか。 自動車修理工のダニーの運命は、雇い主の娘ベスへのプロポーズが受…

明日の子供たち(有川浩)

児童養護施設の子どもからの、「自分たちの状況を小説に書いて欲しい」との手紙に応えて書かれた小説は、なまじのドキュメンタリーやルポルタージュ以上に、その実態と問題を明らかにしてくれるようです。とりわけ、私たちのような外部者が、潜在的に持って…

ワン・デイ(デイヴィッド・ニコルズ)

大学の卒業式で出会った男女が、互いに魅かれあいながらも遠回りをして、20年後にようやく結ばれるというラブストーリー。20年の歳月が、毎年の7月15日を切り取ることで綴られていきます。アン・ハサウェイとジム・スタージェス主演で、2011年に…

泣くな道真(澤田瞳子)

王朝時代を主戦場とする時代小説家の澤田さんが、大宰府に左遷された菅原道真の再起をコミカルなタッチで書き上げました。 右大臣にまで上り詰めながら誣告によって罪を得て、大宰府権師として左遷された道真公は、絶望のあまり狂死しかねないほどの精神状態…

終末のグレイト・ゲーム(ラヴィ・ティドハー)

異色のスチームパンク伝奇SFである「ブックマン・シリーズ3部作」の最終巻です。第1巻『革命の倫敦』の火星探査機爆破事件(1888年)と、第2巻『影のミレディ』のエメラルド仏陀事件(1893年)の後、欧州世界では「覇権を巡る暗闘(グレイト・…

影のミレディ(ラヴィ・ティドハー)

スチームパンク伝奇SFともいうべき「ブックマン・シリーズ」の第2巻です。第1巻の『革命の倫敦』から5年後、舞台はフランスへと移りました。 『シャーロック・ホームズ』の世界をベースとした第1巻に対し、本巻のベースは『三銃士』の世界。もう、時代…

革命の倫敦(ラヴィ・ティドハー)

19世紀末、ヴィクトリア朝のもとで世界帝国を作り上げた英国を舞台に繰り広げられる冒険活劇物語ですが、この世界は少々変わっています。バベッジやテスラによる技術革新によって、オートマタやシミュラクラと呼ばれる機械人形が存在しているのみならず、…

シングル&シングル(ジョン・ル・カレ)

1999年の作品ですから、プーチンの首相就任前。まだ新生ロシアが混迷していた時代が背景です。 物語の展開は難解です。「神の視点」を入れて、展開を整理してくれればわかりやすくはなるのですが、そうしないのが作風ですからね。全能ならざる個人の視点…

天空の犬(樋口明雄)

南アルプスを舞台にした山岳レスキュー小説です。新人のときに東日本大震災の被災地で救助活動を行って心に傷を負い、山岳救助隊に配置されたハンドラー・星野夏実と、相棒の救助犬であるボーダーコリー・メイの成長物語。 本書の山岳救助隊は警察組織との設…

蛇行する月(桜木紫乃)

北海道の湿原にある高校を卒業した年の冬に、就職先で出会った20歳も年上の和菓子職人と駆け落ちした順子。故郷を捨てた極貧の生活を「幸せ」と言い続ける順子のもとを、それぞれに転機を迎えた女性たちが訪れます。誰もが悩みや孤独を抱え、北の大地でも…

シャーロック・ホームズ最後の解決(マイケル・シェイボン)

第二次大戦末期、イギリスの片田舎サウス・ダウンズに住む養蜂家の老人の名前は最後まで明かされませんが、もちろん晩年のホームズです。89歳となって身体も衰え、記憶が失われることを恐れている老人は、ドイツから亡命してきたユダヤ人少年とオウムを巡…

老いの入舞い(松井今朝子)

退場する寸前に舞台の真ん中に引き返し、もう一度華やかに舞うことを「入舞い」というそうです。タイトルの「老いの入舞い」は、年寄りが最後に花を咲かせようとうすること。でも、「麹町常楽庵」に住む大奥出身の尼僧・志野は、まったく年齢不詳です。本書…

天国の囚人(カルロス・ルイス・サフォン)

1945年に始まる『風の影』と1917年に始まる『天使のゲーム』に続く、「バスセロナの忘れられた本の墓場」シリーズ第3弾です。全部で4部作とのこと。 本書の時代は1957年。『風の影』の主人公であったダニエルは22歳の青年になって愛妻ベアと…

古書店主(マーク・プライヤー)

セーヌ河岸の露店で古書を売る「ブキニスト」となるには、パリ市の許可が必要で、現在250人ほど。世界文化遺産にもなっている存在だとのこと。 知り合いの老ブキニストが暴漢に連れ去られたのを目撃した、元FBIのアメリカ大使館の主人公ヒューゴーは、…

はじめからその話をすればよかった(宮下奈都)

はじめて単行本となったエッセイ集です。日々の雑感、子育ての感想、ちょっとした体験、そして小説を書く理由などの短いエッセイが81編も詰まっているのですが、どれを読んでも宮下さんらしさを感じます。ところどころに登場する、一目惚れから始まった旦…

ぬけまいる(朝井まかて)

2014年の直木賞を受賞した朝井さんのことは、まったくノーチェックでしたので、とりあえずすぐに借りられる作品を1冊読んでみました。 もう若くはない年齢になった、幼馴染の3人娘が、伊勢神宮への「抜け参り」の旅に出る東海道中記。十返舎一九の『東…

ニコライ遭難(吉村昭)

1891年(明治22年)。日本訪問中のロシア皇太子・ニコライが、警備担当中の警察官・津田三蔵に斬り付けられた大津事件を描いた作品です。ロシアの報復を恐れる行政が、犯人の死刑判決を強硬に求めたのに対して、大審院院長の児島惟謙らが司法の独立を…

ウエストウイング(津村記久子)

はじめは「生命力に欠ける女のグダグダ小説」と思ってしまった津村さんの作品の良さを、最近になって理解できるようになってきました。「普通の人々」が「普通に暮らす」ことを阻むもの、それは他者の悪意やエゴであったり、悪天や不運であったりするのです…

みをつくし料理帖10 天の梯(高田郁)

「みをつくし料理帖」シリーズがついに完結。つる屋の後継料理人と、ご寮人さんの芳が掴んだ幸福については、既に前巻で決着がついていましたが、それ以外の問題も全部解決。卑劣なライバル登竜楼との競争も、ご寮人さんの息子・佐兵衛の濡れ衣も、あさひ太…

荒神(宮部みゆき)

宮部さんの「怪物小説」です。といっても、「ウルトラ・シリーズ」や「ゴジラ」のような物理的な怪獣ではありません。描写される容貌や破壊力は怪獣クラスですが、本質的には妖しい存在なのです。どちらかというと『百物語シリーズ』と近しい物語なのでしょ…

低地(ジュンパ・ラヒリ)

『その名にちなんで』以来、10年ぶりとなる第2長編は、やはりインドに生まれてアメリカで暮らすようになった移民の物語でした。 カルカッタ郊外の低地で生まれ育った、内向的な兄スバシュと活発な弟ウダヤンは、1歳違いながら双子のように仲良く育ち、優…